2月17日(月)放送「失恋ショコラティエ」第6話(CX)は、今のご時勢にピッタリの話でありました。

つい先日、オリンピックのフィギュアスケートで金メダルをとった羽生結弦が、金メダルという頂点に立ったにも関わらず、「悔しい」と自分の足りない部分を反省し、テレビのインタビューで「今やりたいことは?」という質問に「サルコーの練習」と答えるという、なんとも真摯な姿勢を見せました。


奇しくも「失恋ショコラティエ」では、こんなセリフが。
主人公・爽太(松本潤)が、えれな(水原希子)が失恋してしまい、男性から愛される女子力に不足していると自虐モードになっている時に、こう言うのです。

「上に行こうとしている人間はみんなそうだよ」
「ステップアップすればするほど すげえ人いっぱい見るようになって どんどん自分が小さく見えてくる」

燃えるセリフですねー。これは「萌え」ではなく「燃え」であります。
ラブストーリーですが、感情だけではなくてものすごく理知的で、凛としたところは、男の人におすすめです。

羽生くんの「悔しい」発言も、こういうことですよね。

今の自分で満足してはいけない。結果出した時点で、それはもう過程であって。常に自分を超え続けていくしかないのです。

凡人にはなかなかできないことですけれど、気には留めておきたいものです。

爽太を演じている松本潤は、おそらく、羽生魂に似た考えをもって仕事をしているのではないでしょうか。
だからこそ、爽太が、女にいいように流されているだけの、女子用愛玩キャラになっていないのです。


中には、女子向け作品で、愛玩キャラに徹してしまう俳優やタレントもいます。
ところが、松本潤はアイドルという自覚を持ち、女子向け映像にもたくさん出演しているにも関わらず、常に毅然としています。
イヌか猫かと言ったら猫っぽい。主人にサービスすることもあるけれど、完全にはなつかない感じ。

「失恋ショコラティエ」はともすると、魔性の女サエコに振り回され続ける男の話になってしまいそうなのですが、それを、前述の凛々しいセリフなどで、立て直していくところに魅力があります。

バジルやセロリなどの香草を隠し味に使ったチョコレートのように、感情と理性を溶かして極上な詩に仕上げたような原作のドラマ化という難題にトライしている「失恋ショコラティエ」の妙味は、原作以上に、甘さと苦さの葛藤です。


漫画は、作家がひとりでコントロールできるので、甘さと苦さのバランスがみごとなのですが、ドラマだと、わかりやすさが求められるため、甘いか苦いか白黒はっきりしてしまいがちです。本当は、はっきりしないほうが面白いのですが。

わかりやすさとわからなさの葛藤の結果、ドラマ版は、前回の「失恋ショコラティエ」第5話のレビューでも書きましたが、コワさが強調されています。甘さでも辛さでもなくコワさです。
魔性の女に憑かれた男の怪談の様相が、第6話では、ますます強くなりました。それはこの部分です。


主人公爽太(松本潤)が、10年以上思い続けたサエコ(石原さとみ)のことを、ついに諦めようと決心し、えれな(水原希子)と正式につきあおうとする、その前向きな清々しいシーンで、サエコが爽太のためにオシャレしているカットがインサートされるのです。
その表情のコワさと言ったらありません!

石原さとみが、あのぽってり唇をツヤツヤにして、自信満々に鏡に向かって微笑むカットは、笑ってしまうほどコワかった(褒めています)。

これは原作漫画にはない表現です。
単に、石原さとみのシーンを増やそうという配慮だったり、このままえれなとハッピーエンドにはなりませんよと、いう次週に引っ張る演出だったりしたことが、たまたま、冬のホラーに見えてしまったのかもしれませんが、女の手のひらで純粋な男がご奉仕し、かつ葛藤するドラマになってしまいそうで、危険です。

確かに、爽太は女性にとって、こんな男子いてほしーと思う存在です。メナードのコマーシャルの癒し男子ビューネくん(メナードは「失ショコ」のスポンサーです)みたいな感じなところがあります。
6話の例をあげてみましょう。

失恋したえれながクローゼットに隠れて泣いているところを発見。その時、肩をなでなでしれくれます。
それから、ソファで、床に座って、今度は膝をなでなで。
やり過ぎず、やらなさ過ぎずの、自然感がいい。

次に、失恋したえれなの代わりに泣いてくれます。

自分が泣くのも浄化ですが、他人が泣いてくれるなんて、自分の失恋がドラマに昇華される最高のリアクションです。

それから、すぐ仲直りしてくれます。
第5話で、お店の従業員・薫子(水川あさみ)に「嫌いだよ」と手厳しいことを言ったけれど、引きずらず、すぐに「頼りにしてるんだ、これからもよろしくね」と言って、手を握ってくれます。

こんなありがたい存在・爽太を、松本潤がみごとに演じていますが、やっぱり、どこか
メナードのビューネくんのようなご奉仕キャラとは一線を画しているところを感じます。
意志の強さを感じる眉や、目尻のシャープさのせいでしょうか。たぶん、精神性だと思いますが(目が少年漫画のように燃えている)。それが、原作漫画の精神と共鳴します。

片思いも失恋も、最高のショコラを作るイマジネーションに昇華させる。
自分の意志で人生を選択している男として、爽太が輝いていく「失恋ショコラティエ」。

魔性のサエコとどう闘い、仕事も恋も金メダルを獲得できるのか(柔ちゃんかよ)、後半戦が楽しみです。(木俣冬)

第一話はコチラ
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