あの『SR サイタマノラッパー』がテレビドラマ化されると聞いた。素晴らしい冗談だよなー、と思っていた。
が、マジだった。
「SR サイタマノラッパー」が冗談じゃなく本当にドラマ化されたので急いで3部作を振り返ってみた

先週の金曜日の深夜、『SR サイタマノラッパー~マイクの細道~』第1話が放送された。オープニングはRHYMESTER! しかもこのドラマのために書き下ろされた新曲。

で、画面にはMCイック、MCトム、MCマイティ、そして伝説のDJ TKD先輩(故人)が懐かしい面々が登場するのだから、思わずテレビの前で狂喜乱舞。

ドラマは3作ある映画の正当な続きで7年に及んだシリーズの集大成になるという。いよいよ完全決着かー。
思えば長く険しい道のりだった。

『マイクの細道』第1話では、イックは悲願であるライブハウス出演の権利を獲得し、SHO-GUNGを再始動させる。刑務所から出所し行方不明だったマイティーと再会するところまでが一気に描かれた。その場所が青森の大間。3名による「クラブチッタ川崎」までの旅が描かれるのだろう。これまでの傾向を考えるとけしてイージーなものではないはずだ。


今夜、第2話が放送される前に、『SR サイタマノラッパー』のこれまでをサクッとおさらいしておこう。

三部作をおさらい


1:『SR サイタマノラッパー』2009年公開。埼玉県深谷市で冴えない日々を過ごすイックは、ラッパーとして世界にはばたくことを夢想しているニート青年。イックは地元の仲間たちとSHO-GUNGというグループを結成し、既に数年活動しているのだが、まだライブをしたことがなかった。

ある日、SHO-GUNGは公民館で開催される「深谷市民の集い」で初めてのパフォーマンスを依頼される。イックは「やったるぜ」と意気込んでいたが、年長メンバーのケンとテックは会場に現れず。
対面する聴衆はヒップホップとは縁遠い「良識的」市民たちだ。

その状況に幼なじみの親友トムは気後れしているが、勝気な性格のマイティーがビートを流し、記念すべき1stステージが済し崩し的に始まる。曲は「教育・金融・ブランニュー」。3人の声は次第に熱を帯び、曲の終盤では堂々たるものとなった。イックは思わずドヤ顔に。

が、最初に感じた聴衆との温度差は全く解消されていなかった。
「良識」は盛り上がるどころか逆に、数々のダメ出しの挙句、お前らちゃんと働いて市民税くらい払いなさいと説教をはじめる。
深谷でヒップホップは無理なのか? このしょっぱい経験をきっかけにグループが奮起し、次々と奇跡を起こし、ビッグサクセスを掴むのが娯楽映画の定番だが、この『SR』の「現実」は甘くない。夢見るイック達を容赦なく追い込んでいく。

まずはケンとテックがグループから離脱、続いてSHO-GUNGにトラックを提供してくれた伝説のDJ TKD先輩が病死。マイティーはイックとトムを見切り深谷から去る。

夢を実現しようと現実に挑む。
現実は堅牢な壁として立ち塞がるどころか、倍返しの圧力で夢見る者を潰しにかかる。こんな事なら夢など持たないほうがマシだ。ついにトムすらイックと別の道を歩みだす。イックは一人になってしまった。ラップへの情熱も風前の灯火だ。

小暮千夏が深谷に帰ってきた。
彼女はイックが高校時代に唯一好意を持っていた女性だが、学校を中退し深谷から消え、その後、アダルトビデオのスターになっていた。深谷の触れてはいけない裏有名人だ。

2度と会えないと思っていた女性との思わぬ再会にイックは複雑な心境である。イックは小暮千夏に聞きたいことがいくつかある。だが言葉選びにもたついているうちに時間切れになる。

小暮千夏が旅立つ土壇場ギリギリで、駅まで全力疾走して汗まみれ、息が上がっているイックからリアルな想いが放たれた。「がんばれよ!」当然、「お前ががんばれ、バカ」と苦笑まじりに返されるが、これはヒップホップだろう。

「がんばれよ!」イックのこころの芯から放たれた必然性のあるリアルな言葉。これがライムの基本だ。これまでSHO-GUNGが伸び悩んでいたのはヒップホップのスタイルの表面的な模倣するだったからだ。むき出しになったイックの「人柄」に観客は魅了される。イックと観客は、虚構と現実の壁を乗り越えて、永遠の友達になる。

最後、イックを露骨に避けていたトムが再びイックを見やり、今後の含みを持たせ映画は終わる。夢は宙吊りのままだが、ここから『SR サイタマノラッパー』の快進撃が始まる。

ごめん、丁寧にやっていたら、気持ち入っちゃって、この時点で結構なボリュームに。。。この後はポイントを絞ってスピードあげてく。振り返りのせいで、僕もみんなも第2話を見逃したらどえらいこっちゃ!

2:『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』2010年公開。舞台は埼玉から群馬へ。TKD先輩のゆかりの地を訪ねるイックとトム。道中で5人の女性ラッパー「Be-Hack」と出会う。ラッパー同士が出会ったら、もちろんサイファーになる。TKD先輩への想いの強さから自然とDisが混ざっていく。ラッパーの流儀を知らない地元民が「女の子にひどい事言うなよ」と怒り出し、イックとトムは一時撤退。ここからはBe-Hack中心のストーリーになる。女性ならではの困難を描きながら1作目のテーマが反復される。イックの煽りをきっかけにしんみりした法事の席が怒涛のフリースタイルゾーンに突入していくラストが圧巻。
「SR サイタマノラッパー」が冗談じゃなく本当にドラマ化されたので急いで3部作を振り返ってみた

3:『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』2012年公開。1作目でSHO-GUNGを去ったマイティーは東京で「極悪鳥」というギャングスタグループのパシリをやっていた。その一方でMCバトルに意欲的に挑戦し、ついに決勝まで進出する。ところが試合の直前にあぶないディールを持ちかけられる。ピンチはチャンスだけれども、チャンスはピンチでもある。マイティーはSHO-GUNG出身だけあってダメな方へ振れてしまう。
「SR サイタマノラッパー」が冗談じゃなく本当にドラマ化されたので急いで3部作を振り返ってみた

そこから先のマイティーは転落に次ぐ転落。見ていられないほどの気の毒な試練が降りかかり、ボロボロになって栃木へと漂着、潜伏する。実はイックとトムはすぐそばにいるのだが、イックが餃子を食べまくっているせいで、SHO-GUNGはすれ違ったままだ。
日光のラップグループ征夷大将軍の力を借りて、イックとトムは栃木の野外ロックフェスのステージに立つ。さぁ、これから最高に盛り上がろうぜ! というタイミングで地獄をさまよう最低なマイティーを発見する。イックとトムは演奏をやめマイティーに呼びかけるが、無情にもマイティーは警察に連行されていく。

SHO-GUNGの3人がようやく集まることが出来たのは刑務所の面会所だ。イックとトムとマイティーの間には物理的に壁があり、再会のハイタッチも無理。そもそも不幸の連鎖でマイティーの心が砕けていて、会話にならない。イックとトムはマイティーとSHO-GUNGへの想いを吐露するが一方通行に終わる。

エンドロールの半ば、ようやくマイティーが「オレはSHO-GUNG」とアンサーするのだが、おそらくそれは独房での独り言であって、イックとトムが聴くことはない、永遠に……。3部作は終わったのだ。

と、5年ほど思っていた。この年月はマイティーの服役期間に対応している。時間のシンクロも『SR サイタマノラッパー』シリーズが現実と虚構の境界を曖昧にしていく重要な要素だ。

で、で、で、そこからの急転直下、SHO-GUNG再結成だよ! 冒頭の狂喜乱舞はいたしかたないでしょ。で、第1話放送直後に入江悠監督の写真入りtweetがあった。クラブチッタ川崎、SHO-GUNGメンバーが他のラッパーや出演者、そしてぎっしりの観客に囲まれて、満ち足りた表情をしていた。おおお、あいつらとうとうやりやがったんだなー! やり遂げたんだなー!

SHO-GUNGの晴れ舞台を今度こそは目撃できるだろう。イックの夢はもはやイックのモノだけではない。長年の友達として付き合ってきたオレのモノでもある。その時が来たら、腹の底からHO! HO! するぜーーッ! 

でも本音を言うと安心はしていない。シリーズ完結のテレビドラマだからって特別に甘い待遇があるわけがない『SR』。リアルをサバイブ出来んのか? のSとRだからね。だから、最後まで「がんばれよ!」
(飯田和敏)