美少女擬人化した旧日本海軍の軍艦を集めて自分だけの夢の艦隊を揃えて楽しむ「艦隊これくしょん-艦これ-」がなお根強い人気を保っている。このゲームをきっかけに、実際の軍艦が活躍した歴史に興味を持ったという人も少なくないだろう。


そして、“もしもの世界”における太平洋戦争を、まるでシミュレーションゲームのように描き90年代に話題を呼んだのが荒巻義雄原作のSF小説「紺碧の艦隊」だ。

前世記憶を持った山本五十六が平行世界に転生


物語は、第2次世界大戦の記憶を残したまま戦死した聯合艦隊司令長官・山本五十六が並行世界の日本に転生したところから始まる。
山本(後世世界では高野五十六と名乗る)を始め、前世の記憶をもった聡明な人材が集結。前世日本が犯した失敗を反省し、緻密な作戦を練り直し、それでも避けがたい対米戦争に挑んでいく。

頑なな軍国主義に走ろうとする旧政権に対して、無血クーデターを成功させた高野や新政権の総理大臣・大高弥三郎は、本来の歴史で日本の戦況を不利にした大艦巨砲主義などの要素を排除。
その一方で、一度その先の時代を経験した強みを活かし、米軍と同等もしくは少し進んだ技術を持ち出し、前世日本にはなかった高性能レーダーの配備や電算機を駆使した魚雷戦術、果てはジェット戦闘機までも導入。

物量ではどうしてもかなわない米軍を相手に、技術を武器に対等に渡り合おうとするのだ。まさに、「強くてニューゲーム」の始まりだ。

正々堂々の真珠湾攻撃も


前世ではアメリカから「不意打ち」とそしられる事となった真珠湾攻撃を、堂々の宣戦布告を持って開いた日本海軍。高速戦艦比叡を旗艦に赤城、加賀、飛龍、蒼龍などを基軸とする空母機動部隊の活躍によりハワイを制圧した。

その後も史実では計画のみ存在したという中米パナマ運河爆撃まで成功させるなど、米太平洋艦隊を次々に駆逐。ついには日本が太平洋全域の制海権を握るまでに至る。

さらに物語は、史実では同盟国だったナチス・ドイツと敵対関係となり、地球全体を取り巻く規模で進んでいく。一方で、核兵器開発の阻止や米重爆撃機による日本本土空襲に備えた局地戦闘機の登場など奇抜な展開が次々と描かれていく。


NYタイムズでも話題になった「紺碧の艦隊」


そんな、日本人にとってはある意味痛快なストーリーにより、小説は爆発的ヒット。軍事マニア方面のファン層を取り込み巻数を増やしていった。
一方で、真珠湾攻撃のやり直しというセンセーショナルな展開は、当時のニューヨークタイムズ紙でも取り上げられるなどアメリカ世論も少なからず物議をかもした。

「紺碧の艦隊」は姉妹作品「旭日の艦隊」とともにロングセラー化。小説は2000年までに21巻が刊行され、93年からリリースされたOVAは32本が制作されるに至った。
奇想天外なストーリーが終始展開されるが、71年前の悲惨な戦争を斬新な視点でとらえた内容は、再度見返す価値のあると言えるだろう。
(足立謙二)
編集部おすすめ