旅行が好きでしょっちゅう飛行機に乗っている人でも、国際線ビジネスクラスというと、いまだ高嶺の花に感じている人は少なくないかも。

だが、最近はビジネスクラスを利用したツアーも多く、マイレージ特典を使ったアップグレードもポピュラー。
ビジネスクラス客向けの空港ラウンジで家族連れを見かけることも珍しくない。

ビジネスクラスの進化も著しく、各社が工夫を凝らした新しいシートを導入。ひと口にビジネスクラスといっても、座席の特徴はエアラインによってちがい、ホテルの部屋を選ぶのに似た楽しみもある。たとえば、個室風のシートならプライバシー重視派のビジネスマンに最適だし、隣り合った座席はファミリー利用に便利、といった具合。

そんな多彩なシートのなかでも、ビジネス利用に加えて、カップル利用にぴったりとウワサなのがデルタ航空の新シート。いったいどんな乗り心地なのか? 実際に乗ってきた。


デルタ航空のビジネスクラス「ビジネスエリート」の新シートはボーイング747-400型機に順次導入されている。現在のところ、成田-台北線、成田-アトランタ線、成田-デトロイト線、成田-ハワイ線などに導入済み。今回は距離も手ごろな成田-台北線を利用した。

1階席と2階席にある「ビジネスエリート」の座席数は計48席。すべての座席がフルフラットベッドシートで通路に面しており、隣を気にせず出入りできるのもありがたい。
「睡眠中のお客様をまたいで通路に出るという時代は終わりました」
とは同社のグレン・ホーエンスタイン副社長の弁。


また、特徴的なのは写真のようなヘリンボーンスタイルと呼ばれるV字型に配したシート。窓側のシートは窓向きに配置されており、1席ごとの独立タイプ。1階席中央の2列のシートは斜めに向き合うようになっており、カップルにオススメなのはこの席だ。

往路は私も中央シートの1つに席を取った。普通に座っている分には、ほかの乗客の顔はまったく見えないし、存在も気にならない。だが、ひょいと顔を出せば、すぐに隣がのぞきこめる。
その近さがなんだか嬉しい。背中に枕でも当ててお互いが少し背を正せば、会話にするのにちょうどいい感じになる。まさに、絶妙な角度と距離なのだ。

ならば逆に、知らない人が隣に来ると微妙? と思いきや、そうでもない。今回は取材ゆえ、残念ながら単身。フライト中、隣には見ず知らずの男性が座っていたのだが、まったくといっていいほど気にならなかった。
2つのシートがV字型に配されているため、2人の顔はちょうど“V”の字の2つの頂点にあたり、物理的にもそれなりに距離がある。出張だけど上司とずっと隣はちょっと……なんて人にもぜひオススメしたい。

もちろん、カップルなら隣り合った席で手でもつなぎたいという向きもあるだろう。だが、せっかくのビジネスクラス、2人の世界に浸っているだけではもったいない。たとえばウェルカムドリンクで乾杯し、機内食を一緒に楽しむまでは2人で、あとは各自思い思いに過ごすのも一案だ。この際、ゆったりシートに身をゆだねて見たかった映画に号泣したっていいし、フルフラットベッドシートで爆睡するのも悪くない。
ヨダレを垂らした寝ぼけ顔は見せないほうがお互いのため。必要なときに必要なだけコミュニケーションが可能なこのシート、まさに大人のカップル向けといえる。

ちなみにシートは長さ約2メートル、幅約52センチ。スペースは広々としていて、そのまま座ったら私の足は到底オットマンに届かなかったほど。リクライニングはボタンひとつで簡単に調節でき、操作も簡単。機内食は味がよいのはもちろんのこと、洗練されたテーブルウェアも美しく、ワインとのマリアージュも秀逸。
食事を終え、シートでくつろいでいたら、あっというまに台北着。降りるのが惜しいと感じたフライトは久々だ。

復路は2階席のビジネスエリートを利用したのだが、こちらはプライベート感にすぐれ、ビジネスマンに最適。そういえば、往路取材時には同クラス内に子連れファミリーもいたのだが、声などまったく気にならなかった。ある程度の隣の席と距離がある分、会話のボリュームや量も自然に調節されるのかも。

今年10月には全16機のシート入れ替えが完了し、同社のボーイング747-400型機はすべて新シートになるという。ビジネスクラスは料金がネックになりがちだが、台北のような短距離路線なら、比較的利用しやすい。カップルなら記念日旅行などに奮発してみてもいいだろう。

空の旅が快適なら、その後の旅も楽しくなるはず。デルタ航空の新シート、今度はぜひカップルで乗ってみたい。
(古屋江美子)