レイプ事件からスタートし、豪腕老人たちによる不良退治で終わるという、「何のドラマだよ!」状態のすごい展開を見せた先週だったが、『やすらぎの郷』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)第21週は、久々に出演の毒蝮三太夫によるほのぼのDJからスタート。

しかしその後は先週にも負けない、とんでもない展開だった。


いきなり余談だが、マムちゃんのDJの中で「道路を暴走するのが18歳、逆走するのが81歳」というこの後の展開を予告するような話題が入っていたが、このネタは『笑点』での6代目三遊亭圓楽による大喜利の回答が、ネットの定番コピペとなったもの。

倉本聰はそんなところまでチェックしてるのか!? と、なかなか驚かされた。
「やすらぎの郷」第21週。高速道路逆走に紫綬褒章自慢。倉本聰のやりたい放題が止まらない

倉本聰のうっぷん晴らしエピソードなのか?


今週は、高齢者の運転免許をどうするか問題からスタート。

時々、ニュースなどでも取り上げられている高齢者の運転免許自主返納。しかし「もう乗らないだろうな」と思っても、若い頃に苦労し、しかも金をかけてゲットした免許証を、自分からわざわざ手放すなんて、なかなか思い切れないことだろう。

80歳を超えていると思われる菊村栄(石坂浩二)も、返納していいかなと思いつつも、もう一度だけ……と免許更新のための高齢者講習に。そこにはさらに年上で、90歳は超えているらしい有名なカーマニア・岡林谷江(佐々木すみ江)も参加していた。


違反者講習は知っていたが、高齢者講習というのがあるとは知らなかった。勉強になるドラマだ。

しかしその結果、認知症テストや運転能力テストにひっかかり、岡林は免許を取り上げられてしまう。

フェラーリ、ポルシェ、マセラッティと数々の外車を乗り継ぎ、レースサーキットでブイブイ言わせていた岡林は思いっきり納得いかない。……ということで、ブチ切れた岡林は「やすらぎの郷」への訪問者が乗ってきていたハマーを盗み、高速道路を爆走! しかも逆走!

おそらくCGでの合成だとは思うのだが、パバロッティの「誰も寝てはならぬ」をBGMに、パトカーをぶっちぎりながら高速道路をガンガン逆走するシーンはメチャクチャ格好よかった。

結局、警察に捕まってしまったものの、「やすらぎの郷」の政治力で「認知症による一種の徘徊」ということでウヤムヤにしてしまう。
……恐ろしい組織だ、「やすらぎの郷」!

高齢者による暴走事故が問題となっていることもあり、その辺を深掘りするのかな……と思いきや、アッサリと終わってしまったこのエピソード。何のために出てきたのかというと……たぶん、倉本聰自身が高齢者講習を受けさせられて、菊村が言っていたように「幼稚園の試験じゃあるまいし、バカにするな」と思い、うっぷん晴らしのために書いたエピソードだったんじゃないかと。

同じように高齢者講習を受け、「オレはお前らよりも何十年も長く運転してるんだぞ!」という思いを抱いているシニア層にとっては胸がスーッとする展開だったのではないだろうか。……現実に高速道路であんな暴走バアちゃんと遭遇したら恐怖でしかないけど。

ちなみに倉本聰は、メチャクチャ燃費の悪いハマーで富良野を爆走するのが趣味だったようだ。

ちょいちょい紫綬褒章自慢が入ってくる


……それはいいとして、姫こと九条摂子(八千草薫)の問題だ。

最近、姫の様子がおかしいらしく、身の回りの物をなんでもかんでも捨ててしまうようになっているという。


まあ姫も90歳超えらしいし、終活として身の回りの整理をするのはいいんじゃないかとは思うが、その中には、紫綬褒章の褒賞やカンヌのトロフィーまで……。さすがにこれは断捨離しすぎ!

その裏には、マヤ(加賀まりこ)による強烈な「断捨離」の布教があったようなのだが、お嬢(浅丘ルリ子)の推理では「自分が紫綬褒章を取れていない嫉妬からだ」という。

ここから紫綬褒章に嫉妬している、していないの言い争いになるのだが、実際に八千草薫と浅丘ルリ子は紫綬褒章をもらっているが、加賀まりこはもらっていないのだ。

加賀自身が紫綬褒章にこだわりを持っているのかどうかは分からないが、「アナタ(褒賞を)持ってたっけぇ〜?」というのは、なかなかハートにザックリ来るセリフだ。ちょっとしたスキにも、出演者の心をえぐるエピソードをぶち込んでくる倉本聰、恐るべし。

ちなみに、倉本聰はバッチリ紫綬褒章をもらっているが、石坂浩二はもらっていない……。


そこで「紫綬褒章くらい断捨離してもいいじゃない」という話にはならず、「紫綬褒章のような貴重な物を捨てるなんてとんでもない!」と周囲が右往左往する展開にするあたりもいやらしい!

やはり『やすらぎの郷』のヒロインは姫!


姫は、過剰すぎる断捨離を進めるだけではなく、ライブラリーにこもって大昔の自分が出演した映画のフィルムを何時間も見返していたりと、どうもおかしな行動が目立っているようだ。自分の死期を悟ったからなのか、認知症がはじまったからなのか……?

そんなある日、姫が真夜中の浜辺を歌を歌いながら徘徊し、自分の着物をビリビリに切り裂くという奇行を起こす。

以前、及川しのぶ(有馬稲子)の認知症が悪化して、歌いながら海に入っていったシーンが印象的だったが、「やすらぎの郷」の老人たちは、認知症がはじまると歌いながら海に行くものなのか……?

そんなイメージもあり、姫も認知症が発症したフラグだと思っていたのだが、まさか「ガンが脳まで転移している」というヘビーな症状だったとは。

老人ホームが舞台のドラマということで、いずれメインキャストの誰かの死は描かれるであろうことは予想していたが、いざこういう展開になってくるとツラい。

放送も残り1か月となった『やすらぎの郷』。姫とのお別れという、悲しい結末じゃないといいのだが。


それにしても、海を徘徊する姫、星空の下、担架で運ばれていく姫と、すんごく幻想的で美しいシーンが続き、やっぱり倉本聰の中で姫……というか八千草薫は思い切り神聖化しされているんだなぁと思わされた。『やすらぎの郷』のヒロインは姫なのだ。

そんな姫の病状も気になるところだが、第22週予告での菊村とアザミのキスシーン(?)に完全に心を奪われてしまった。年齢差、約60歳! 終盤にきて、本当にすごい展開が続きすぎだよ!
(イラストと文/北村ヂン)