そして、ここでは他じゃなかなかできない経験を味わえる。東京都文京区にある「手話ラウンジ きみのて」では、女性スタッフと手話を交えながらお酒を楽しめるそうだ。
実はこのお店、健聴者の子もいれば難聴者の女の子も在籍中。そして全員が手話を駆使することができるという。そんな彼女たちの接客を、ここでは受けられるのだ。
非常に斬新、かつ興味深いというか。そこで、「きみのて」オーナーの佐藤さんに伺ってみました。このようなお店をオープンしたきっかけは?
「私自身、飲み歩くのが好きだったので『自分でも飲み屋をやりたい!』と思っていたんです。あと、以前より菅野美穂さんが好きだったんですが、彼女が出演したドラマ(『君の手がささやいている』)で手話をしている姿が可愛かったんです。それを見て『難聴の人たちは、飲む時にどうしてるんだろう?』という疑問もわいてきました」
思い立ったが吉日。それからは、スタッフになってくれる女性をミクシィやアメーバで募集し、昨年の10月6日にめでたくオープンとなった。
せっかくだから、私も遊びに行ってきました! 店内に入ると、手話でやりとりしているテーブルもあれば、声による会話で盛り上がっているテーブルも。
そう。このお店は、手話ができない人でも楽しむことができる。
では、実際にどのようなお客さんが来店することが多い?
「来られるお客さんの6割は難聴の方です。普通のラウンジに行ってもあまり面白くなかったろう者の方でも、ここだとやり取りがスムーズなので楽しまれているみたいです」(佐藤オーナー)
他には、手話を勉強中の女の子の来店も。実際に耳の聞こえない人との交流を持ちたくて訪れるそうだ。
では、逆にお店のスタッフについて。どうしてこのラウンジで働こうかと思ったのか? オープン時から在籍している難聴者の愛さんに、筆談を交えて伺ってみた。
「3年位前から、この職業に憧れていました。そして、実際に10店舗くらいの面接にも行ったのですが、すべて落ちてしまっていたんです。そんな時、友人がこのお店の存在を教えてくれました」
愛さんは雑誌『小悪魔ageha(アゲハ)』の愛読者であり、また“筆談ホステス”の影響もあって、この職業に関心を持つように。このお店があることによって、スタッフの中にも救われた人がいるのだ。
また、同店には色んなタイプのキャストがいるので、会話の方法も様々。手話や専用の筆談器はもちろん、ゆっくり話せば口の動き等で言葉を読み取って会話が成立する子もいる。難聴者でありスタッフの美嘉さんによると「お客さんも、わかりやすく大きい声で喋ってくれます」。
そして必見なのが、毎日22時から開催されるプチショータイム。
まず、キャストの女の子たちが用意のために店の奥へ。そして店内の明かりが消えると、流れてくるのはAKB48の『会いたかった』。そして出てきた女の子たちが、曲に合わせてダンスを披露! そのダンスも、歌詞を手話で表現しながらのオリジナルダンスである。
また、一青窈の『ハナミズキ』が流れると愛さんと美嘉さんが登場。愛さんが歌声を聴かせ、美嘉さんが歌詞を手話で皆に伝えるという、感動的なパフォーマンスが。
……という、盛りだくさんの楽しみ方ができる「手話ラウンジ きみのて」。お客さんの様子も、すっかりリラックスしつつお酒と会話を楽しんでいるみたい。見たところ、いかにも常連といった難聴のお客さんの姿も見える。
そして、やはりお酒を飲むとノリも良くなっていくらしい。健聴者スタッフのshow‐co(ショウコ)さんによると「私は手話を勉強中なんですが、お酒を飲むと段々フィーリングで分かり合えるようになっていきます」。
同じく健聴者スタッフのキヨミさんいわく、「飲むと、手話が饒舌になる人もいます。それは、健聴者のお酒の酔い方と一緒だと思います」。
お店を体験した私の感想としては、超ハイテンションの子もいれば、しっとりと色気のある雰囲気で接してくれる子もいる。キャストの子それぞれのタイプが異なっていて楽しい。
しかし、そこに共通していることが一つ。手話で言いたいことを伝えようとする、その仕種が実に可愛いのだ。独特の新鮮な魅力がある。
「色んなタイプの女の子を揃えようと思っています」という佐藤オーナー。妙な壁を作らず、手話ができてもできなくても誰もが楽しめるお店を目指したいと話している。
(寺西ジャジューカ)