また新しいトンデモダイエットかい、やれやれ。

“原始人食ダイエット”と聞いてそう思ってしまうのも無理のない話です。
流行っては消えていく数多のダイエットを、一向に消え去る気配の見えない腹周りの憎々しい贅肉をつまみながら見送って来たあなたにとって、今さら新しいダイエットと聞いてもにわかに飛びつくわけにもいかないのはむしろ当然のこと。ましてや「原始人」ですから!

でも今年ブレイクを見せそうな予感のこのダイエット、凡百のあだ花ダイエットとは一線を画していそうです。一体どういうダイエットなのでしょうか?

「人類が農耕を始める前の食事です。たとえば日本ですとお米を作り始める前の食事ということになります」
答えてくれたのは自らこのダイエット(=食生活)を実践する編集者の松島倫明さん。
カロリー神話に対する挑戦 「原始人食ダイエット」とは?
原始人食ダイエットとは「パレオ・ダイエット」とも呼ばれ、文字通り人類が農耕を始める前の食生活をベースにしている。低炭水化物食ダイエットの一種とも言えるが、好きなだけ食べても太らないという今年注目のダイエット

「現在の日本人は通常カロリーの50〜70%くらいをお米などの穀類から摂っているのですが、農耕が始まる前は20%〜30%程度だったと言われています。現代人は炭水化物を摂り過ぎているのでさまざまな問題が生じてきている、もう少し減らせば遺伝子的にも人間の体にとって自然な食事になるという考え方に基づいています」

そう聞くとますますトンデモ感を抱いてしまう人もいるかも知れませんが、実はこれ「パレオ・ダイエット(原始人食)」と呼ばれており、アメリカではすでにかなりポピュラーになっています。
2013年の米Google社のダイエット関連検索ワードでは堂々の第1位に輝いたほどです。

では具体的にどういう食生活なのでしょうか。

「基本的には穀物を極力食べないようにし、加工食品を避けることが中心になります」
そう答える松島さん、実は日本で起きつつあるパレオ・ダイエットブームに大きく関わっているのです。昨年12月に発売以来、好調な売れ行きでパレオ・ダイエットへの理解に大きな役割を果たしている『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』(NHK出版)の版権を、著者のジョン・J・レイティ医学博士の絶大なる信頼のもと獲得し日本に紹介したのが松島さんでした。
カロリー神話に対する挑戦 「原始人食ダイエット」とは?
パレオ・ダイエットなど原始人の生活様式を参照することによって、人間が本来持つ能力や快適さを快復できるとする、ハーバード大学メディカルスクール、ジョン・J・レイティ医学博士とジャーナリストのリチャード・マニング氏の最新刊。食事の他に睡眠や運動、瞑想などについても言及されている

“パレオ・ダイエット”を『Go Wild』からかいつまんで説明すると、
1)穀物を極力食べない
2)砂糖(特に精製糖)は避ける。ジュースももちろん!
3)加工食品は極力食べない
4)ナッツや脂肪豊富なチーズなどは多めに摂る(但しトランス脂肪はダメ!)
5)できるだけ多様な食物を摂る
6)特に食べる量は制限しなくてもいい
ということになります。


ということは「はじめ人間ギャートルズ」ばりに骨付きの肉をガンガン貪ってもいいということ? という質問が来そうですが、そこが少しだけ厄介なところです。詳しい科学的裏付けは本書を読んで頂きたいのですが、トウモロコシや大豆の飼料で育った牛ではなく、牧草で育った牛を食べることを推奨しています。まあ、原始人だから全てがオーガニックで育ったものというのは当然といえば当然ですが……。

「日本で厳密にやるのは難しいので、あまり無理する必要もないと思います。外食の時にご飯やパン、麺類を食べないで済ませるのはとても難しいですし、すべてオーガニックだとお金もかかってしまいます。肉は加工品を避け、焼き鳥や焼き肉など、その場で調理してくれるものを食べるようにしています」

このパレオ・ダイエット、実は私たちが持っている常識を覆す理論をベースにしているのです。


一つは人間のエネルギー源は本来炭水化物主体ではなく、脂肪であるという主張です。普段私たちは自分たちが何をエネルギーにしているか意識することはあまりありませんが、長距離ランナーにとってはとても重要なことです。その彼らはレース直前にカーボローディングと呼ばれる炭水化物祭りのような食事をし、エネルギーを蓄えるのです。

しかし『Go Wild』ではエネルギーは脂肪を利用すべきとし、自ら長距離ランナーである共同著者のリチャード・マニング氏も低炭水化物のパレオ・ダイエットをしたことによって、 カーボローディングなしでいくらでも走れるようになったと書いています。そして現在、フルマラソンよりも長いウルトラマラソンを走るランナーの中でもパレオ・ダイエットが広がってきているので説得力があります。

もうひとつはカロリー神話に対する挑戦です。
従来の常識では体重の増減は摂取カロリーと消費カロリーの足し算引き算で決まるというのが通説でしたが、少し前にネットで21日間毎日6000キロカロリーを食べ続けたのに太らなかった男性のことが話題になりました。この男性の食生活はまさにパレオ・ダイエットに基づいたものだったのです。彼は逆にカロリーを抑えた炭水化物中心の食事にしたら太ってしまったのです。

常識さえ揺るがす原始人食ダイエットことパレオ・ダイエット。実際のダイエットの効き目はどうなのでしょうか?

松島さんは以前からずっとランニングをされてきたアスリートですが、運動後はついつい飲み食いをしすぎてしまい、パレオ・ダイエットを始める前は70〜74kgの間を行き来する状態でした。それがパレオ・ダイエットに近い食生活にしたのに伴い体重が66kgまで落ち安定しているということです。
特にウエスト周りがすっきりしたと強調されていました。
カロリー神話に対する挑戦 「原始人食ダイエット」とは?
編集者・松島倫明さん『Go Wild』著者のレイティ博士の前作『脳を鍛えるには運動しかない!』も担当し、博士の全幅の信頼を得て『Go Wild』の版権を獲得する。他にも『Born to Run』『フリー』『Makers』などのヒット作を連発する注目の編集者

同じような証言が『Go Wild』の中でも二人の著者からもされています。そして彼らと松島さんが口を揃えて言うのが、決して食べるのを我慢しているわけではなく好きなだけ食べているということでした。原始人のように豪快に好きなだけ食べて、引き締まったボディーでワイルドにいく(=Go Wild)ことができるということなのですね。

「実はパレオ・ダイエットの実践はGo Wildの世界への“引き金”にすぎないかも知れません」
(後編:「原始人のライフスタイルで、野生の心身を取り戻せ!」につづく)
(鶴賀太郎)