連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第19週「ただいま。おかえり。」第111回 8月9日(水)放送より。
 
脚本:岡田惠和 演出:黒崎 博
「ひよっこ」111話。神回続きだし視聴率もいいし、ツッコむところはないけれど
イラスト/小西りえこ

111話はこんな話


みね子(有村架純)は実(沢村一樹)と連れ立って奥茨城に帰って来た。

エンディングの声がひよこからニワトリに


ドラマのエンディングである、視聴者からの昭和の写真紹介コーナー「昭和とりっぷ」では、「ぴよぴよ」とひよこの声が鳴く。それが、111回では、ニワトリの声に変わっていた。
鳴き声チェンジは、今回がはじめてではなく、7月19日(水)の93回、みね子が恋に夢中になっている時も、ニワトリの声だった。
他にも違った回がなかったか、今回、オンデマンドで全話のエンディングを見返したが、93回と111回の2回のみだった。

このニワトリの鳴き声、幸福の声なのではないか。
というのは、鳴き声がひよこでなく、ニワトリだった93回の視聴率は19.8%だったものの、それ以降、再び鳴き声が変わった111回の前話110回(8月8日放送)までの17話分、「ひよっこ」の視聴率は、すべて20%を超えているのだ。しかも、110回の視聴率は23.7%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)と自己ベストを更新。
まるで、ニワトリに成長した声と共に、ドラマも羽ばたいているようではないか。

嬉しい再会の前に


2年と8ヶ月ぶりの地元。
記憶がない中で戻るとはいえ、そこには、家族との再会という感動(カタルシス)が待っている・・・と思いきや、まず、描かれるのは、ちょっぴりさみしいエピソード。バスの車掌を生業としていた次郎(松尾諭)の進退問題だ。
今年でバスに車掌が必要なくなって、ワンマンカーになるという。次郎のその先の仕事は未だ決まってない。
でも、次郎は、自分が車掌をやっている間に、実をもう一度乗せることができたことを喜ぶ。

記憶を失っているとはいえ、次郎の気持ちはちゃんとわかる実。「ご苦労様でした」と、昔と比べたら、他人行儀ではあるが、誠実に語りかける実に「泣かせるなよ」と次郎は感極まってしまう。
いつも次郎と話していた席に座って、何かを感じようとする実を、次郎はやさしく見守る。
鋭くツッコむ役のイメージが強い松尾諭だが、黙って、相手の芝居を受け止める芝居も、任せて安心な俳優だ。

次郎のしんみりエピソードによって、家族の久々の再会が、いっそう味わい深いものになった。

映り込む人たち


これからは運転手だけでよくなると次郎が言った時、運転手の小太郎(城戸光晴)がバックミラーに映る。
みね子は、降りる時、ちゃんと小太郎にも挨拶する。

バス停から家まで1時間も歩いて、ようやく着いたなつかしの実家の座敷で、「ここで取り戻してえ、もういっぺんやり直してえ、生き直してえ」と実が言う場面では、茂(古谷一行)のカットで、仏壇と亡きお母さんの写真が映り込み、亡くなったお母さんの心情を想像させるものになっている。

たくさんの人たちが、実を歓迎した、111回だった。

ちょっぴりツッコんでみた


よくできたドラマで、ツッコむところがなさ過ぎて、それはそれで少々寂しいので、今回は、ちょっとだけツッコんでみたい。
この2年半、おそらく世津子(菅野美穂)の家の中にずっといたであろう実。都会の人になりかかっていたようだけれど、バス停から家まで1時間も歩いて、体力はもったのだろうか? とちょっと心配になった。

また、回想シーンで、実がすずふり亭からもらったカツサンドの箱を、みね子がもっているのを見て、この後、彼女は、すずふり亭と深く関わっていくんだなあと感慨にひたりつつ、その一方で、今回は鈴子も省吾も手土産もたせてくれなかったのかな、と思ったりして。


そんなことを書いていたら、担当編集Aさまに、「鶏はとべないけども(笑)」とツッコまれてしまいました。ピヨピヨ。
(木俣冬)
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