抜け落ちていた“長女への謝罪の言葉”
事件から一夜明けた26日、会見に臨んだ阿部氏からは謝罪の言葉が相次ぎました。一方、暴行を受けたとされる長女からの手紙も読み上げられ、すでに家族は仲直りをしていることまで明かされました。ひとまず、表向きには一件落着、といったところでしょうか。
しかし、会見を見ていて、少し気になる部分もありました。それは阿部氏の言葉遣いです。謝罪ではあるのだけれども、「巨人軍監督の名を汚して申し訳ない」だとか、「家族のトラブルで迷惑をかけて申し訳ない」という言い方に終始していたからです。一時は被害者となった長女に対する“謝罪”の言葉が一切なかったことに驚きました。
もちろん、“暴行”現場の詳細は当事者にしかわかりません。阿部氏も長女も興奮していたとしたら、自らの一挙一動を正確に記憶しているのも難しいことでしょう。長女の手紙がすべて真実だとしたら、理屈のうえでは阿部氏が謝らなければならない筋合いはないとも言えます。
それでも、娘に対して手をあげるかのような勢いで迫ったということまでは大方事実なのでしょうから、その点に対する謝罪は絶対に必要でした。会見での阿部氏の発言からは、公人としての対外的な責任を負っていることはうかがえるけれども、私人としての阿部慎之助が誰との何について申し訳なく思っているかは、はっきりとは伝わってきませんでした。
“対応を誤った長女”というストーリーへのすり替え
結局、阿部氏から発せられたのは、「年頃の娘なので温かく見守ってやってほしい」といった言葉でした。そこには、他愛のない親子のケンカから児童相談所に通報するというパニックを起こしたのも、若さゆえの過ちだったということにしたいという意図が見て取れます。つまり、いつの間にか“対応を誤った長女”という別のストーリーが出来上がってしまっているわけですね。
とはいえ、警察までもが動いたという事実は軽くありません。仮に長女の手紙にすべての真実が記されていたとしても、それでもなお、現場を確認した警察はなぜ逮捕にまで踏み切ったのでしょうか?
世間は阿部氏の言葉をそのまま受け取るほどお人好しではないことは、押さえておいたほうがいいでしょう。
家庭内の問題を軽視する日本人の危うさ
ここに、しつけの文脈があれば暴力をないものとしてしまう日本人の危うさがあらわれています。家庭内や密室での暴力を極端に軽くとらえてしまう国民性です。
今回は「殴る、蹴るといった事実はなかった」とのことですが、仮にそうしたことがあったとしても、管理や矯正の段階においてはある程度までなら許容してしまう精神的な土壌がある。
教育やしつけの文脈ならば暴力の是非を相対化してしまう空気のことです。部活動などでの体罰が後を絶たないことと無関係ではありません。
今回の阿部氏の一件に対する反応も、改めてそうした問題の根深さを浮き彫りにしたのだと思います。
以上の点から、阿部氏の言葉は、時折いびつなノイズを響かせていると感じました。責任という言葉とは裏腹に、後味の悪さだけが残ったのです。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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