およそ10年前に性的暴行容疑で書類送検され(後に示談成立、不起訴処分)、所属していた吉本興業との契約を解除されていたお笑いコンビ「極楽とんぼ」の山本圭壱氏の復帰が発表されて、物議を醸しています。当面は劇場を中心に活動を行うと報じられているものの、いずれテレビに出演する可能性もありそうです。


今年7月放送のフジテレビ「めちゃ×2イケてるッ!夏休みスペシャル」に出演し、地上波復帰をした際も批判が起こっていましたが、性的暴行を行ったとされる人物が地上波テレビに復帰することは、それ自体がセカンドレイプに該当する可能性もあり、かなり問題があると言わざるを得ません。

性暴力を起こした者のテレビ出演は原則的にNGに


もちろん加害者の社会復帰は絶対に不可欠なことではあり、それが蔑ろにされてはいけませんが、被害者のセカンドレイプ防止の観点も加味すれば、基本的に社会復帰は被害者が目にしない環境で行われるべきでしょう。

被害者と山本氏は同じ環境下にある人間ではないですが、地上波テレビに出演している人々というのは、普通に生活をしていれば否応なしに目にすることがあります。そのような地上波の特異性を考えれば、「性暴力を起こした者の出演は原則的にNG」とすることが必要不可欠です。

「反省しているからもう良いのでは?」「10年も経ったのだからそろそろ許してあげても良いのでは?」のように擁護する声もあるようですが、あくまでセカンドレイプ防止の観点から問題なのであって、本人が反省しているかいないや、許すとか許さないとかそういう問題ではありません。そもそも被害者を置き去りにして、加害者が反省しているとか、第三者が許すとか、そういう話をしていること自体が被害者を傷付けるセカンドレイプです。

また、山本氏は契約解除の直接の原因となった性的暴行事件以外でも、交際中の女性を妊娠・中絶をさせたことが発覚したことがありました。
他にも様々な余罪があるとも噂されており、断定はできかねるものの、女性観が歪んでいる確率は高いのではないかと推測されます。ですが、暴行事件が示談になったため、おそらく彼は適切な加害者更生プログラムを受けていません。それ自体が大いに問題ありです。

俳優の高畑裕太氏が不起訴処分になった件でも明らかになったように、日本の「性暴力」が「性犯罪」として認められる確率は極めて低い状態です。それにより適切な更生プログラムを受ける機会が非常に少なく、安易に復帰できてしまうことは、火種を抱えたまま新たな社会生活を送らなければならないという意味でもあり、加害者にとっても大変不幸なことです。

「嫌ならテレビを見るな」では済まされない

このような話をしていると、「被害者を擁護し過ぎではないか」という反論があるかもしれませんが、決してそうではありません。むしろ、地上波テレビの復帰のほうこそ加害者を擁護し過ぎです。


考えてみて欲しいのですが、世の中には何千という街があって、何万という仕事があって、社会復帰の道は無数にあります。にもかかわらず、何万通りという選択肢の中から、セカンドレイプを招く危険性の高い、地上波テレビ露出という「道」を“あえて”選ぶことを認めることは、加害者を過剰に擁護して被害者を蔑ろにしていると言えるでしょう。

さらに「嫌ならテレビを視なければ良いのでは?」と、被害者の行動に変容を強いるのは言語道断です。テレビを視るということとテレビに出るということ、どちらが日常生活として当たり前のことかと言えば、当然前者です。テレビに出ることを制限されたとしても、それによって日常生活が制限を受けることはほとんどありません。一方、日常生活として当たり前のことである行為の自粛を求めるのは、明らかに被害者に過度の負担を課しています。
被害を受けたほうが行動を変容させなければならないなんて理不尽です。

内輪ノリの歓迎ムードに違和感

今回の復帰に関して、単純な復帰ではなく、歓迎ムードがあることもさらに問題を大きくしていると言えます。確かに家族や友人が罪を犯したことを非難しつつも受容するということは、加害者更生をする上で重要なことではあるのですが、その過程を被害者に見せることはセカンドレイプです。また、これまでの苦労を美談に仕立て上げるような演出もセカンドレイプです。とりあえずセカンドレイプだらけだと言えます。

正直なところ、私はめちゃイケのような、ホモソーシャル(=同性愛嫌悪と女性嫌悪を基本的な特徴とする異性愛男性同士の擬似同性愛的かつ閉鎖的な強い親愛・連帯関係)的な内輪ノリ自体が、どうも気持ち悪いと感じてしまいます。
おそらく同じように感じている男性も多いのではないでしょうか? 

確かに気持ち悪いと感じることは単に個人の感想に過ぎませんが、そのような土壌があるからこそセカンドレイプが発生しやすくなります。たとえば、性的暴行の被害者より“相方”が被害者であるかのように受け止めてしまうことも、このホモソーシャルな環境が原因です。

ホモソーシャルな環境では、コミュニケーションがしばしば「生け贄理論」(特定の属性の人々を嫌悪の対象とすることで味方同士の連帯を強めようという同調圧に基づいた連帯)で成り立っています。そうなると、彼らにとっての罪とは、法や他人の人権を侵害したことではなく、あくまで自分たちの連帯を阻害したことになります。だからすぐ「相方ガー!」となるわけです。

イジメ等もこの「生け贄理論」で起こることが多いので、ホモソーシャルなコミュニケーションにモヤっと感じてしまう男性は正常だと言えます。
もし本当に山本氏を本格的に地上波テレビに復帰したら本当に残念極まりありません。めちゃイケも番組タイトルを「めちゃ×2イケてないッ!」に変えて欲しいくらいの気分です。
(勝部元気)