クラシックなミイラものを現代的にリニューアルした一作……と思いきや、実質『コワすぎ!』兼トム・クルーズ主役のハーレムアニメを見た気分。何を言っているかわからないと思うけど『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』はそんな映画である。

「ザ・マミー」はトム・クルーズのハーレム状態で、ラッセル・クロウ「コワすぎ!」だった

ラッセル・クロウの『コワすぎ!』=『ザ・マミー』


古代エジプト。次期女王の座が約束されていた王女アマネットは、強く美しい女性だった。しかしファラオに息子が生まれ、王女への即位は絶望的に。激怒したアマネットは魔術を用いて死の神セトと契約を交わし愛人を使ってセト神を蘇らせる儀式を行うが、その最中に捕らえられる。生きながらミイラにされる刑を宣告されるアマネット。その肉体は棺に封印され、エジプトから遠く離れたメソポタミアの地に封印された……。

所変わって現代の中東。
米軍の偵察要員でありながら盗掘の常習犯であるニックは女性考古学者ジェニーから盗んだ宝の地図で、巨大な地下空間に埋められた謎の棺を発見。追いついてきたジェニーと口論になるも、ニックは棺をつなぎとめていたチェーンを破壊。棺は調査のためイギリスへと移送される。しかし輸送機がロンドン郊外に墜落。即死したはずのニックはなぜか無傷で復活する。脳裏に浮かぶ美女に導かれ、棺を探すニック。
その棺の中に封印されていたのは、復讐に燃える王女アマネットであった。

こういう話なので、トム・クルーズ演じる主人公のニックは結構最後の方までミイラに操られっぱなし。ミイラをやっつける、というよりはアマネットに取り憑かれたニックが遭遇する怪異に焦点を絞った内容で、アクション映画というよりはどっちかというと「アクションシーンもある、昔ながらのホラー映画」という趣である。

重要なのがラッセル・クロウ演じるヘンリー・ジキル博士だ。彼は超常的なモンスターを捜査する秘密組織"プロディジウム"のボスでありながら自身も二重人格を抱えるという役柄で、要はジキル博士とハイド氏。この"プロディジウム"とジキル博士が、なんだか白石晃士監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』っぽい。


『コワすぎ!』は工藤ディレクターとADの市川、カメラマン田代の3人組が視聴者から送られてきた怪奇ビデオを元に取材。その中で超常現象に巻き込まれるという連作ホラーである。「横暴だけど根が小心」「呪具で怪異(河童など)を物理的に殴ろうとする」など強烈な工藤のキャラクターや綿密に作り込まれた設定、関連作品をまたぐユニバース的な製作手法などが高く評価されている。

『コワすぎ!』の工藤とジキル博士、まず怪異の傍観者でありながらグイグイ力技を繰り出す点が近い。『ザ・マミー』でミイラに取り憑かれるのはニックであり、ジキル博士はその怪現象を調査する立場。そして工藤と同様、ジキル博士も一度は腕力で問題を解決しようとする(そして失敗する)。
なんせ裏の人格は凶暴そのもののハイド氏なのだ。工藤っぽい。

極め付けに、ジキル博士は最後の方で白石監督の代表作である『貞子VS伽椰子』に出てきた名台詞「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」みたいなことまで言い出す。筆者の脳は脆弱なので、このへんで「こ、これ、し、白石作品だ!!」と誤認してしまった。『ザ・マミー』を皮切りにユニバーサルは「ダーク・ユニバース」としてかつてのユニバーサル・モンスター映画を共通の世界観でリメイクしていくそうなので、そのへんの作品間がリンクしている感じもちょっと似ている。

君はトム・クルーズ主演のハーレムアニメを見たことがあるか


『ザ・マミー』の悪役アマネットを演じているのはソフィア・ブテラ。
『キングスマン』で義足の女殺し屋ガゼルを演じていた人だ。元ネタの『ミイラ再生』では悪役はボリス・カーロフ演じるイムホテップだから、ここは大きな改変箇所。

ソフィア・ブテラ、めちゃくちゃ美人である。そして服装がほとんど全裸だ。そんな美女ミイラが現代でセト神を蘇らせるため、ニックを「運命の人」と呼んであの手この手で誘惑&遠隔操作。取り憑いたニックになんだかエロい感じで迫り、執拗に下腹部を撫でたりする。
大写しになるトム・クルーズの腹筋! 御歳55歳なのにバッキバキに割れてるぞ!

おまけにニックは女性考古学者ジェニーともいい仲だ。なんせ一度はニックが口説き落として一夜を共にしていることがセリフで解説される。その後もケンカしたりしつつも、一個しかないパラシュートをジェニーに譲ってやったりジェニーもツンデレ気味だったりして、劇中では付かず離れずの距離を保つ。ド直球の誘惑を仕掛けてくる古代から蘇った美女(悪いミイラだけど)とツンデレの優等生ヒロインって、これじゃあ主演トム・クルーズのハーレムアニメじゃないの……。

前述の通り「クラシックなホラー映画」としての側面がけっこう強いので、トム・クルーズが暴れるアクション大作だと思って見に行くと肩透かしを食うかも。けれど、局地的にボンクラっぽい面白みが発生しているのは確かな作品なのである。
(しげる)