宮藤官九郎脚本、小泉今日子主演の火曜ドラマ『監獄のお姫さま』、いよいよ本日が最終回! クライマックス直前となった先週放送の第9話は、これまでに張り巡らせた伏線を一気に回収する、すさまじく爽快感のあるエピソードだった。
今夜最終回「監獄のお姫さま」怒涛の伏線回収9話の興奮、宮藤官九郎「予想のななめ上」宣言に期待しかない
イラスト/まつもとりえこ

満島ひかりが『女囚さそり』に変身!


第9話は重く始まる。馬場カヨ(小泉今日子)は出所するが、「ぜってー来るし!」と言っていた検事の長谷川(塚本高史)は迎えに来ないし、スマホを契約するときは刑務所にいたこを知られて担当者に怪訝な顔をされる。
別れた夫(赤堀雅秋)には息子の公太郎(神尾楓珠)に会わせてもらえない。

刑務所に残された姫(夏帆)はほかの受刑者からいじめに遭い、姫の母親(筒井真理子)は長いものに巻かれたがる思考停止人間で、吾郎は面会時間で再び姫をマインドコントロールしようとしていた。状況は八方塞がりだ。

月日が流れて2017年1月。このあたりから、どんよりとしていたドラマが加速していく。起爆剤はサソリ……じゃなくて先生だ! カヨが勤務している美容室の前でチラシを配っていると、一天にわかに掻き曇り(わざわざCGまで使って!)、先生が登場! つば広帽にサングラス、全身真っ黒のスタイルを見て、思わずカヨが「さそり……?」と呟いたが、元ネタは梶芽衣子主演の映画『女囚さそり』シリーズの主人公、さそり。
満島ひかりが主演した映画『愛のむきだし』で西島隆弘が女装した「サソリ」を思い出した人も多かっただろう。

先生の置き土産はバージョンアップした「復習(復讐)ノート」と折り紙の手裏剣。手裏剣の裏には地図が書かれており、そこへ行くと財テク(菅野美穂)、姐御(森下愛子)、女優(坂井真紀)の姿が! 全員、先生が集めたのだ。手作り惣菜を持ち寄っているのが非常におばさんっぽい。

勇介を誘拐する詳細なプランの立案もすべて先生が行っていた。しかし、財テクがカヨに突っかかる。
メールをいくら送っても返ってきてしまうというのだ。確認してみると、メールアドレスの「babakayo(ババカヨ)」が「bakakayo(バカカヨ)」になっていた! 自分で設定したから失敗してしまったのだ。げに恐ろしきは老眼である。しかし、色違いのお揃いのスマホケース(戦隊もののコスプレの色、ネイルの色に対応している)をかざし、友情と連帯、そして共通の目的を確かめあう4人。復讐のための最後のピース、それが馬場カヨだったのだ。

「反省はした。
でも、後悔はしたくない」(女優)

2話での先生の言葉によると、「反省」とは「現実を受け入れること」、「後悔」とは「ここ(過去)に戻りたいと思うこと」だ。現実を受け入れた彼女たちは、過去を振り返ることなく、目標に向けて前に進む決意をしたのだ。人生は不可逆。

角刈り、手裏剣、ローストビーフ……


9話ではものすごい勢いでこれまでの伏線が回収されていった。

オバケ(あびる優)がさりげなくおまけしてくれたローストビーフは、1話で公太郎が1本丸ごと食べたと話していたもの。ローストビーフが坂道を転がる様は、2人の関係が一筋縄ではいかないことを表しているよう。

カヨが勤務している美容室(原宿から徒歩35分!)は、1話で勇介を誘拐する舞台となった店。
ちなみにロケ地は自由が丘の「TOCA」(ドラマの中と同じ名前)。店長は6話での再犯のせいで刑期が延びて、美容師の資格を取ることができた小しゃぶ(猫背椿)だ。

店に入ってきた先生のセリフ「角刈りにしてちょうだい」は、6話でカヨが角刈りばかりしていたのを間近で見ていた先生ならでは。「私が来た」というサインに他ならない。

もっとも印象的に使われる小道具・折り紙の手裏剣は、5話で先生が勇介にプレゼントした愛情の印であり、“高い塀のおうち”での子育ての象徴だ。

1話で先生が吾郎をぶん殴った警棒は、吾郎が自ら先生に渡していたもの。
「人ごみに流されて」「近くで叱るために」というカヨの語りは、3話での刑務所内のカラオケ大会で歌われていた荒井由実の「卒業写真」の歌詞である。

大ネタもあった。姐御は出所後、コンビニやフーターズ(?)でのバイトを繰り返し、刑務所に戻ろうと万引きを試みるが若えの(尾美としのり)に止められる。元夫の組長(高田純次)が危篤になっていたのだ。ほどなく組長は亡くなるが、4話で語られていたとおり、組長はシャブ取引で莫大な利益をあげており、姐御は20億円の遺産を受け継いだ。「よぉっ! 姐御! 姐御!」(若えの)。


伏線が小気味よく回収されて準備は整った。えどっこヨーグルトを食べながら作戦決行! 姐御は資産家として、財テクは著名人として、吾郎に積極的にアプローチしていき、先生は秘書として吾郎のスケジュールを入手、カヨはメイクとして『サンジャポ』に潜入準備、女優は爆弾などの小道具作製にいそしんでいく。序盤の重苦しさが嘘のように、カヨたちは生き生きしている。

そして2017年のクリスマスイブ。『サンジャポ』収録、有馬記念(今年のクリスマスイブは日曜)、勇介の誘拐、そして吾郎の捕獲! とどめは7話での姫のアイデア「スタンガンでバチバチ!」だ。

板橋吾郎は「チビ社長」だった!?


『監獄のお姫さま』本当の意味での最終章、プレ裁判の開廷! すでにマスコミとネット民により、吾郎誘拐犯たちの身元は特定されつつあった(女優は『恋神』にエキストラで出ていたことまで露見していた)。

爆笑ヨーグルト姫事件の再審請求を行うには、新たな証拠が必要となる。実行犯・プリンスに殺害を指示したのは、姫ではなく吾郎だという証拠だ。

姫を犯人とする決定的な証拠は、姫とプリンスがユキ(雛形あきこ)殺害について語り合っていた音声データだった。姫は酔っていて覚えていないと言うが、法廷では通用しない。傍聴していた吾郎は音声を聞きながら、誰にもわからないように薄笑いを浮かべていた。証拠は吾郎有利だ。しかし、吾郎の妻・晴海(乙葉)が疑問を示す。

「あなた言ったわよね、勇介を2人で育てようって話したとき、しのぶ(姫)もそれを望んでるって。勇介をよろしく頼むってしのぶさんが言ってるって。それで、私はママになる決心がついたの。でも、嘘だったってことよね?」

嘘だ。吾郎は泣き叫ぶ姫から勇介を奪った。しかし、晴海から追及されても、吾郎は話をすり替えてやり過ごす。しぶとい吾郎に対して、今度は財テクがロールプレイを仕掛ける。これまでは吾郎がロールプレイを行ってきたが、今回は逆。

ユキは「廃墟のようなホテルのセメントのようなベッド」で「老犬のようなジジイたちに雑に抱かれて」きた。すべては吾郎の出世のためだ。しかし、今、ユキは捨てられようとしていた。童話「エンドウ豆の上に寝たお姫さま」に出てくる姫のような女、しのぶのために。

「夢がかなってよかったね、チビ社長!」

「チビ社長」とは、えどっこヨーグルトのCMキャラクターで、刑務所の食事時にいつも流れていた「朝ごはんの歌」を歌っていた子どものことだ。あの子どもは、実は吾郎だったのか? たしかにCMの中で「大きくなったら社長になるぞ、えどっこヨーグルト」と言っていた。

「さよなら」と去っていくユキを「それじゃダメなんだ!」と追いかけようとして転倒する吾郎。晴海には「見捨てるならそれでいい」と言い放つ。ユキが言っていたとおり、女性の敵そのもののような汚い手を使って社長の座を掴んだことは認めたのだ。しかし、ユキを殺した犯人だということは頑として認めない。証拠を出せ、と繰り返す。

すると、それまで「爆笑ヨーグルト姫」の映像を繰り返し見ていた検事の長谷川が立ち上がり、沖縄に行きたいと言い始めた。「のぶりん、ちょっとわかっちゃったんですよねー」。今池(上川周太郎)が錦糸町を好きなように、長谷川は沖縄が好きなようだ。長谷川のデスクの後に大きなシーサーが飾ってあった。

長谷川が出発した直後、今度はリン(江井エステファニー)がタイから帰ってきた! リン、前回のレビューで「メルアドを覚えきれなかったんじゃない?」なんて書いてごめんよ……。リンも先生からの指令を受け取っていた。タイから実行犯のプリンスを連れてきちゃったのだ! ええーっ! とにもかくにも、役者は揃った!

「皆さんの予想の斜め上を行けてるのか」


と、見てきたとおり、9話はこれまで張りめぐらしてきた伏線を徹底的に回収し、行ったり来たりしていた時系列をとうとう追いつかせた。ぶっちゃけ、この伏線の張り方と時制のシャッフルは、ながら見する人が多い連続ドラマには向いていないと思う。

実は9話で一度ながら見を試してみたのだが、面白さは半分以下だった。だけど、それを敢然とやり遂げてみせたクドカンとプロデューサー&演出の金子文紀らスタッフは本当にえらいと思う。

で、ここまでのことは9話で整理したのだから、本日放送の10話は突拍子もないことが起こるんじゃないかと思う。「証拠」をめぐる話になると思うが、それだけでは済まさないだろう。クドカン本人は「皆さんの予想の斜め上を行けてるのか、乞うご期待です」と書いている(『週刊文春』12月21日号)。

真犯人は誰なのか? ユキに対する吾郎の本心は? そもそも勇介は本当に不妊体質の吾郎と姫の子なのか? 姫は勇介と会えるのか? そして、おばさんたちが戦っている相手って一体何だ? 『監獄のお姫さま』最終回は今晩10時!
(大山くまお)