日本や韓国は、一般的に「単一国家」と呼ばれている。しかし、日本の場合は沖縄やアイヌの人々が存在しているから、単一国家と言い切ってしまうのは相応しくないのかもしれない。


一方、日本から約3600km離れたベトナムは「多民族国家」として知られている。私たちが“ベトナム人"と聞いてイメージするのは「キン族」と呼ばれる民族で、人口の85%を占める。残りの15%は、何と53もの少数民族で構成されているのだ。この少数民族の人々は、山岳や高原地帯に住み、独自の文化・言語を形成している。しかし、他のベトナム人と全く関わりがないというわけではなく、生活する上で協力しあっている。

彼らも、生きるためにはお金が必要だ。
そのために自分たちの伝統工芸品をベトナム人に売り、ベトナム人はそれらを外国人観光客に売るという流れが出来上がった。ホーチミンでは難しいが、中南部のニャチャンやダラットには少数民族が点在しているため、それぞれの民族衣装をまとった人々が街を歩く姿を見ることができる。
きっと日本人には、大変珍しい光景として映るだろう。

もし、日本が多民族国家だったら
多民族国家を日本に当てはめたとすると、寺のすぐ近くに大きな遺跡があり、ヒンドゥー教のシヴァ神やガネーシャ象を祀った祠堂があるようなものである。そこに毎日お参りする見かけない人々がいる。自分たちは手を合わせてお参りするのに対し、彼らは土下座のように地にひざまずいて、頭を下げる。
見なれない衣装を着て、知らない伝統舞踊を踊っている。

こちらが話しかけても、言葉が通じない。でも、同じ日本人なのだ。同じ国民でありがながら、彼らはまったく異なる言葉・文化を持つ。日本にいる限りは体験できないことだろう。しかし、これらはニャチャンやダラットではよくある光景なのだ。


ベトナム少数民族、実は53より多い?
さらに、少数民族の数も53よりもっと多いのではないかとも言われている。2012年には、新たに発見された民族を54番目の少数民族として認定するかどうかの会議が政府内で行われた。今後もまだ発見されていない民族が見つかる可能性は十分にあるだろう。同じ国なのに、自分たちの知らない場所で、知らない文化を築く人々がいるかもしれない。そうと考えるとロマンがあり、ベトナムという多民族国家がとても魅力的に思える。

少数民族と交流できるツアーも
現在は外国人観光客向けに、少数民族の暮らしを見ることができるトレッキングツアーもある。
首都ハノイから約250km北上したところに、中国と国境を接するラオカイという町がある。そこからさらに南西に約30km下ると、「サパ(SaPa)」という山間部に到着する。ここではモン族、ザオ族、ザイ族などの少数民族の人々と交流できる。それぞれ異なる衣装に身を包んだ女性たちの、素朴な笑顔が魅力的だ。

彼女たちは手作りの小物やセーターなどの服飾品をサパの市場に卸すために、しばしば山岳地帯から降りてくる。生活のためにとベトナム語も覚えている。
外からみる限り、少数民族と大多数のベトナム人(キン族)はうまく共存しているようだ。

多民族国家を深く知るには、まず文化の多様性を楽しむことだろう。ベトナム旅行を計画している人は、是非ホーチミンだけではなくサパにも足を運んで、少数民族の人々に日本の文化も伝えてみてはどうだろうか。
(古川 悠紀)