カメラを見つめて彼は言う。
たどり着いてしまったこの日を噛みしめて。

(イラスト/小西りえこ)
国民的アイドルグループ「SMAP」。そのエースとして立つ木村拓哉には、誰にも明かせない秘密があった。
彼の秘密、それは──何度もタイムリープを繰り返し、世界線を乗り越えることができること。そう、木村は「時間遡行者」であり、「世界改変者」だったのだ。
「1周目」がいつだったのか、正直はっきりとは覚えていない。
夢から目覚めるように、木村は「気が付いた」。この世界は、なにかがおかしい。叔母の応募によって入ることとなった事務所。そばで草なぎ剛が興奮して語る。
「これで永遠のアイドル・少年隊に一歩近づける! 嬉しいなー!」
「ハハッ、何言ってるんだよ剛。少年隊はもう解散状態だろ?」
「……? ちょっと、冗談にしてはフキンシンだよ、木村くん! もう少年隊はボクらにとっての先輩なんだからね!」
「えっ……」
少年隊が、解散──? 自然に、半ば無意識に唇からこぼれたその言葉は、明らかに「現在」の事実とは反していた。けれど木村は、それが「真実」であることを知っていた。なにかが、おかしい……。
その世界線での木村は、オーディションに合格はした。けれどデビューはできなかった。
はっと目が覚めた。そこはオーディション会場だった。
木村はぼんやりと、やたらと口になじんだ自己紹介と自己PRを声に出した。オーディションは危うげなく終わり、当然のように合格していた。