先週からスタートしたのは、ドラマ『悦ちゃん 昭和駄目パパ恋物語』。サブタイトルにあるように、舞台はモダンな昭和10年。これも立派な「時代ドラマ」なのだ。全8回。

悦ちゃんは朝ドラ第1作のモデル!
『悦ちゃん』のおおまなかあらすじは、妻をなくした売れない作詞家を父に持つ10歳の少女・悦ちゃんが父の再婚のために奮闘するというもの。
原作は戦前、戦後をまたいだヒットメイカー、獅子文六。『悦ちゃん』は彼がはじめて手がけた新聞連載小説で、大ヒットして何度も映像化されている。
獅子文六が留学時代に結婚したフランス人の妻に先立たれた獅子文六の娘がモデルであり、彼の子育てを描いた自伝的小説『娘と私』は、なんとNHK朝の連続テレビ小説の記念すべき第1作になっている。『悦ちゃん』が朝ドラになっていてもおかしくなかった!
さて、先週から始まった『悦ちゃん』。赤いスカートで登場したおかっぱ頭の主人公・悦ちゃん(平尾菜々花)は“江戸っ子になったちびまる子ちゃん”といった風情。お金のない父親の碌さん(ユースケ・サンタマリア)を「甲斐性なし」と糾弾するヤンチャっぷりだ。
貧乏を嘆く悦ちゃんに碌さんは、チャップリンの言葉「下を向いてちゃ虹は見えない」を語ってきかせるが、悦ちゃんのセリフがふるっている。
「チャップリンはアメリカの喜劇王じゃないか。
思わず無言になった碌さんだったが、「虹が出た」と悦ちゃんをダマして得意になる。ダマされた悦ちゃんの鼻を指でつんと突いて逃げていくのはユースケのアドリブだったそう。親子の仲の良さがよく伝わってくる仕草だ。
「さっさとカッコいいパパに戻れ!」
今回のドラマは原作の物語の骨格だけ残して、ストーリーとセリフは大幅に変更されている。原作に忠実だった前作『みをつくし料理帖』とは好対照だ。脚本は『マルモのおきて』をヒットさせた櫻井剛。あのドラマも阿部サダヲが子育てに奮闘するお話だった。
碌さんは原作の壮絶にダメな男よりも幾分マシになっている模様。オリジナルキャラのウグイス芸者・春奴(安藤玉恵)にバカにされて、鋭い視線を投げかけると、「そういう野犬みたいな目に女はやられるのよ」と褒められたりする。結婚する前の碌さんはカッコ良い男だったということが強調されているのだ。
売れっ子作曲家・細野夢月(岡本健一が怪演!)に繰り返し「しみったれ」「くだらん悩みに振り回されている」とバカにされると、背後からキックを浴びせる男の意地を発揮! これもナヨナヨしっぱなしだった原作の碌さんからは考えられない。
悦ちゃんの担任教師・村岡(村川絵梨)といい雰囲気になってデートをする碌さんだが、悦ちゃんのことを考えて関係を断つ。ところが村岡には悦ちゃんが「私のママになって」と頼みこんでいた。
「人の気も知らないで、碌さんのキャラメル野郎!」
「なんだよ、そのキャラメル野郎ってのは」
「キャラメルも碌さんもネチネチ歯にくっついてイライラする! 私のママってことは碌さんのお嫁さんじゃないか! 恋でもして結婚すれば、カッコいい碌さんに戻ると思ったのに!」
悦ちゃんのためにいろいろガマンしていた碌さんだったが、それがイヤなんだと娘は言う。娘のほうが口は達者だ。
「今日の碌さんじゃ天国のママだって惚れやしないよ! さっさとカッコいいパパに戻れ!」
泣ける……! 平尾菜々花は天才子役だなぁ。
ラストは2人の女性、デパートガールの鏡子(門脇麦)と令嬢のカオル(石田ニコル)が少しだけ登場(カオルは写真のみ)。はてさて、誰が悦ちゃんのママになるのやら。
獅子文六作詞、橋本由香利作曲の「パパママソング」
エンディングは「パパママソング」。作詞は原作者の獅子文六、作曲はアニソン界を支える名コンポーザーの一人、橋本由香利が担当している(本編の音楽も担当)。ハートをあしらった傘を持ってキャスト一同が歌い踊るミュージカル調の映像が非常にキュート。そしてここでも岡本健一は弾けているのであった。
実はこの曲、ドラマの鍵を握っている曲でもある。これまでの映像化作品の中でも「パパママソング」は登場している(もちろん曲は違う)。どんな使われ方をするのか、お楽しみに。『悦ちゃん』第2話は今夜6時5分スタート。
(大山くまお)