日本にもいる“隠れトランプ支持者” ネットで女性や外国人を叩く【勝部元気のウェブ時評】


先日行われたアメリカ大統領選挙。多くの報道機関がヒラリー・クリントン氏優位と予想していたものの、それに反してドナルド・トランプ氏が勝利を収めたことには、かなり驚かされた人も多いと思います。


報道では「グローバル化と格差社会に対して強い不満を持った中南部在住の低所得白人男性が支持した」という点がフォーカスされていますが、ブルー・ステート(民主党が強い州)でもかなりトランプ氏が食い込んでいることを考えれば、クリントン支持のコミュニティ内にも「隠れトランプ支持者」が紛れていた影響もあったのだろうと考えられます。

つまり、本当はトランプ氏の主張に同意または共感するのだけれど、自分がいるコミュニティでは「トランプなんてありえない」という雰囲気があるために、表向き言わなかったという彼らの存在も、報道各社や世論がヒラリー有利と読み誤った理由の一つでしょう。


普段の人付き合いは穏便だけど、ネットで豹変


このような「隠れトランプ支持者」に近い人は、日本にもかなりいると考えられます。会社等では穏便に人付き合いしているものの、本当はゼノフォビア(外国人嫌悪)やミソジニー(女性嫌悪)の傾向が強く、インターネット上で「嫌なら日本から出ていけ」「非モテのフェミがわめているだけ」と書きなぐったり、「草不可避w」「草生えるw」「色々アレw」等と言ってあらゆるものをネタとして消費する「冷笑系」も少なくありません。

たとえば、ヤフコメ(Yahoo!記事のコメント欄)はその典型例でしょう。ヤフコメは汚いコメントばかりが並んでいることで有名(近年は改善傾向にある)ですが、書き込む人の層は40代(団塊ジュニア世代・第二次ベビーブーム世代)の男性がボリュームゾーンとのことで、中間管理職等の所得が低くない層も多いと言われています。そう考えると、日本の「隠れトランプ支持者」は、この世代が最も多いのではないかと思うのです。

彼らの中に隠れトランプ支持者のような人が増えてしまったのは、ちょうど社会秩序が大きく変化する時代を跨いでいる世代だからだと思います。今の40代というのはまさに「過去の栄光(という名の下駄を履いた状態)を知るものの、十分にその甘い蜜を吸うことができなかった世代」です。ですから、蜜を吸い終えたバブル世代以前の人々とは異なり、新しい社会秩序に対して“恨み”のような感情を持つ人が、おそらく他の世代よりも多いのではないでしょうか。

ミレニアル世代は異なる男女の意識


一方で、ミレニアル世代(1980年生まれ以降)は、物心ついた時からずっと不景気と言われていて、グローバル社会でのプレゼンスは右から下がりの状態ですから、「日本を取り戻す!」と言われても、ピンと来ない人も多いでしょう。

また、この世代は生まれた頃から女子差別撤廃条約が存在し、中学校に上がった頃には技術家庭科の男女共修が始まっており、就職する前には男女共同参画社会基本法がありました。さらに年齢が下がれば、男女混合名簿等もあり、ますます「女性に男性の特権が奪われた!」という感情を抱く人は少なくなるわけです。

このような傾向は米英でも同様で、実際にミレニアル世代は今回のアメリカ大統領選挙でも大半の州でクリントン氏に投票し、イギリスのEU離脱投票の際にもEUに留まることを選択しました。
これも現在の社会秩序が出来上がってから物心ついたからだと考えられます。

 

悪意が膨張されるネットの世界


もちろん世代間対立を煽りたいわけでは決してありませんし、ミレニアル世代を賞賛したいわけでもありません。ただ、ビジネスでも、政治でも、メディアでも、団塊ジュニア世代・第二次ベビーブーム世代はまさにこれから日本をリードする中核の世代になるという時期に来ています。

だからこそ、彼らのネットの“本音”や罵詈雑言や冷笑する姿勢を見ていると、ただ心配でしたかないのです。社会の成熟度が他の先進国に比して遅れているにもかかわらず、ますます懐古主義的になり、成熟した価値観や制度の輸入を停止すれば、さらに生きづらい社会になってしまう可能性も十分に考えられます。とりわけ、少子化が強烈に進む日本では、そのインパクトはアメリカ以上でしょう。

もちろんバブル世代以前の世代と比べて、団塊ジュニア世代の人たち自身が危険な世代だと思いません。ただし、インターネットという“狭い”世界は己の悪意を膨張させてしまう側面もあり、若者世代へ強く影響を与えることもできます。そのように、構造的な面に関しては危険性がかなり高いというのは事実です。

今後、日本でもトランプ氏のように「タガを外す者」が現れることが危惧されます。明確な対応策があるわけではないですが、まずは今回のアメリカの事例を教訓とし、日本版「隠れトランプ支持者」は既にかなりいるという危機感を共有することが、何より大切かもしれません。
(勝部元気)
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