もちろん、お客さんにはろう者の方もいれば、手話ができない人だってウエルカム。手話と筆談でやり取りを満喫するラウンジでのひと時は、私も凄く楽しくて!
そして、こんなお店もあるらしい。昨年の12月27日より東京都文京区(東大赤門前!)にて営業している「Sign with Me」は、“空間を彩る手話を魅せるカフェ”。
スタッフさんは全員手話ができ、カフェ内の公用語は“日本手話”と“書記日本語”と決められている。そして、なんと壁全体がホワイトボードになっているそう。これを利用することで、手話ができなくても広々と筆談でやりとりができるのだ。
へぇ~、どんな雰囲気なんだろう? そこで、実際にカフェにお邪魔してきました!
店内に入ると、確かに壁一面がホワイトボードが設置されてる。ボードには多くのメッセージが記されているし、お店の奥を見るとお客さんと店員さんが手話を用いて和やかに会話している。うん、なんか雰囲気がいいなぁ。
ところで、なぜこのようなカフェを始めようと思ったのか? 店長である柳さんに、筆談でお話を伺った。ちなみに柳店長の前職は、障害者を対象とした就労支援だそう。
「現在、56人以上の社員を抱える会社は1.8%の障害者雇用が法律で義務付けられています。昨今の企業はCSR(企業の社会的責任)遵守意識が高いのですが、結果としては“採る”だけで終わっているのが現状です。で、雇用された障害者はどうなっているかというと、隅っこでぽつんと佇んでいるような感じです」(柳店長)
これでは、働き甲斐が全く感じられない。結果、障害者のモチベーション低下につながり、離職していくパターンが多いという。だからこそ企業サイドには「やはり障害者は使えない」という印象が残り、“負のスパイラル”に陥ってしまうのだ。
そして、もう一つ。“社会的弱者”といわれる人でも実は社会環境によって抑圧されているだけで、環境さえ整えれば実力は発揮できる場合が多いそうなのだ。
「ただ、『自立している』とされている障害者はたくさんいますが、その実、“持つ者”(健常者と言われる人たち)の都合範囲内での自立がほとんどなんですね」(柳店長)
持つ者の都合範囲とは、単純にいえば福祉制度のことを指す。また、その福祉制度内だと「してあげる、してもらう」という依存関係になりやすいし、それはその依存関係の中でしか自立出来ないという意味でもある。これでは本質的解決にはならない。また“持たない側”がイニシアチブを取って社会環境を整えていくことが大事にもかかわらず、やろうとする人は少ない。これを柳店長は「福祉漬け」と呼んでいる。
だからこそ障害者当事者である柳店長が起ち上げた、このカフェ。ここは、まさに“持たない側”がイニシアチブを取った場所である。
そんなこのカフェ、主な来客層は?
「“手話カフェ”というからには対象は手話者中心というイメージが先行すると思いますが、実際は手話を使えない方が8割以上です」(柳店長)
このカフェでは、店内にいる人を“ろう者”と“聴者”ではなく、“手話者”か“非手話者”で線引きする。
その理由。手話者がその社会的価値を発揮する場所は、今の世の中では限られてしまっている。それは聴者でも同様で、手話を使える場所はほとんどなく、力を発揮できる場がないのだ。そこで、同カフェでは“手話者”(手話で会話する人)と“非手話者”(筆談で会話する人)というくくりで考えることにした。
「私には3人の“手話者”の子供がいます。この3人が大きくなって社会に出た時、のびのびと価値発揮できる環境を整えるのは親の役目だと思っています」(柳店長)
なるほど。だからこそ、このカフェのスタッフは全員“手話者”にしたのだ。こうして、環境を整えた。では、その中で“ろう者”の割合は?
「先ほども言いましたが、当店では“手話者”というくくりで採用しています。
……と色々質問してきましたが、ここはまったりできるカフェ。しかも、ゴロゴロ具材が入った“食べるスープ”が売りらしい。そういや、お腹が空いたな。せっかくだから、私もスープを注文してゆったりしたひと時を満喫してみたいと思います!
カウンターに着くと、スタッフさんが手話だけでなく大きく口を開いてその動きでメニューを解説してくれる。私は手話ができないのだけど、全部伝わる。まるで問題なし!
今回、私がオーダーしたのは男性からの圧倒的人気を誇る「東京ビーフシチュー」の白胡麻ご飯とサラダ付き(780円)。これが、かなりボリューミーで! ご飯もサラダもたっぷりだし、味も程よく薄口。癒しの場の食事としてもピッタリで、全てが心地良いです。結果、言うまでもなく完食。
普通に居心地が良くなければ、それは“自立”とは言えないと思う。特別な感情を抜きにして、ぶらっと立ち寄ってもらいたいカフェでした。
(寺西ジャジューカ)