宮藤官九郎脚本、小泉今日子主演の火曜ドラマ『監獄のお姫さま』。先週放送された第7話の視聴率は5.5%。
えっ、と驚いたのだが、裏番組を調べてみたら日テレ『ベストアーティスト2017』が15.2%も取っていた。まぁ、きっとみんなTVerで観てるんだよ! 

第7話は、坂井真紀演じる“女優”こと大門洋子の過去と出所後の生活が描かれた。そうか、“わるウーマン”(先生命名)たちは、こうやって一人ずつ出所していくのか。なんだか不意を突かれたような気分。ずっと彼女たちは刑務所でわちゃわちゃし続けるんじゃないかと思ってたよ。そんなわけはない。

「監獄のお姫さま」7話。2.5次元への埋没からの転落。坂井真紀演じる「明るいメンヘラおばさん」の闇
イラスト/まつもとりえこ

懲役7年! 2.5次元に夢中な“やっべーやつ”


「そうです、私がメンヘラおばさんです」

第1話からずっとハイテンションに「私、女優よ~」と言い続けてきた女優。カヨ(小泉今日子)たちもほとんど聞いたことがなかったという女優の罪状とは、2.5次元ミュージカルで活躍する俳優へのストーカー行為と、彼の追っかけ費用を捻出するために働いていた複数の詐欺だった。懲役7年の実刑判決。検事の長谷川(塚本高史)が「長っ!」と驚くほどだ。

女優が夢中になっていたのは、イケメン剣道ミュージカル『行け! 面! 胴!』の主演、泉キャプテン役の大洋泉(たいよう・いずみ)という俳優。決めゼリフは「俺の手ぬぐい、欲しい人!」。ミュージカルナンバー「涙が心の汗なら」では「朝練前なら抱いてやってもいいぜ」というセリフで黄色い歓声が飛ぶ。
「♪青春は稽古不足さ~」というサビの決まり具合がすごいが、稽古不足なら女の子抱いてないで練習しろよ! メンバー5人の名前がそれぞれチームナックスのメンバーの名前のパロディーになっているのもネットで話題になった。

女優は、彼の追っかけのために毎月100万円以上費やすようになっていた。地方公演は全公演参加、ホテル代、交通費などなど。こういうオタク女性の浪費っぷりについては、書籍『浪費図鑑』が大変詳しい(参考記事)。“浪費女”2000人へのアンケートによると、月100万円というのは大げさのようだが、それでも月30~50万円を趣味に費やす人は全体の0.1%存在する。10~20万円なら全体の8.6%。
また、全体の2割程度は、クレジットカードが止まった経験があるという。

女優は莫大な費用を捻出するため、出会い系サイトで出会った男たちから次々とお金を騙し取っていた。

「やっべーの! 私、マジヤベーやつなんです! でも後戻りできないわけ! 泉くん、歌もお芝居もグングン良くなってくし!」

この言葉を聞いて共感できる女性は、(さっきの『浪費図鑑』を例に出すまでもなく)男性が思っている以上に多いはずだ。一方、板橋吾郎(伊勢谷友介)は「大丈夫か!? あなた自身が2.5次元にいるぞ!」と警告する。

女優のことを「明るいメンヘラおばさん」と呼ぶ宮藤官九郎は、登場人物の罪状にストーカーと詐欺をどうしても入れたかったと振り返っている(『週刊文春』12月7日号より)。「好きな男を追いかけるために好きじゃない男を騙す。
冷静なのか情熱的なのか分からない、男には理解不能な、女性ならではの犯罪です」。たしかに、好きじゃない女を騙して金を奪う男は少なくないが、その金を好きな男にまるごと貢いでしまう男という話は聞いたことがない。

『監獄のお姫さま』版、虚構VS現実


女優は2.5次元の世界に埋没しきっていた。しかし、逮捕されて実刑判決を受け、7年もの刑期を終えて出所。更生保護施設での生活を続ける中、人気が落ちてもまだ(一人で)『行け! 面! 胴!』の舞台を続けていた大洋泉(回想の中では伊勢谷が演じていたが、実際はAMEMIYA)の舞台を見に行った女優だが、かつてのように夢中になることはなかった。

「何も感じませんでした。あんなに胸躍らせた泉くんが目の前にいるのに、心が一ミリも揺れない」

変化していたのは女優のほうだった。
「刑務所での出来事が切実すぎて……ううん、面白すぎて、絵空事の演劇の世界に入り込めない」。規則正しい生活、理不尽なルール、仲間たちや勇介との出会い、資格の取得、そして復讐という目標。絵空事の世界より、現実のほうが面白くなってしまったのだ。

その後、女優は大洋泉と飲みに行くが、帰りに体を求められ、拒否すると暴言を浴びせられる。彼に夢中だった彼女の心は殺されてしまった。手ぬぐいを引き裂き、ゴミ捨て場に叩きつける。


しかし、虚構を捨てて、現実に生きようとしている女優を、再び勇気づけるのが虚構(ドラマ『恋神』の撮影)だというのが面白い。その場にいるのが、正真正銘の2.5次元ミュージカルのスター、黒羽麻璃央だったりする二重構造。現実は大切だが、現実だけでは味気ない。

宮藤は女優の役の設定のもとになっているのが、日本で詐欺を働き、そのお金をタイ人ホストに貢いでいた60代の女性だったと明かしている。自ら30代の“エリコ”と名乗り、ホストに買い与えた豪邸でフリフリの服を着ていた女。報道で彼女が拘束される様子を見た宮藤は「フィクションの住人」なんじゃないかという感想を持つ。「異国の地でエリコという理想の女を演じていただけよ、私、女優よ、という吹き出しが頭に浮かび、そのまま役の設定に結びついた」。

フィクションの世界に夢中になることは素敵なことだ。味気ない現実を過ごしていると、フィクションに勇気づけられることも多い。だが、あっちの世界に行ったきりは精神のバランスを崩しかねない。あっちとこっちの世界を行きつ戻りつしながら、その人にとってのいい塩梅を見つけていくしかないのだろう。大変現代的なテーマを描いたエピソードだった。

満島ひかりは『お笑いウルトラクイズ』マニア


ドラマの冒頭、刑事・池畑(米村亮太朗)に問い詰められた先生(満島ひかり)が語る、江戸川しのぶ(夏帆)に率いられた史上最悪の熟女軍団“わるウーマン”の紹介がたまらなくおかしい。

「女優は、暴走族上がりの武闘派」
「冷酷無比にしてIQ160超えの知能犯、財テク」
「五社英雄が最後に愛したと言われる女、ラスト・オブ・極妻こと眠れる獅子・アーネゴー」
「影のリーダー“冷静に”が一旦冷静じゃなくなると誰も手をつけられない。奴こそ本物のサイコパス(ウィスパーで)」

先生の身を案じて、刑事たちのもとへ電話をかけてきたカヨに対する罵倒もすさまじかった。以下抜粋。

「冷静に!? あんたたち、こんなことしてタダで済むと思ってんの!?」
「我々は、正義にもとづき……」
「はぁ~~~!? あんたみたいな盛りのついたメスババアが正義とか言ってんじゃねえよ! もういっぺんブタ箱から出直すか!? ブァ~カ! 刑事さんも笑っちゃってるよ。へっ、大卒のクソバエが、ゴラァ!」

思わずカヨが顔を伏せてしまうほどの罵詈雑言。「盛りのついたメスババア」というのがずいぶんなパワーワードだが、これは先生がカヨと検事の長谷川(塚本高史)との獄中交際が始まるのを間近で見ていたからだろう(自分の遠距離恋愛も終わっている頃なので、腹いせでもある)。“メスババア”という“ババアのくせにメスぶってんじゃねえよ”的な言葉も味わい深い。ここでの“メス”とは性的な意味合いの強い“メス”だ(性別を表すなら“ババア”だけで十分)。「大卒のクソバエ」というのは、専門学校卒(美容師になるため)の先生ならではの罵倒語だろう。それにしても“クソバエ”って……。

刑務所で吾郎を捕まる作戦会議を開いているとき、財テクが出した『お笑いウルトラクイズ』の話題に外から入ってきた先生が乗ってきて、みんなが慌てるというシーンがあったが、このとき先生が言った「グレート義太夫が骨折した」「神回」というのは、第2回大会の「石倉三郎○×クイズ」のこと。キレた石倉から逃げるために走る芸人たちが巨大落とし穴に落とされるのだが、落ちた拍子に義太夫は足を複雑骨折するアクシデントに見舞われる。このとき、救急車を待っていた義太夫の足をハンマーで叩いて、どっちの足が折れているかを当てる「骨折クイズ」が行われた。なお、実際には放映されていないのだが、満島ひかりのビートたけしの物まねという貴重なものが見れたので良しとしたい。

さて、物語はいよいよ核心に迫りつつある。吾郎の殺人の手口が徐々に明らかになっていく一方、警察の手は徐々に“わるウーマン”たちに迫り、囚われた吾郎は財テク(菅野美穂)に色じかけを使う。そして先生の本心とは……? 本日放送の第8話から“第2章”スタート! 今夜10時から。
(大山くまお)