
一方、佃製作所の社内もなかなか足並みが揃わない。営業部・江原(和田聴宏)に経理部・迫田(今野浩喜)、技術開発部の真野(山崎育三郎)は部品供給には反対。特許使用契約を結べば、働かずして確実に金が入ってくる。わざわざリスクを冒してまで部品供給にこだわる必要はないというわけだ。かつて「いまのあなたには夢も希望もない」と妻に離婚届を突きつけられた男が、今度は社員に「あなたの夢にはついていけない」(大意)と突き放される。なんとも皮肉な状況なのだ。
佃航平は空気を読まないのか、読めないのか
「決定事項なんですか?」「社内の反対を押し切ってやってもうまくいかないんじゃないですか」と、口々に不満を述べる若手社員たち。ところが、佃は彼らを帝国重工のテスト対策チームに任命する。帝国重工・財前部長(吉川晃司)が部品供給を断るため、佃製作所を訪れたときもそうだったが、航平はたびたび“空気を読まないリアクション”で意表をつく。

対策チームに参加した江原ら若手社員は、帝国重工の調査チームに小馬鹿にされまくった結果、闘志に火がつく。「部品供給がいいとか悪いとか、そういう問題じゃない。これは俺たちの問題だ!」「町工場の意地を見せてやろうぜ」と張り切り、帝国重工のムチャぶりに応える。
反発していた若手社員が泣いた理由
江原に、反対派の自分をなぜ抜擢したのかと聞かれ、航平はこう答えている。
「それだけお前らがこの会社のことを本気で考えてくれているってことだろう? お前らなら必ずやってくれるって信じてた。これからも佃製作所のことよろしく頼むぞ」

航平の言葉を聞いた江原は泣き出す。泣く気持ちもわかる。ここまで手放しで信じてくれる雇い主も珍しい。こんな上司はなかなかいない。でも、広い世の中にはどこかにいるかもしれない。そんな夢を見させてくれるのも池井戸潤ドラマの十八番だ。
佃航平は社長と研究者どちらが向いているのか
第1話では「もう社長は研究者じゃない。経営者なんです!」と、経理部長の殿原(立川談春)に叱られた航平。第4話でも、宇宙科学開発機構で同期だった三上(吉見一豊)に「お前はやっぱり経営者より、研究者なんだよ」といわれていた。ところが、回を重ねるごとに“社長の器”を感じさせる場面が増えている。
例えば、真野がわざと、“不合格品”を帝国重工への納品物のなかに混入したのがわかったとき。

「ルーズヴェルト・ゲーム」との違い
あんまりなできごとで、どう対応すればいいかわからなかったとも考えられる。でも、これまでも、航平は取引先に食って掛かることはあっても、社員に対して感情の赴くままにいらだちをぶつけるようなことはしていない。会社の業績が思わしくないのも、融資をうまくとりつけられないのも基本的に「社長である俺が悪い」というスタンス。
これはドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」の青島社長(唐沢寿明)が、何かにつけて「野球部を廃部にする!」「大規模リストラを敢行せよ!」と号令をかけたのと対照的だ。企業規模の違いもあるし、航平は精神論に頼りすぎのようにも見える。でも、どちらが愛すべきキャラかといえば、圧倒的に航平ではないか。しかも、案外タフなので、多少のトラブルに巻き込まれても、安心して見ていられる。

さて第5話ではいよいよロケット編が完結。燃焼実験はうまくいくのか。
(島影真奈美)