みゆきは最初から明るかったわけではない
「映画 スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!」の見どころのひとつに、みゆきの姿、演技のバリエーションがある。いつものみゆき、5歳の幼いみゆき、キュアハッピー、ウルトラキュアハッピー。
福圓 印象に残っているのは幼いときのみゆきです。「スマイルプリキュア!」がはじまったころに大塚隆史監督から聞かれたことがあります。「みゆきって、最初から明るい女の子だったと思います?」と。
――なんて答えたんですか?
福圓 最初から明るかったわけではないかもしれないですねって。みゆきは明るくて、言うセリフが優しいんですよ。ということは人の気持ちが思いやれる子。そうしたら大塚監督は、「僕もそう思う、引っ込み思案な子だったんじゃないかな」って。
――なにかきっかけがあって、いまみたいな明るくて笑顔をよく見せる性格になった。
福圓 「童話から元気をもらうことはあるかもしれない。だけど、人との交流がなければ、人間は変われない。だから、絵本を通して友だちと仲良くなれたというのがすごく嬉しいことだった。
数ヶ月前だったら、ただのセリフになっていた
5歳のときのみゆきはひとりぼっち。よく地面に絵を描いて遊んでいる子だった。
「仲良くなるには笑顔がイチバン!」。ニコちゃんという女の子が主人公の絵本にはそう書かれていた。そのとおりに笑顔をつくってみると、ほかの子たちが話しかけてきた。友だちができて嬉しいみゆき。だけどその絵本は、途中からページが破れていて結末がわからなかった。
「そうだ! 私が続きを書いてあげる! 約束ね!」
絵本のなかのニコちゃんは微笑んだような表情でみゆきを見つめている。
福圓 みゆきはなんとか結末を書こうとするんですけど、何度やってもうまくいかなくて、途中でやめてしまう。笑顔が大切ってことを知って、優しい子になれたけど、でもニコちゃんは……? というお話です。
――今回の映画はかなりみゆきのことを掘り下げていますね。
福圓 こういうことに傷つくんだ、こういう弱い部分があるんだ、でもがんばることは忘れない。そんなみゆきについて、ちょっとでもわかってもらえたらうれしいです。
――みゆきとニコちゃんの、お互い大好きなんだけど、それだけではない関係性を演じてみてどうでした?
福圓 思いのほかつらかったです。大人の目線から見れば、5歳の子が絵本の続きを書けなくても仕方ないよねって思うけど、ニコちゃんはそれだけみゆきのことが好きだった。だから裏返っちゃったんですよね。
――ニコちゃんは「笑顔なんてなくなればいい」と絵本の世界で襲ってくる。
福圓 みゆきはニコちゃんから「大嫌い」って言われたことにすごく傷ついている。実際私自身もアフレコのときに、「みゆきなんて大っキライ! 笑顔のみゆきなんてもっとキライ!」と言われたとき、すごく痛くて……。
――セリフだとわかっているけど。
福圓 うん。大キライってセリフはこんなにきついものなんだなあって。絶対言っちゃいけないなと思いました。
みゆきと同化しています
「プリキュア」映画恒例のミラクルライト。劇場で配られるライトを振ると、ピンチになっているプリキュアたちを応援することができる。
福圓 ウルトラキュアハッピーは、最初、「慈愛に満ちた母性のようなプリキュア」と言われました。相手を倒すんじゃない、愛で包むんだと言われて、大きい! 難しいー! って。みゆきちゃんはいつも元気で明るいけど、一番芯のところにあるものは、慈愛なのかもしれないなあって。
――変身シーンもすごく綺麗でした。
福圓 ウルトラキュアハッピーの変身シーンは見どころのひとつだと思います。最後は一面お花畑になって、ニコちゃんに謝りに行くシーン。相手を傷つけちゃったけど、真剣に、笑顔で謝る。私はあなたにこれだけのものをもらった、だから大好きって。素敵な絵でした。
「プリキュア」の取材をしてきて、気付いたことがある。
「私たちプリキュアは~」声優さんたちは、感情が入ってくると自分のことを語るとき、そう言う。そうか、自分がプリキュアなのか。福圓さんもそうなのだろうか。
福圓 そう、そうなんですよ!
――やっぱりありますか。
福圓 あります! 長い間声優の仕事をしてきたけど、こんなことははじめて。キャラクターに対しては、最後に声を入れる作業をする、あとはほかのスタッフさんと共同でつくる、というのが私の信条だったはずなのに……、みゆきとは同化しちゃって。
――ではこれから星空さんとお呼びして……。
福圓 あはは。でも、ほんとうにみんなそうなんです。6人でいろいろなことをやってきたねーって思い出話ができるくらい。
――いろいろなこと?
福圓 運動会もやったし、文化祭もやったよねー、ってキリがないんです。もう、作品のなかのことなのか、自分たちが体験したことなのかもわからなくなるくらい。
――プリキュアと一体化してきてる。
福圓 ほかのメンバーと別のインタビューを受けているときに、「いままでで一番好きな回はなんですか?」って聞かれたとき、(井上)麻里奈ちゃんが泣き出してしまって。「運動会のとき、やよいちゃんを勝たせてあげたかったんだー!」って。
――なおだ。
福圓 そうそう。あなたいま、麻里奈ちゃんじゃなくてなおちゃんですね? って(笑)。
これじゃ足りない!
そういえば以前、福圓さんがツイッターで、「ミュージカルで子どもたちがプリキュアを応援している姿を観て、涙が止まらなかった」と言っていた。応援してくれている子どもたちを実際に見て、演技のやり方が変わったりはするのだろうか。
福圓 しました! ミュージカルを観てびっくりでしたよ。だって、大人になってからだと、人を全力で応援することってなかなかないじゃないですか。
――あんまりないですよね。子どもたちは本気ですもんね。
福圓 キャンディが「みんな、プリキュアを応援してクルー! ハッピーがピンチクルーー!」って。キャンディと一緒に応援してくれたあとも、「ハッピーがんばれー! 負けないでー!」って、ずっと。
――子どもたちの声援って、キャーとかワーイじゃなくて、ギャー! ですもんね。
福圓 声が枯れそうになるくらい叫んでいるんですよね。私、収録したときはこんなに応援もされることを想像もしなかったです。その場で私も応援されている気になっちゃった(笑)。ミュージカル中で、「みんなありがとー! パワーをもらったよー、気合だー!」って、キュアハッピーのセリフが入ってくるんですけど、こんな言い方じゃ足りない! と思いました。
――子どもたちの応援に対して。
福圓 全然でした。映画では、ミラクルライトで応援してもらってウルトラキュアハッピーになります。元気だけじゃない慈愛に満ちているキャラクターなんですよ。
――ある種母親のような優しさも持ち合わせている。それを中学生の少女として演じなくてはいけない。難しい役どころですよね。
福圓 なので、いつものキュアハッピーみたいに、簡単に「ありがとー!」とは言えないんです。最初に考えたときは自分の内側に響くように「みんなありがとう」と言っていました。でも、ミュージカルでの応援を思い出して、ちょっと声を張って、劇場で応援してくれている子どもたちに届くように言うようにしました。
(加藤レイズナ)
黒田成美監督インタビューはコチラ。前編。後編。