プロ野球史に名高い「宇野ヘディング事件」。
1981年8月26日。
今はなき後楽園球場で行われた巨人‐中日戦において、中日の遊撃手・宇野勝が、平凡なショートフライをキャッチし損ねて、まるでサッカーのヘディングのように白球をポーンと頭にあててしまった、例のシーンです。

「宇野ヘディング」から生まれた野球選手へのアテレコ


これが単なるエラーとして処理されず、歴史的ワンシーンとして後世へ語り継がれるようになった背景には、みのもんたの存在があります。

当時、プロ野球ニュースのキャスターだったみのは、この宇野の失策に面白がってアテレコをつけていました。その様子をたまたま見ていたフジテレビのディレクターが「これはイケる!」と確信。
その結果、名物特番『プロ野球珍プレー・好プレー大賞』が誕生しました。

以降、みのの軽妙な選手への吹き替えは同番組の代名詞となり、また、スポーツなどの真剣勝負を笑いに転換できるこの手法は、テレビの世界でさまざまに形をかえて流用されていくことになるのでした。

さて、そんな珍プレー・好プレーを起源とする「野球選手のアテレコモノ」の一つとしてかつて人気を博したのが、日曜朝に放送されていた日テレの情報番組『THE・サンデー』における企画『拝啓、石井浩郎です』でした。

近鉄・巨人などで活躍した石井浩郎


石井浩郎……。往年のプロ野球ファンなら、彼の名を覚えている人も多いことでしょう。現役時代は、近鉄(90年~96年)、巨人(97年~99年)、ロッテ(00年~01年)、横浜(02年)で活躍し、1994年には打点王も獲得しました。

特に巨人時代は、全盛期の大魔神・佐々木から9回に同点ホームランを打ったり、負ければチームの貯金がなくなるヤクルト戦で、プロ野球8人目、巨人では38年ぶりとなる延長での代打満塁本塁打を放ったりするという、チャンスに強いスラッガーとして知られていました。

石井を生真面目キャラに仕立てた『拝啓、石井浩郎です』


そんな石井の風貌といえば、いかにも無口そうな雰囲気。角刈り気味のヘアスタイルも相まって、「自分、不器用ですから…」というセリフも様になるであろう、高倉健的な九州男児感を漂わせていました(石井本人は秋田出身)。

このただずまいがフューチャーされ、彼の巨人在籍時に放送されたのが『拝啓、石井浩郎です』です。

これは、毎週、石井浩郎の活躍ぶりをアテレコ入りで紹介するというコーナー。
石井の声を担当したナレーター・小野田英一氏の魅力的な低音ボイスにより、石井の朴訥としたキャラはさらに際立ち、もはや、巨人の試合で彼が打席に入ると、「拝啓、石井浩郎です…」という声が脳内再生されるレベルに、アテレコがハマっていました。

『ウッス!川上憲伸ッス!!』などの姉妹企画も放送


この『拝啓、石井浩郎です』が好評だったため、『THE・サンデー』では、他の選手にスポットライトを当てた企画も。

中日のピッチャー・川上憲伸を熱血キャラに仕立てた『ウッス!川上憲伸ッス!!』(ナレーション:垂木勉)、巨人の中継ぎ・三澤興一をユルキャラ化した『前略、三澤興一です』(ナレーション:小野田英一)などを放送していましたが、やはり、石井浩郎にはかないません。
石井が日テレと同じ読売グループの巨人を退団し、ロッテに移籍してからも引き続き放送されていたことが、その人気の高さを示していると言えるでしょう。

なお、引退後の石井浩郎ですが、2010年には政界へ進出。現在も参議院議員として活動中です。
(こじへい)

※文中の画像はamazonより【プロ野球オーナーズリーグ】石井浩郎 近鉄バファローズ レジェンド 《2010 OWNERS DRAFT 04》ol04-l-012
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