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10月5日に開催された長州力‐高田延彦トークショー、いよいよ最終編です。話題はビートたけしから「Mさん」にまで及び……。



【TPGって、なんだったんだ?】
――TPGどうでした? たけしプロレス軍団。
長州 知ってますよ、僕。
――いや、知ってるのは知ってますよ! あれ、暴動にまでなりましたから。
(場内笑)
長州 あれは、ちょっと白けたんですよね。北野武さんの方も場違いなところに立ってるような、受け皿の方が手際が悪いというか、なんか戸惑ってましたよね。
――たけしさん自身はTPGという流れに関して全く無関係で、ただラジオでギャグを言ってただけなんですよ。
「新日本に“マスク・ド・メロン”ってマスクマンを出そう」って、本気でそういうことを考えてて。で、その受け答えをしてたのが、当時ハガキ職人をしていたベン村さ来って奴なんですよ。一介の素人がたけしさんと猪木さんの間に入ってやってたくらいズンドコなんですね。高田さんなんかもどうですか? 高田さんもたけしさんのこと凄く尊敬されてて。
高田 お互いに良くなかったよね、あの雰囲気が。受け入れる側も準備できてなかった。
で、忘れもしない。リングに立ってるたけしさんも「なんで俺、ここにいるんだ?」みたいな。お互いが上手く噛み合ってないというのが充満してたから。
――で、当時のたけし軍団のタカさん、ダンカンさんなんかが中心になってこれやってるんですけど、二人が全くプロレスの事よく知らないんですよ。で、僕は居候だったんですけど、その家の電話番号がTPGの事務所なんですよ。で、俺が「ハイ、TPGの事務所です」って受け答えしながら「これは、どうなっていくんだろう?」と思ったら案の定、大暴動になりましたけれど。

長州 そのTPGっていうのは新日本サイドから出たの?
――猪木さんですよ。
長州 あぁ。だから、手際が悪かったんですよね。
――猪木さんが描いたのは、もっとアメリカンなスタイルのプロレスを描いていて。有名人を含めた。
長州 あぁ、ニューヨークのマジソンみたいなことをやろうと……。

――でも新日本の人たちも、知らないですね?
長州 ああ、わかってないですよね。だから控え室入ってきて、ビックリしましたよ。
――なんか、ラジオ(ビートたけしのオールナイトニッポン)で……。
長州 僕がサイン求めたとか?
――そうそう(笑)。
長州 それは無いですよ(笑)。
――そりゃ無いですよねぇ! なんか、有り得ない感じがしましたもん。

高田 海賊男と、どっちが先?
(場内爆笑)
――TPGの後ですね。
高田 後か。懲りずにやったんだろうね。
(場内笑)

【後楽園ホール「顔面蹴撃事件」】
――あの試合では、高田さんはフォールを奪われる当事者ではあるんですけども、前田さんがあそこで長州さんを襲うっていうか、ああいう事態になっていくという予感はあったんですか?
長州 (遮って)俺の方は、そういう予感っていうのは感じてましたよね。やっぱり、ピリピリしてるから。会場入った時の雰囲気で、何かわかりますよね。

――不意を突かれたわけですよね。
長州 (高田に向かい)あれはアキラ、マジで蹴ったよな? 俺、いっつもアキラに言うんだ。「お前、本当に蹴っただろ? 今なら許してやるから」って言うんだけど、「いや、違う」って言うんだよ。
(場内笑)
高田 マジかどうかは、本人に聞いてくださいよ。
長州 でも、アキラは言ったよ? 控え室に帰ってきたら、高田が「前田さん、よくやりましたね!」って言ったって。
高田 言うわけないじゃない!
(場内大爆笑)
高田 予兆みたいなものがあったんだよ。長州さんも感じてたんでしょう、ピリピリを。その日はポツンと一人でいたの、Mさん。
――「Mさん」っていうのは、マサ斎藤のことですか?
(場内爆笑)
高田 まぁ、推測で。
――ミスター高橋ですか?
高田 推測に任せます、それは。
――Mさんですね?
高田 とにかくね、いつもと違う雰囲気は間違いなくあった、それは。ピリピリしてる、一人でね。
長州 でも、それが本来の新日本。ベイダーなりがハズれて、今度は違う遺伝子(リキプロとUWF)同士の闘いが。その頃のファンはコアだから、「これからどうなっていくんだ?」っていう。間違いなく、対立構造にはなってましたよ。
――じゃあ長州さんは一方的な被害者っていうか、眼底骨折までになりますよね。「プロレス道にもとる」と前田さんはここからクビになっていきますが、選手として長州さん自身はこういう試合は有り得ると思っていたんですか?
長州 そこんとこは、難しいですね。アキラが正直に喋んないから。
(場内笑)
長州 でも、高田は「よくやった」ってアキラに。
高田 言うわけないじゃない、そんなこと! 最後、俺悪者ですか?
――「高田は大人だ!」って言われるんですから、そこは。高田さんが、最後に試合を終わらせて。
長州 冗談ですよ(笑)。
――冗談を、何度も言わないでくださいよ!
(場内笑)
高田 みんなにインプットされるよ!
長州 でも、あの雰囲気がまた新しい新日本のイメージになり……。
高田 あのヒリヒリしたイメージが継続していければ、いいものをファンに見せることができたんだけど、別の意味であそこでバッサリ中断することになっちゃったじゃないですか。

【新生UWFを「Mさん」と起ち上げた高田】
――この蹴撃事件後、新生UWFを高田さんは「Mさん」と共に作っていくと……。で、すぐに大ブームになりましたもんね?
高田 ええ、そうですね。なんとかブーム。
――UWFブーム。
高田 ええ。何ででしょうかね、あれは? 我々もね、「何で?」って言ってたんですよ。チケットも早く売れちゃうし、我々が想像している以上にみんなが応援してくれる熱が高まっちゃってるし。逆に戸惑っちゃってね。
――ちょうどこの年に猪木さんが参院選に当選して、マッチメイカーなど新日の主体に長州さんはなっていくわけですから、UWFという運動体は仮想敵に映るわけですよね。興行合戦もするわけだし。そういう中で「UWFに実態そのものは無い。山本、Uはお前なんだよ」と。
長州 「Uは山本」……? 疲れちゃう、山本の名前が出ると(苦笑)。
――そうですか(笑)。
長州 まぁマスコミと、その頃のUの勢いですよね。そこに山本が乗ってって、色んな煽りを週刊誌の中で。だからU自体は、新日本と絡まなくてもやっていけるっていう。ヘタすれば、新日本が領域を侵されるんじゃないかっていうくらいの勢いはありましたからね。そこから(U内部分裂の噂が上がったのは)半年くらい後なのかな? これは僕の一個人のアレだけど、「Uの中が上手く行ってないのかな?」っていう感覚はありましたよね。僕もピリピリはしてたんですけど。
――不愉快そうでしたよね、マスコミのインタビューはね。
長州 「これは有り得ない」って、頭で決めちゃってるから。でも、何たって興行会社ですからね。「これ(Uとの対抗戦)に勝るものは、絶対に出てこない」という感覚はありましたよね。で「触れるか、触れないか」ってところまで行くのは、しんどい作業でした。
――当時、触るつもりは無かったですか?
長州 無かったというか、触ることはできないと思ってました。有り得ないだろうって。
――新生UWFの不協和音が聴こえてる段階で、新日本の現場監督としては食指は動いた、と。
長州 不協和音かどうかは、僕は全くわからなかったですけど。
――結果的には、不協和音ですよね。全盛期にバラバラになってましたもんね、UWFは。高田さんは、その頃どうでした? 神輿の一番上ではなく“中間管理職”って言い方してましたけど。若手は若手で違うところを向き、フロントは違うところを向き、その間に入った感じですよね。
長州 大変だよなあ。大変な思いしたと思いますよ。
高田 あの、自分たちは何やってんのかなと思うよね。内へ内へ意識が行っちゃうから、新日本がやってることっていうのは全く我々には見えなかった。
――新生UWFの時はね。現象としては大ブームが起きてる、けれども選手へのリターンはそんなにあるわけじゃない。会社への不信感は募っていく、選手とフロントが離反していくっていう状況ですもんね。
高田 まぁ皆さんも御存知だろうけど、時間の問題だなっていう。結果は、ああなったけどね。

【高田、Uインターで神輿に乗る】
――Uインターで、高田さんは名実ともにトップになる。高田さんご自身は決してそんなことを思っていたわけではなく、トップになった。
長州 でも、高田はなるべくしてなった。
――(長州は高田のことを)そう仰ってますよね。
長州 よく言うんだけど、やっぱりプロレスの場合は、高い波っていうのは一人しか乗れないです。間違いなく。僕たちの業界は、高い波にみんな乗れると思っているし、でも乗れる人間は一人しかいないです。

【Uインター「一億円トーナメント」をブチ上げる】
――で、聞きにくいんですけど「一億円トーナメント」が。その交渉の間、高田さんと長州さんがやり合ってた印象が我々の中にはあるんですけど、実質的には直接交渉は何も無いんですよね?
高田 直接は、何も無い。
長州 あれは、何で「一億円を返せ」って言ったの?
高田 ……返せ?
長州 なんか、新日本に請求してなかったっけ?
――請求はしてないと思いますよ。突然、一億円請求する会社無いですよ(笑)。
(場内爆笑)
高田 長州さん、それは事実無根です(笑)。
――優勝賞金が一億円です。突然一億円を請求するなんて、オレオレ詐欺でも無いと思いますよ(笑)。だけど、受けなかった。
高田 どこも。
――どこも受けなかった。長州さんは、やっぱり相手にしなかったですかね?
長州 いやいや、とんでもない。あの時、ミヤザキ君か。ミヤタ君か。あ、ミナト君か。
高田 宮戸?
――全部間違ってますよ(笑)。
長州 新日本に来たんですよね。だったら、巌流島で5対5でやろうって言ったんです。その方が、早く結果が出るし。
――結果的にはこれも実現しなくて、後に「ドームを抑えろ!」っていう全面対抗戦になっていくわけですけれども。高田さん、この頃はUインターもこれをやるしかなかった?
高田 やるしかなかったですね、ええ。
長州 高田から、新日本に電話かかってきたんですよね。
高田 しました。
長州 それで、それに僕が出て決まったんですよね。汚い言葉も使ったんですけどね。
――それは、その前ですよね?
長州 いや、電話でも言ったんです。
――え、電話でも「墓にクソぶっかけてやる」って言ったんですか!?
(場内爆笑)
長州 とにかく、これはもう逃しちゃダメだっていう。興行で。
高田 お互い、利害関係がガチっと一致したってことだよね。

そんなこんなで、120分。宴もたけなわではありますが、トーク終了の時間が来た模様。今まで、のべ5分しか会話したことのなかった両者が、実に2時間もの濃密なトークを展開してくれたのです。なんて、濃密な夜!

そして、最後にサプライズ。会場に、特別ゲストが来ているらしい。まずは「ドラゴンスープレックス」のテーマに乗って、ピンク色のブルゾンを羽織ったユリオカ超特Qが登場! 例によって、数々の至芸を壇上で披露してくれました。
しかし、これはあくまでフリである。もう一人、特別ゲストがいる。花束を抱えた美女が、会場奥から姿を見せたのだ。誰? 実はこちら、長州のご長女らしいのだ。こっちが本当のサプライズ!
お二人には事前には知らせていなかったようで、娘の姿を確認するや異常なまでにドン引きする長州力。花束を渡されるも、なかなか受け取ろうとしない……。が、最近でも二人で旅行をするほどの仲睦まじさが、この父娘にはあるそうだ。そんなプライベートを想像するのも、楽しいではないか。

「何が起こるかわからないマット界」、それを実感させる一夜でありました。
(寺西ジャジューカ)