そんな匂いを科学の視点から深く掘り下げる、日本科学未来館・メディアラボでの展示「匂わずにいられない!~奥深き嗅覚の世界~」の取材に行ってきました。
少女漫画風のイラストが目印

日本科学未来館は、さまざまな展示や実験教室、トークイベントなどを通して、最新テクノロジーや地球環境、宇宙、生命などにまつわる科学技術を体験できる科学館。「匂わずにいられない!」は、3階のメディアラボで展示されています。
目印は少女漫画風の大きなイラスト。キャラクターは、「匂い」の研究者でこの展示の出展者でもある東原和成教授。嗅覚で捜査する刑事ドラマの監修や、ワインの本の執筆もされています。この日は東原先生も登場し、会場で案内をしていただきました。

五感の中でも「匂い」を感じる嗅覚は他の感覚と比べて、意識的に感じることが少ない感覚です。それだけ身近で本能的な感覚なのかもしれませんが、まだまだ解明されていないことも多い分野です。東原先生によると、人間は求愛や育児などさまざまな局面で無意識のうちに匂いに影響されているのだそう。
匂いの組み合わせは無限大
まずは基本の匂い体験。パンジーの花、古書、土という3つの匂いを改めてかいでみます。
どういうわけか、古書からはバニラのような匂いが感じられます。

ここから分かるように、「匂い」の正体は化学物質。「匂いも音や光と同じようなもの」と思っている人も多いようですが、原因となる匂い物質があるのだそうです。
人間は約400種類の嗅覚受容体(匂いセンサー)を持っており、鍵と鍵穴のように匂い物質がセンサーにぴったりはまるとスイッチが入って匂いを感じます。複数のセンサーのスイッチが同時に入るとピアノの和音のように重なって、単体とはまったく違う匂いを感じます。つまり匂いは400個のスイッチのオンオフの組み合わせ。そのため匂いのバリエーションは無限大に広がっていくのです。
靴下の臭いがチョコレートに変わる
組み合わせで匂いが変わることを、実際に体験できるコーナーも。4つのビンが置いてあり、それぞれA:コーラ、B:シナモン、C:レモン、D:ライムの香りがします。
B、C、Dを同時に嗅ぐと不思議なことに、Aのコーラの匂いになりました。これは、シナモン、レモン、ライムの匂いセンサーの「同時押し」によってコーラの匂いに変わる現象。「プリンに醤油をかけるとウニの味になる」というのも、これと同じ仕組みかもしれません。

もうひとつは「靴下の匂いがチョコレートの匂いに変わる」体験。
匂いの感じ方は変わりましたが、靴下の匂い物質そのものは消えたわけでも変形したわけでもなく、そのまま残っているのがポイント。おもしろい体験ですが、靴下の臭いを嗅ぐときは注意が必要です。
匂いを言葉で表わしてみよう
最後は匂いを言葉で表現するコーナー。ビンの匂いを嗅いで、感じたことを言葉にしてタブレットに入力すると、前方の漫画風イラストにその言葉がセリフとして表示されます。匂いの世界はとても豊かですが、色や音などに比べると表現する単語が少ないのだそうです。そして、人によって感じ方も異なるため、なかなか匂いを表現して共有することが難しいとのこと。

このコーナーで入力した言葉はデータとして集積され、匂いの感じ方の研究にも役立てられます。会期中も1カ月ごとに違う匂いに交換されるので、何度行っても違う匂いが体験できて楽しいかもしれません。
匂いを感じないと寿命が縮む!?

脱臭や消臭など匂いをなくすため商品がちまたにはあふれていますが、東原先生は匂いを排除する風潮を懸念しています。匂いを感じる能力がなくなると、5年以内に死亡する確率が高まるという研究もあり、匂いは危険を感じたり健康を保ったりするために、とても大事なものなのだそうです。
「香り、匂いを排除せず、上手に付き合っていくことが大事です」と、東原先生は言います。
映像と音声で派手に訴える展示に比べると、ぱっと見た感じ、匂いの展示はとても地味な印象があります。
相手が匂いだけに、写真と文章ではなかなか伝わらないところも多いですが、ぜひ実際に訪れて最新の嗅覚研究を知るとともに、匂いの世界の奥深さを感じてほしいと思います。
(山根大地/イベニア)
メディアラボ第19期展示「匂わずにいられない!~奥深き嗅覚の世界~」

<会期>
2017年12月13日(水)~2018年5月21日(月)
<休館日>
毎週火曜日(ただし、12/26, 1/2, 3/20, 27, 4/3, 5/1 は開館)、 年末年始(12/28~1/1)
<時間>
10:00~17:00 (入館券の購入は閉館時間の 30分前まで)
<場所>
日本科学未来館 3 階 常設展 「メディアラボ」
<入館料>
大人620 円、18歳以下210円
<出展者>
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ERATO 「東原化学感覚シグナルプロジェクト」
(研究総括:東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 生物化学研究室 教授 東原和成氏)