第2週「父の笑い」第9回 10月11日(水)放送より。
脚本:吉田智子 演出: 本木一博

9話はこんな話
お家の事情で結納が早まった藤岡てん(葵わかな)は、藤吉(松坂桃李)に会いに大阪へ向かう。
あわや、かどわかしに合いそうになったとき、伊能栞(高橋一生)が現れた。
高橋一生、登場。
伊能栞の登場場面は、待ってました! と拍手喝采しそうな、芝居小屋でやってる商業演劇の一場面のようだった。
朝ドラは、朝の支度のついでに時計代わりに観るものというのが定説だが、「わろてんか」は、お弁当食べながら、完全、リラックスして観たいお約束エンタメだ。
少なくとも、9話は、完全にお約束の連続で楽しませてもらった。
藤岡家の倉庫が全焼して、商売の巻き返しを賭けて仕入れた洋ぐすりも燃えてしまった。
資金繰りのために伊能家とてんの縁談を急きはじめる、お父はん(遠藤憲一)。
突然のことに戸惑うてんだったが、縁談反対派だった祖母ハツ(竹下景子)まで縁談派に寝返る(←お約束その1)。
「よっしゃ。この結納、わてが整えまひょ。」(ハツ)
そこで、風太(濱田岳)らが、ズッコケ。(←お約束その2)
「ようみたら、この蝶々結びもよろしいやんか」と嫌っていた服装を褒め始める。
さすが、商家の人間。損得で動く。
子どもたちに家の懐事情をけどられないように気丈に振る舞っているところも頼もしい。
で、また、お兄ちゃん(千葉雄大)だけ、なにやら、父の様子がへんであることに気づいている。(←お約束その3)
いざ、法善寺へ
「こんなむっつり顔で結納したら伊能さんにも失礼やわ」と言いながら笑ってるてん。
こういう感じはホッとする。ここでほんとうにむっつり顔だったら、暗い気持ちになるところだが、葵わかなは蝶のようにふわっと空気を変える。
葵わかなは“鈴の音のような笑い声”というト書きが最初、どういうものかわからなかったそうだが、
彼女が、風太に南北亭のある法善寺への行き方を聞くやりとりのときの、台詞まわしは、まさに鈴の音が鳴っているような心地よいものだった。
藤吉への気持ちにけりをつけるため、京都から大阪の南北亭に単身向かうてん。
心配になった風太(濱田岳)はあとを追う。
家で大騒ぎになっていることも知らず、活気に溢れた大阪に目を輝かせるてん。
だが、藤吉には会えず、街をさまよう。
探しに来た風太とはスレ違い(←お約束その4)。
そのうち、てんは、親切めいた男たちに連れていかれてしまい、
それに気づいてあとをつける謎の白い服の男の背中が映る。
路地の奥に連れて行かれて、あわや・・・(朝ドラでなかったら悲惨なことになるところだ)というところで、それなりに強そうな男たち4人をステッキで華麗に倒す紳士。
「君、大丈夫か」
手を差し出し、軽く微笑む紳士。
大げさな音楽とキランというSE。
てん「あなたは」
そう、当然、その男は、高橋一生(いいなづけ伊能栞)。
完璧にヒーロー然とした登場である(←お約束その6)
ナレーション「え、都合が良すぎる?」
「うん」とカメラ目線でうなづく倒された男(←お約束その7)
「いえいえ、これがロマンスというものです」とナレーション(小野文惠)だそうです。
なぬ。8話でロマンスのはじまりと煽っていたのは、藤吉との8年越しのロマンスではなく、ふいに訪れた許婚とのロマンスだったのか?
それにしても、8話の視聴率19.7%で、期せずとも、視聴率20%台回復の重責を高橋一生に背負わせてしまった形だが、高橋さん繊細なんだから(本人を知るわけではないが演じる役はたいていそう)そんなことを託さないであげてほしい。
ちなみに、前作「ひよっこ」の脚本家・岡田惠和がインタビューで、視聴率についてこんなことを言っていた。
「初回は、前回の最終回から1、2%低いところからはじまると言われていたんですよ。それは、土曜日に終わると、すぐ翌月曜から新作がはじまるという、民放の連ドラのように前作と次回作との間に空白がない分、多少、視聴疲れっていうものがあるからだと。でも、内容が良ければ、だんだん観てくれるようになるよと言われていました」
(otoCoto岡田惠和インタビューその1より 引用元)
確かに、半年慣れてきたドラマが終わって、新しい世界観のものがはじまると視聴者も、なかなか気持ちの切り替えができない。1、2週間で判断するのは早急過ぎるだろう。
ところで、あんなに心配している風太が、てんを助ける大役を果たせないところが、不憫過ぎる(←お約束その8)。
(木俣冬)