連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第24週「真っ赤なハートを君に」第142回 9月14日(木)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出: 田中正 板垣麻衣子
「ひよっこ」142話 時子が輝き、富さんが静かに目を閉じる
イラスト/小西りえこ

「ひよっこ」142話はこんな話


ツイッギーコンテストで、時子(佐久間由衣)が優勝した。

ようやく、報われた時子


リハーサル終了。
男たちからの差し入れで、女たちが乾杯。

「ここに集まったみんな、かわいい」「大好きだよ」「がんばって生きていこう」と鈴子(宮本信子)が乾杯の音頭。
乾杯のときも、男女は内と外に分かれている。まるで豆まきの逆バージョン(鬼は外、福は内)。

本番には、みね子(有村架純)たちは仕事で応援に行けず、会場に来たのは、三男(泉澤祐希)のみ。

「時子は殻を自分で破ったんだなと思います」とみね子のモノローグのように、時子は殻を破って、
コンテストでひときわ輝き、優勝を勝ち取り、あれよあれよという間に、あかね荘を出ていくことになった。

時子はあかね荘に来てから、全然、演劇活動をやってないし、実のところ、そんなに演技の才能があるわけでもないだろう。
時代がちょうど彼女のような、すらっとした子を欲している時に乗れただけだ。でもコンテストに応募しなかったら、波にも乗れない。行動することイコール殻を破る だろう。
もっとも、時子は、締め切り忘れているドジっ子で、母親が応募したという悪運の強さ。
結局、世の中、運である。というお話。

時子の奮闘努力はここからはじまることになるわけだけれど、「ひよっこ」ではそこか書かないで終わるだろう。彼女は「ひよっこ」の主人公ではないから。

それにしても、水着でビーチは海で中止、就職先は倒産、ビートルズのチケットは他人に譲る、初恋は2ヶ月で終了・・・と成就しないことばかりの「ひよっこ」なので、コンテストも落ちたらどうしようかと気がきではなかったが、ついに成就した記念回であった。

それぞれの青春の終わり


その一方で、成就しなかったのは、三男の恋。
とはいえ、この人の夢は、好きな時子が大成することだから、ある意味成就したってことなのだが。この複雑な心境に身悶えが止まらない。

ひとりコンテストを見て、彼女に会うこともできず(きっと優勝直後、関係者に囲まれちゃっているんだろう)、
会場入口で、感無量に叫ぶ三男。

これで、自分の恋は終わると自覚しながら歩く帰り道は、まるで、西郷輝彦の「星のフラメンコ」のカラオケビデオのようだ。

「好きなんだけど黙っているのさ♪」
とはいえ、三男は、高校時代から少しも黙ってなかったけど、彼の辛さは、この歌と同じなのはよくわかる。
彼もまた、悲しいけれど、ひとつ、青春、初恋という殻を破ったのだ。
これから、大人の道が待っているだろう。たぶん、米屋の婿養子という人生が。
これが、田舎の農家の長男でない人間の生き方なのかと思うと、ちょっぴりさみしい気もしないでない。


女も大変だが、男も大変。
「ひよっこ」では、島谷(竹内涼真)といい、三男といい、男のほうが我慢を強いられている印象だ。

私は、こういう、男の作家が書く朝ドラの男が、言葉には出さないながら背負っている辛さをちらり垣間見せるところが好きだ。朝ドラという圧倒的な女の家に入った婿養子の苦労なのではないかと感じるのだ。知らんけど。

しぶといのは誰だ


リハーサルに、風邪で参加できなかった富さん(白石加代子)。

代わる代わる、みんなが様子を見に行っていたが、最後に鈴子がやって来ると、富は静かに目を閉じて・・・。
まさか・・・と呼吸を鈴子が確認すると
「死んでないわよ」「しぶといわよ、私は」とにやり。
朝ドラの後半では、たいてい、誰かが亡くなるので、富が寝込んだところで、ちょっとドキドキしたが、
どうやらフェイクらしい。
時子のコンテスト参加に向かって、みんながわいわいするだけだと単調になってしまうところ、富さんをうまくアクセントに使う。ほんとうにしぶといのは、脚本家だと思う。
(木俣冬)