
『下町ロケット2 ガウディ計画』池井戸潤/小学館
バドミントンのシャトルと佃製作所の深い関わり
数話にわたってすれ違ってきた娘・利菜(土屋太鳳)と改めてゆっくり向き合った佃(阿部寛)。そこで利菜のバドミントンにかける思いを聞いた佃は、「このたった一つのシャトルにも、熟練の技術が使われているんだ」とバドミントンのシャトルについて突然語り出す。「俺は何話してるんだ」というセルフつっこみもあったが、気になってしまったので少し調べてみた。するとかつてバドミントンのシャトルに関する特許裁判が実際にあったという記述が見つかった。
羽立化工株式会社という企業の「沿革」によれば、争ったのはこの羽立化工とイギリスのカールトン社。ドラマ内で佃が言及していたのは水鳥の羽根を使ったシャトルのことだが、こちらはプラスチック製シャトルについての特許裁判だ。1956年からはじまった裁判は1961年、和解に至ったそう。「和解は結果としては勝利と同じであった」という記述は、第2話でナカジマ工業と和解した佃製作所を思い出させる。余談だが、この特許裁判について社長が「先の戦争を彷彿させる日英の戦いになりました」とコメントしているのが味わい深い。
いよいよ深まる佃と財前の絆
『下町ロケット』第5話に話を戻そう。
佃たちは燃焼実験に挑むが、なんと開始早々異常が発生してしまう。すぐさま検証がはじまるが原因が見つからない。「佃製のバルブに問題があったのだろう」と言う富山(新井浩文)らに対して「バルブには問題がなかった、バルブ以外も検証させてほしい」と頼む佃たち。
異常発生時、近田(近藤公園)が鬼の首をとったように「検証!」と叫んだ瞬間急に大きくテロップが出たのには少し驚いた。衝撃を伝えたかったのだろうか……。
不眠不休で検証を続けるが、まったく手がかりが得られない佃たち。残り数時間というとき、久々に語り合った娘の「私のこと信じてくれる? だったらちゃんと見ててね」という言葉を思い出し、もう一度バルブを徹底的に調べることを決意する佃。バルブをまっぷたつに切ると、内部に何かがすれた跡が発見され、それをきっかけに原因は帝国重工のフィルターにあることが判明した。
「私たちがここまで来れたのは、なによりもまず、財前さんのお力添えがあったからです」とまっさきに財前の名を挙げる佃。確かに、財前がいなければずっと早い段階で佃製作所の部品供給の夢は頓挫していただろう。佃にとって財前は最大の理解者であり、財前もまた佃に絶対の信頼を置いているのだ。その後、最終関門である社長説得を前に佃と財前が酒を酌み交わすシーンでも、佃の「財前さん、不思議と私は、何も心配していません」「僕は、あなたを信じます」という言葉に「佃さん……」と胸いっぱいの様子の財前。この二人のシーン、いい! 財前が感極まり、二人を背中から映すカットで二人の間の「アスパラ」「おあげ」というメニューがやけに目立つのも含めて、いい!
それにしてもこの財前、吉川晃司にとっていちばんの当たり役ではないだろうか。長身で逆三角形の身体に、大企業の部長らしく、つねに仕立てのいい三つ揃いのスーツ。
できることならこの吉川をもっと見ていたい。ロケット編がもっと続いて、佃と財前がより信頼を深めていくようすをじっくり描いてくれればいいのに! とさえ思えてしまう。
突如思い出されるCOMPLEXの存在
佃製バルブの高い品質は完全に証明された。いよいよ最後のハードル、役員会だ。すべて内製化できると信じている社長(杉良太郎)に直接、佃製作所のバルブシステム供給を認めさせなければならない。このシーンの空気ときたら、『半沢直樹』最終回のあの土下座シーンに負けずとも劣らない重厚感! データも用いた冷静なアプローチに加え、社長も関わっていた7年前の失敗があったからこそ佃がハイレベルなバルブを作れたという感情に訴える説得。とうとう社長に部品供給を認めさせた瞬間、財前の顔を一筋、光るものが流れていた。涙なのか、熱演による汗なのか。いずれにせよ吉川最大の見せ場は、じつに見応えあるものだった。
帝国重工の研究所で佃に部品供給決定を報告する財前。
このすらっとした長身二人ががっちりと握手する姿、どこかで見覚えがある……。そうだ、2011年に行われたCOMPLEX復活ライブの布袋寅泰との握手だ! ここに来て一瞬だけ、ミュージシャン吉川が脳裏によみがえった。吉川も財前も向かって右だし……。第5話を見返すときには、ぜひCOMPLEXの握手姿を検索して確認してみてほしい。→参考レビュー
ロケット作りの夢を追って、がんばれ受験生!
そして半年後、佃製作所のバルブシステムを搭載した初の純国産ロケットは無事打ち上げに成功。それを種子島で佃とともに見つめていた利菜は「パパ、私もロケットを作りたい。だから、本気で慶應理工学部、受けてみることにする」と将来の夢を語る。慶應大学理工学部のFAQによると、機械工学科やシステムデザイン工学科がいいらしい。ちなみに宇宙飛行士の星出彰彦さんは機械工学科出身とのこと。利菜にはぜひこれらの学科をめざしてがんばってほしい。
さて、日本中が見守っていたこのロケット打ち上げの瞬間を、先端医療研究所でひときわ力を込めて見ていた男がいた。第4話で佃の方針に反発しテスト時に製品をすり替えて佃のもとを去った真野(山崎育三郎)だ。来週第6話からはじまる「ガウディ編」ではこの先端医療研究所が深く関わり、佃製作所が医学分野に戦いを挑んでゆく。世良公則や小泉孝太郎、今田耕司ら新キャストも楽しみだ。
(釣木文恵)