「人妻の下着盗んで捨てる滝」

穂村「わざわざ滝まで行くなんて……滝への捧げ物みたい」
堀本「滝は夏の季語。滝の一句として見ると新鮮」
長嶋「せっかく盗んだのに捨てるなよ!『かぶる滝』ならいいけど」
千野「盗んでから捨てるまでが早いと思う」
米光「俺は盗んでないからね」

5人の中に、この句の作者がいる。
いったい誰なのか?
男だらけの噂の句会「東京マッハ」潜入レポ「人妻の◯◯盗んで捨てる滝」
会場の「浅草東洋館」。数々コメディアンを輩出した由緒正しき劇場。かつての「浅草フランス座」ではビートたけしが修行していた。

6月7日に浅草東洋館で行われた公開句会「東京マッハ」での一コマ。作者を伏せた状態で俳句を選評する「句会」をライブで行う人気イベントだ。今回で14回目。この日も会場は約240人の観客で埋まった。

登壇したのは、東京マッハのレギュラメンバー・千野帽子(文筆家)、米光一成(ゲームデザイナー)、長嶋有(小説家)、堀本裕樹(俳人)と、ゲストの穂村弘(歌人)を加えた5人。

演芸場である浅草東洋館らしく、舞台上の”めくり”に「浅草マッハ」の文字が踊る。
トラック野郎をBGMに、メンバーが一人ずつ肩で風を切ってゆっくりと登場。穂村だけ照れながら普通に歩いて入ってきた。
男だらけの噂の句会「東京マッハ」潜入レポ「人妻の◯◯盗んで捨てる滝」
壇上の5人。めくりの「浅草マッハ」は開場前に急遽作られたもの。「浅」の漢字が間違っているハプニングも。

開演前、観客には俳句が書かれた「選句用紙」が渡される。本日の登壇者5名が6句づつ作ったもので、計30句。しかし、誰がどの句の作者かはわからない。
男だらけの噂の句会「東京マッハ」潜入レポ「人妻の◯◯盗んで捨てる滝」
選句用紙。登壇者5人×6句=30句が並ぶ。この時点では誰が作者かわからない。

この30句から「選句」をする。
特選を1句、並選を6句、逆選(文句をつけたい句)を1句選ぶ。選句用紙は回収され、特選2点、並選1点で集計される。登壇者も選句を行うが、自分の句は選ばないルール。

選句が終わったら「披講」。登壇者が一人ずつ、選んだ句を読み上げる。

全員の披講が済んだら「選評」。
ここからが東京マッハの本番。作者を明かさぬまま1句ずつ感想を言い合う。なぜこの句を選んだのか、なぜ選ばなかったのか。特選にした人と逆選にした人のバトル。しらを切りづつける句の作者……。

どんな選評が繰り広げられたのか、ダイジェストでお伝えします。


「噴水の鍵噴水に濡れている」


5人中4人が選び、本日の最高点となった句。穂村のみ選句しなかったので、消去法で作者と判明。東京マッハお約束の王冠をかぶることに。
男だらけの噂の句会「東京マッハ」潜入レポ「人妻の◯◯盗んで捨てる滝」
最高得点を獲得し、王冠をかぶる穂村さん。

「非常に涼しげ」「カギを示すだけのシンプルさなのに物語がふくらむ」「リフレインがきれい」と全員から高評価。
噴水の鍵については「金属が濡れる感じ」(千野)、「ゲームっぽい、ポリゴンの鍵」(長嶋)、「噴水にブクブク潜って回して……乱歩の『幽霊塔』みたいな」(米光)と、それぞれの鍵のイメージが異なっていたのが印象的だった。

作者の穂村は「一票も入らない悪夢を見たのでホッとしました……」と胸をなでおろし、「これは以前女の子だらけの句会で作った『噴水の鍵をあげるとささやかれ』が元で、男4人に向かないと思って変えた」というエピソードを披露。
「女の子だらけの句会!?」「男4人に向かない!?」と反応するメンバーたちだった。


「朱色ではない印影や梅雨の闇」


今回はあらかじめ「色」と「動物」という2つのお題が提示されていた。朱・影・闇とダークなイメージを連想させる句。

堀本「色で見せてくる句。紙の種類や質など、シチュエーションを考えさせてくれる」
米光「古い書影の印影の色。『犬神家の一族』のような」
穂村「『朱色ではない』というのが思わせぶりで、押し付けがましく感じた」
男だらけの噂の句会「東京マッハ」潜入レポ「人妻の◯◯盗んで捨てる滝」
東京マッハ・レギュラーメンバーの千野帽子(左)、米光一成(右)

作者は長嶋。名乗ったあとで「これは以前女の子だらけの句会で作った『銀行の判子あげるとささやかれ』が元で……」と穂村の発言を真似た。

「速そうだ苦そうだテントウムシダマシ」


米光「子供っぽくて、自然っぽいリズムにひかれた僕がいた」
堀本「『だ』を重ねてリズムを出している。かわいい句」
穂村「『そう』『そう』『トウ』のリズムもいい」
男だらけの噂の句会「東京マッハ」潜入レポ「人妻の◯◯盗んで捨てる滝」
東京マッハ・レギュラーメンバーの長嶋有(左)、堀本裕樹(右)

「テントウムシダマシ」の本当の名前は「オオニジュウヤホシテントウ」。
ダマシとついているけどテントウムシの仲間。本当に速くて苦いのかで意見が割れる。

長嶋「歩くのは速くないじゃん。あ、飛ぶのは速いよ。苦そうもわかる」
千野「黄色いからフルーティな感じかもよ」
長嶋「でも黄色いピーマンって苦いよ」
千野「ちょっと、穂村さん呆れてマイク置いてますよ

テントウムシダマシは28個の点がある、という説明に米光「点が10個だからテントウムシなんじゃないの?」と発言し、総ツッコミを受ける場面もあった。正しくはお天道様に向かって飛ぶことから「天道虫」が由来である。(作者は長嶋有)

「ソーダ水クラスのみんなには内緒」


客席の点数で1位となった句。作者は米光。実は穂村にあてた「挨拶句」だった。

米光「『クラスのみんなには内緒だよ☆』っていう『魔法少女まどか☆マギカ』の有名なフレーズがあって、ほむらちゃんが大好きな鹿目まどかのセリフ。穂村さんを前にほむらちゃんって言いたかった

「ジョバンニの味する夜の氷菓かな」


長嶋「ジョバンニの味ってなに?」
千野「ガリガリ君ジョバンニ味新発売みたいな?」
米光「これカンパネルラが食べてるだろ」
作者の穂村弘「カンパネルラだと字余りだったので……」

「3Dメガネ右目が青や夏の君」


穂村「寝ぐせとか訛りとか、ちょっと変なところがキュートに感じる」
米光「句を読んでる本人が3Dメガネをかけて彼女を見てると思った。こっちの目閉じると君が青、みたいな」
千野「その彼女はメガネを外しても立体なの?

作者は長嶋。とある企画のため3Dメガネを集めており、この日もいくつか持参。「右目が青って世界的に決まってるんだよ」「みんなでかけよう」とメンバーにかけさせていた。
男だらけの噂の句会「東京マッハ」潜入レポ「人妻の◯◯盗んで捨てる滝」
3Dメガネをかける堀本さん。「似合う!」と好評。

■「選評の多様さ」と「座組のバランス」

「いかに良い句を作るか」よりも「いかに面白く選評するか」が句会のメイン。東京マッハは「選評の多様さ」が見どころで、どんな球でも打ち返す安心感がある。メンバーの座組もよく、お笑いに例えるならツッコミ(千野)、ボケ(長嶋)、天然ボケ(米光)に加え、俳人の堀本が控える。どんなタイプのゲストがきても場が成り立つ。絶妙のバランスがある。

打ち上げでもメンバーは「演芸場だったから前説があってもよかったね」「(選評のとき)点を入れてない2人が残ったら、どちらも『俺が作者だ』って言い出すのどう?」とアイデアを出しあっていた。果たして次回はどうなっているのか?


ちなみに僕の特選は「熱帯夜りすぢやなかつたぐりとぐら」(穂村作)。熱帯夜に頭がもうろうとしているところに子供に絵本を読んでとせがまれて、あーあのリスのやつね、と適当に返すも、子供に「ぐりとぐら」だよ!とツッコまれるところまで想像したのだった。一票も入ってなかったけど!

(井上マサキ)