サクラ「それぞれの事情の上に命は生まれてくる。育てていくのは家族なんだ」

12月15日放送、金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)第10話。

まだ原作では描かれていない「出生前診断」の問題に、ドラマが挑んだ。
今夜最終回「コウノドリ」出生前診断でわが子がダウン症候群とわかってしまった…夫婦の選択、医師の対応
TBS系金曜ドラマ『コウノドリ』公式ガイドブック (ヤマハミュージックメディア)

第10話 あらすじ


新型出生前診断を受け「21トリソミー陽性(ダウン症候群)」という結果が出た妊婦の高山透子(初音映莉子)と夫・光弘(石田卓也)。詳しいことを知るため、ペルソナ総合医療センターのサクラ(綾野剛)のもとを訪れた。透子は、確定検査となる羊水検査を受ける。
一方、サクラと今橋(大森南朋)がカウンセリングしていたのは、羊水検査でダウン症と診断された夫婦・辻明代(りょう)と信英(近藤公園)。明代は、家族を思い中絶を希望する。

あなたならどうする? 出生前診断


明代「いろいろ考えると、私たちには育てられないと思います」

出生前診断と羊水検査によって、お腹の中の赤ちゃんが「ダウン症候群」だと診断されていた明代は、人工妊娠中絶を希望する。
夫婦で小さい弁当屋を営んでいて、ダウン症のこどもを育てる余裕がないこと。
そして、夫婦に何かあったとき、娘・愛莉だけに負担をかけたくないこと。それが、赤ちゃんを諦める理由だった。

新型出生前診断(NITP)とは、お母さんの血液を採取しておこなう新しい出生前検査のこと。血液の中に含まれている赤ちゃんのDNAを検出する。その際、13、18、21番染色体の数が正常であるか、増加する異常を持っているかなどを調べる。
明代、透子の赤ちゃんは、21番染色体に異常があり「ダウン症候群」と診断された。


新型出生前診断は、日本では2013年に導入された。2016年の調査では、検査によって何らかの先天性疾患があると診断された人のうち96.5%もの人が中絶を希望しているという結果が出ている(参考)。
四宮(星野源)や吾郎(宮沢氷魚)は、それを「命の選別ではないか」と危惧していた。

倉崎「私は、新型出生前診断が生まれたこと、良い面もあると思います。出生前診断に罪悪感、嫌悪感を抱く人が多いですけど、親になる前に我が子の情報を集めるのは、悪いことなんでしょうか」
四宮「きれいごと言うなよ。こどもに疾患があるってわかったら、中絶する親がほとんどだろう」
倉崎「出生前診断を受けて選択する中絶について、どうしてそこまで批判的な人が多いんですかね」

四宮と後輩産科医・倉崎(松本若菜)の意見が対立する。

四宮は、出生前診断によって命の選別をすることに納得できない。「赤ちゃんの情報を親が知る権利があるのは、もちろんわかっている。だがその情報を知ったあとにどうするかを決めずに、出生前診断を受けるのは無責任だ」と、親の意識について指摘した。

でも、夫婦や母親たちみんなが、無責任に、何も感じずに中絶を選んでいるわけではない。

明代「先生、1つお願い。最期、この子、抱いても良いですか」
サクラ「わかりました」

中絶を選んだ明代は、育てることができない小さな我が子を抱いた。
体の痛みにも不安にも耐え気丈に振る舞っていたが、抱っこした赤ちゃんの小ささ、温かさを実感して嗚咽する。

出生前診断で疾患があるとわかったことに限らず、若さや経済的事情、また性暴力・性犯罪による妊娠であるためなど、人が中絶を選択する理由はさまざまだ。
中絶することを「命の選別」と言い換えるのは簡単だが、その言葉を背負うのは母親である女性。まだ元気だった赤ちゃんがお腹を蹴ったこと。中絶手術中、体内を赤ちゃんが移動させられていく感触、痛み。それを体感して、まったく何も感じない人はきっとほとんどいないだろう。


サクラ「(中絶手術は)産科医として、避けられないことだからね。ご家族が幸せになるための選択だと、そう自分に言いきかせてる。でもさ、僕は赤ちゃんが好きだから……」
四宮「ああ」

心も体も傷ついた人に対して「中絶なんて」「命の選別をするなんて」と非難することが、正しいこととは思えない。でも、赤ちゃんが死んでしまうこと、赤ちゃんを殺さなければいけないことは本当に悲しく、やりきれない。何が善い選択か? ドラマにも答えはない。
新型出生前診断と結果の受け止め方については、この医療の進歩した時代を生きるひとりひとりが「自分ならどうするか」を考えていくほかないことを、突き付けられた。


サクラ「家族と一緒に命に向き合っていく」


今夜最終回「コウノドリ」出生前診断でわが子がダウン症候群とわかってしまった…夫婦の選択、医師の対応
ドラマに登場した絵本『ダウン症のぼくから―おなかの中からのメッセージ』(あいり出版)

透子「だめですね、ほんとに私、情けない」
サクラ「そんなことはありません。どんな選択をしても、後悔することはあるんだと思います。その後悔を減らすには、しっかり悩んで決断して、その決断の中で赤ちゃんに何がしてあげられるかを考えることです。お二人で向き合って、ご家族の答えを見つけてください」

一方、透子は夫の光弘、両親、義両親みんなから「産まない方がいい」と言われ悩んでいた。頭では、家族の言うとおり産まない方がいいとわかっている。でも、ずっと表情がなく放心しているような状態の透子。自分の気持ちを見失っている。

作中で夫婦や母親は「(診断結果に)向き合って」と何度も言われる。けれど、ある日突然「赤ちゃんに先天性疾患がある」と言われても、どう向き合ったらいいかわからないと思う。
夫婦で向き合うようにとサクラに促された透子は、光弘に3冊の本を見せた。

射場優香『わが子がダウン症と告知された81人の“声”
安藤忠、細木玉惠・文/松尾歩・英訳/竹岡紀子・絵『ダウン症のぼくから―おなかの中からのメッセージ』(あいり出版
日本ダウン症協会(JDS)『ようこそダウン症の赤ちゃん』(三省堂)

ダウン症だと告知された親はどんな気持ちになるのか、何をしてほしいのか。ダウン症のこどもにしてあげられることは何か。暮らしはどうなるのか。
これからの家族をイメージするために、必要な情報が載った本ばかりだ。知識がなければ、向き合うことも考えることもできない。透子と光弘は、ダウン症を「大変そう」「苦労しそう」という漠然としたイメージではなく、自分たちの赤ちゃんのこととして考え始める。

そして、こどもを諦めると決めた透子と光弘。
最後にエコーで見た2人の赤ちゃんは、元気に動いていた。

透子は、中絶に向けて子宮口を広げるため、措置室に向かう。部屋の前で、脚に力が入らなくなり倒れ込んでしまった。
「この子、私の赤ちゃんなの。私の赤ちゃん。産みたい。でも、怖い。自信がない。でも……」とつぶやく透子を、母親が「あんた、産みたいんだね。大丈夫、あんたがへばっても母さんが一緒に育てる」と抱きしめる。透子は、ようやく自分の気持ちをはっきりとさせることができた。

入院までして、中絶の措置直前になってやっぱり産みたいと意見を変えた透子を、誰が責められるだろう。
産むと決意したから偉いのではない。最後の最後まで、命について考え向き合い抜いたことがすばらしい。透子の母親のように、彼女を抱きしめたい。

サクラ「どの選択も間違っていない。いや、間違ってなかったと思えるように、産科医として、家族と一緒に命と向き合っていく。それが、僕に、僕たちにできることなんだと、そう信じて僕はここにいる」

12月22日(金)は、いよいよ最終回。よる10時から、15分拡大で放送予定だ。
四宮の能登行き、白川(坂口健太郎)の研修、小松(吉田羊)の「ずっと考えていること」など、怒涛の別れの気配にすでに涙が出そう。患者に向き合い、寄り添い続けてきたペルソナチームが、最後に向き合う命と奇跡とは。
第10話は、TBSオンデマンドAmazonビデオTVerで配信中。

(むらたえりか)

金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)
出演:綾野剛、松岡茉優、吉田羊、坂口健太郎、宮沢氷魚、松本若菜、星野源、大森南朋、ほか
原作:鈴ノ木ユウ『コウノドリ』(講談社「モーニング」連載)
脚本:坪田文、矢島弘一、吉田康弘
企画:鈴木早苗
プロデューサー:那須田淳、峠田浩
演出:土井裕泰、山本剛義、加藤尚樹
ピアノテーマ・監修・音楽:清塚信也
音楽:木村秀彬
主題歌:Uru「奇蹟」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

11月18日発売 TBS系金曜ドラマ『コウノドリ』公式ガイドブック (ヤマハミュージックメディア)