三池監督、『テラフォーマーズ』のリベンジなるか
実写版『ジョジョの奇妙な冒険』の監督・三池崇史。その名前にジョジョを愛しつつ、三池監督を知る人たちの心はざわめいた。今回は、いったい「どっちの三池監督」なんだ……?

三池監督の作品は振れ幅が激しい。
そんな萎みかけていた期待が、「ロケ地がスペイン」という情報にグッと膨らんだ。もしや、どう見てもアメリカでロケしてるのに「埼玉県戸田市」とテロップを入れた『漂流街』の頃の野性が蘇ったのか……?
そんな期待半分、あきらめ半分の気持ちで、8月4日公開の『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』を観てきました。今回も実写版『銀魂』レビューと同じく多少のネタバレあり&原作知ってること前提ではありますが、よしよしよしよし(以下略)とチョコラータのように寛容な心でお読みください。
スペインのシッチェス、これが本物の杜王町!
実写版ジョジョの原作は第四部、日本のM県S市のベッドタウンである杜王町が舞台。ぶっちゃけ宮城県仙台市がモデルなんですが、映画のロケ地はスペインのシッチェスやバルセロナ。なぜ海外ロケ……と不思議がられ、シッチェスは国際映画祭があって三池監督が5回も各賞を受賞したから、と憶測する声もあった。
が、抜けるような青空に美しい海岸、風光明媚な中になぜか立ち込める「何かが起こりそう」な不穏さ。この空気感は、原作ファンが知ってる「いつもの杜王町」だ。
だいたい原作の町並みも「鬼才・荒木飛呂彦の眼を通して見える仙台市」であり、一種のスタンドのようなもの。アニメ版でも黄色い空だった杜王町は、宮城県スペイン市にあってもおかしくない。仗助達の通うぶどうヶ丘高等学校がゴシック建築に見えるのも、多くの観光客が訪れるリゾート地であり、全国平均より5倍ほどの行方不明者が出ている説得力あり。
『漂流街』の海外ロケは三池監督のぶっ飛んだ暴走だったが、杜王町=シッチェスは全くもって「原作通り」。
真剣佑の虹村億泰っぷりが最高すぎる
『銀魂』以上にコスプレ大会だの、カネのかかった学芸会だの言われ放題だった今回の実写版。もともと美意識の高いファンの集まり、「ジョジョ立ち」に命を削ってきたコスプレイヤー達のど真ん中に殴り込みをかける暴挙につき、ジョジョ姑(筆者を含む)軍団のチェックが厳しくなるのはしょうがない。
主人公・東方仗助=山崎賢人は、ハッキリ言ってヒョロい。まぁ骨太なガタイを持つジョースター家の血統(第五部以降はそうでもないが)を日本人が演じるのだから、それをは言わないお約束だ。
ハンバーグみたいな髪型、凄みと年齢なりの幼さが同居するマスク、う〜んギリギリ合格ライン。なにしろ「第一章」だから、今後の伸びしろに期待だろう。
伊勢谷友介(41歳)演じる空条承太郎(第四部で28歳)は45歳ぐらいに見えるが、第三部のエジプトの熱風で老けたんですよきっと。歴戦の勇士の貫禄もあり、『CASSHERN』の逞しさもあり。
承太郎といえばふしぎな帽子。後ろ髪と帽子が途中で溶け合うビジュアルがしっかり再現され、スタイリストさんいい仕事してます。まぁ髪が帽子を食ってるようで「ラブ・デラックスが発現してるのか?」感もあったりしますが。
……というのは前フリに過ぎず、実写の虹村億泰が億泰本人だ!!こそが本文です。
岡田将生=虹村形兆も、あのポルナレフ頭がぴったり来る顔オブジイヤーではないでしょうか。実写『銀魂』で演じた桂小太郎が派手に立ち回る「動」とすれば、こちらは裏で陰謀を巡らす「静」であり、役に恵まれている方ではあります。
そんな虹村兄弟の最高ぶりを、スペインの豪邸を改造した虹村お屋敷がブーストしている。日本離れした広い庭園、狭い家屋でやるとゴミ屋敷に見えかねない廃墟のありさま。あの狂気が潜んでそうな「ザ・洋亭」のビジュアルは、海外ロケをしたかいがありましたよ。
え、康一くん? 神木隆之介が演じる役に、今まで一つでもハズレがありましたか(『仮面ライダーアギト』の子役時代を含む)? 期待を超える康一くんでした!
スタンドバトルの見どころはバッドカンパニー戦
ジョジョのお家芸であるスタンドバトル。実写では「不安要素」と書いてスタンドと読む! 三池監督の前作『テラフォーマーズ』の間抜けなCGバトルを通過してきた後だから、警戒するのも当たり前のこと。予算の都合まるだしのチープな画面をまた見せられるのか……。
そうして固めていたガードが、仗助のクレイジーダイヤモンドが片鱗を見せたところで緩み、スタープラチナが時を止めてオラオラした瞬間に解かれた。スタンドのビジョンはほぼ原作通り。
疑問符は、アクアネックレスのあくどい活躍で「意外とイケる」になり、軍隊スタンド・バッドカンパニー登場で「超カッコイイ!」に変わった。原作での「小さい兵士が死角から狙撃する」ステルス性こそ削られているが、虹村屋敷の中で飛び交う戦闘ヘリ、ずらりと整列する戦車軍団のド迫力はまさに「軍隊」そのもの。
正直、省略されるか「なかったこと」にされると思われたバッドカンパニー戦。そこに最もリソース、つまり手間とカネをかけてくるとはうれしい予想外だ。三池監督、ちゃんと『テラフォーマーズ』の失敗に学んでた!
ジョジョ作法を守る三池監督、散っていった実写化のおくりびとモード
もう一人の主人公・広瀬康一くんが転校生で、山岸由花子がその世話係ーーありえない!と発表当初は叩かれていた設定の改変。
が、ストーリーの変更は、原作で174話分、アニメで38話分のキモを限られた時間の中に収めるためには避けられない。そもそも劇場アニメ『ファントムブラッド』なんて、スピードワゴンが“いなかったこと”にされたんだから。
たしかに転校生設定はありえないが(認める)他の改変はおおむね妥当。いや、ウマイ!とさえ言っていい。最大の変更が東方良平、つまり仗助のおじいちゃん関連のアレンジ。
つまり、原作にあった仗助の「俺がこの町とおふくろを守りますよ。この人に代わり…どんなことが起ころうとも」というセリフを重んじ、「黄金の精神」に厚みを加えているわけだ。この変更、ディ・モールトベネ!(非常に良しッ!)
原作を愛する人ほどマイナスの先入観を抱きやすい実写版ジョジョ。しかし今回の三池監督はいつもの悪ノリを封印し、生真面目に「ジョジョの作法」を守っている。もうちょっと弾けてもいいのでは?と思うぐらい、無念に散っていった原作の実写化を鎮魂する「おくりびと」モードである。
すでに康一くんのエコーズACT1がVS形兆戦で登場する(原作よりも前倒し)ことは公式にもネタバレ済みだが、最後にもう一つ大仕掛けが待っている。形兆の最期を見つめていたスタンドは実は……続きは劇場で!
(多根清史)