作業服は「秋のジェイルウェア」!
第1話では、馬場カヨ(小泉今日子)、“財テク”こと勝田千夏(菅野美穂)、“先生”こと若井ふたば(満島ひかり)、“女優”こと大門洋子(坂井真紀)、“姐御”こと足立明美(森下愛子)が、“姫”こと江戸川しのぶ(夏帆)に無実の罪を着せたイケメン社長・板橋悟郎(伊勢谷友介)をわちゃわちゃしながら誘拐・監禁するまでが描かれた。これが2017年12月24日の夜のこと。
そしてグイーンと遡って2011年の秋。第2話では、馬場カヨの過去を通して、男の恐ろしいほどの無理解と女たちの友情と連帯が描かれた。
馬場カヨが収監された「自立と再生の刑務所」は、所長の護摩はじめ(池田成志)曰く「意識高い系ムショ!」。たとえば、受刑者たちが着ている作業服は押切もえデザイン。本人が映像で受刑者たちに語りかけるが、「犯罪者のみなさーん」とか「秋のジェイルウェア」など言葉のチョイスがキレキレ。「思わずお出かけしたくなるような」に受刑者から「お出かけできねえよ!」とツッコミが入るのもおかしい。
笑いの成分が強めのシーンの後には、登場人物の心の襞が垣間見えるシーンが待っている。基本的にこの繰り返しで、リズムが激しくなるにつれ、見ているほうは感情のアップダウンが忙しい。馬場カヨが犯した罪は、不倫した夫への殺人未遂。

家事も仕事も完璧な妻に嫉妬する夫
刑務所で毎朝7時に流れる「朝ごはんの歌」はこんな歌詞だ。
「チュンチュン小鳥が鳴いている ママが野菜を刻んでる パパは新聞取って来て 僕が顔を洗ったら みんなで食べよう イェイイェイ家族の笑顔が イェイイェイご馳走なんだ イェイイェイ家のご飯が イェイイェイ最高なんだ」
童謡風のメロディーと子役の歌声が醸し出す違和感に思わず笑ってしまうが、この曲の歌詞を聴いている雑居房で馬場カヨの心境はどうだったんだろうか? 彼女の家庭は崩壊していた。
馬場カヨが夫を刺した理由は、夫の浮気が原因とされていた。しかし、それは浮気の部分しか言語化できなかったからそう言われているだけで、他にも複雑な理由があった。その部分を踏みにじられてきたのだ。複雑な理由とは、夫の無理解と意味不明な嫉妬である。
夫と同じ銀行で働いていた馬場カヨは、息子が小学校を卒業すると同時に職場に戻り、瞬く間に営業トップに返り咲いた。家事も育児もこなし、仕事でも自分を上回る妻に対して、夫は感謝を捧げるのではなく、浮気という報復を行った。
「社会人としても家庭人としても勝ち目がないと悟ったのでしょう。だから奥さんを裏切って傷つけるしかなかったんでしょう。
男の心理が知りたくて、板橋悟郎にロールプレイを強要する馬場カヨ。しかし、悟郎の言葉は、夫のものと同じだった。「要点まとめてから話しません?」と言う悟郎に、馬場カヨの怒りが爆発する。
「要点しか喋っちゃいけないの!? 要点以外はどうすればいいの!? 誰に話せばいいの!? 前は聞いてくれたじゃん! そっちは誰かに喋ってるかもしれないけど、こっちは誰にも話せないの! だから全部要点なの!」
夫の返事は舌打ちと「参ったなぁ、これだから女は」。激情にかられた馬場カヨは夫(と悟郎)に包丁を向ける。火曜ドラマ『カルテット』(全話レビュー)ではお互いを想っていたはずの夫婦がいつの間にか陥ってしまった断絶の悲劇が描かれていたが、この夫婦はさらに悲劇だ。妻は頑張れば頑張るほど夫に嫉妬され、傷つけられる。これはもはや地獄と言ってもいい。
恋バナ収集ユニット・桃山商事による『生き抜くための恋愛相談』には、意味不明な嫉妬で恋人を困らせる男についての悩みが収録されている。桃山商事は男性に特有な“嫉妬のツボ”として「会社のブランド」「収入」「肩書き」「仕事のスケール感」「学歴」「フォロワー数」などを挙げている。これらの「小さな勝ち負け」に異様にこだわるのが男の嫉妬の特徴なのだ。桃山商事は男の嫉妬に対するケアの方法を紹介しつつ、「我々男性が自分自身で気付き、自分の力で乗り越えていくべき問題」と結論づけている。
馬場カヨの夫と同じメンタリティを持っている板橋悟郎は、男の代表ということになる。これから最後まで、板橋悟郎は女たちの想いを引き受けるのだろう(縛られたまま!)。自分の過去の罪と向き合えない悟郎が、女たちから無理やり“聞く男”にされるうちにどのような変化を見せるのかが見ものだ。

現在と過去と後悔と反省
馬場カヨは息子と一緒に写っている写真を大切にしているが、刑務所には本人が写っている写真は持ち込めないという規則がある。
写真をめぐって雑居房で“しゃぶ厨”(猫背椿)とケンカになる馬場カヨ。叱責されている最中にも、自分が写っている写真を持ち込んではいけないのかと食い下がる馬場カヨに、刑務官の若井がこう言い放つ。
「見てもしょうがないからよ。ここにあなたは戻れないからです。二度と」
「戻れると思ってるんでしょ、ここに。無理だから! その現実を受け入れることが反省。今ここにいる雑魚な自分と向き合うことが反省。ここに戻りたいと思うことは後悔!」
見事な定義だ。
第1話で馬場カヨが息子の写真を撮るとき、一緒に写らなくてもいいと言ったのは刑務所のルールを知っていた(もう一度刑務所に入ることを覚悟していた)からであり、一緒に写ったからといって現実が元通りに戻ることはないと知っていたからだ。
「更生するぞー!」
「更生!」
『木更津キャッツアイ』同様に、円陣を組んで合言葉を言う女たち。「更生するぞ」という言葉の意味は、「元に戻るぞ(=後悔)」という意味ではなく、「現実を受け入れるぞ(=反省)」という意味となる。なんだか泣ける。
女たちの友情と連帯
馬場カヨは勝田千夏の大ファンで憧れを持っていたが、千夏は冷たくあしらう。千夏は独居房をレンタルオフィス代わりに使い、ツイッターやメルマガを駆使して受刑者たちを支配していた(逆らったら晒す!)。
「だまれ銀行女!」
「財テクブス!」
2人の怒声を聞いて「我ながらすごい台詞だ」と感想を述べるのは脚本の宮藤官九郎。リハーサルのたびに菅野美穂と小泉今日子のテンションが上がり、「このハゲーーッ!」になるギリギリのところでOKが出たのだとか。隣のスタジオでは『コウノドリ』の撮影で命の誕生を祝福しているのに、こちらのスタジオのギスギス具合に震え上がったそう。毎週『週刊文春』のコラムで裏話が明かされているので、『監獄のお姫さま』ファンは必読。あえて起承転結の“起”を2話に持ってきて、脚本もこの2話から書いたそうだ。
「何をされても尊敬してますから」と言う馬場カヨ。銀行に勤めていた頃、彼女は千夏の本を顧客に薦めまくっていた。千夏の存在は、彼女が自立して働いていた頃そのものを象徴していた。
馬場カヨと勝田の対決は、「女囚十種」なる競技で決着がつくことになった。く、くだらない……。
第2話のラスト、“姐御”こと明美は、ケツ(と細かな伏線)で作ったミルフィーユを馬場カヨに振る舞う。新人のための歓迎スイーツだ。イジメもあったが、受刑者たちは根っからの悪人ではなかった。若井に叱られて布団に潜り込む様は、女子たちの修学旅行を見ているようだ。
クリスマスイブ。廃工場でカップラーメンを前に、仲良くノリノリで歌っている5人の元受刑者と元刑務官たち。
「イェイイェイ離れていても イェイイェイ心はひとつ イェイイェイ家のご飯が イェイイェイ最高なんだ」
家からはぐれた女たちにとって、5人でいることが「家」なのかもしれない。今夜10時からの第3話は千夏の過去が描かれる。日本シリーズの延長に注意!
(大山くまお)