荻島「『急いで行きたいなら、1人で行きなよ。遠くへ行きたいなら、みんなで行きなよ』。
アフリカの言葉、俺の先輩が言ってたよ」

「1人じゃない」
「そばにいる」
「いつでもここにいる」
さまざまな登場人物の口から、人に寄り添う言葉が何度も、何度も繰り返された。12月22日放送、金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)最終話。
孤独や悩みを抱えるすべてのお母さん、そしてすべての人へ、あなたは1人じゃないというメッセージを送り続けた濃密で優しい1時間15分だった。
最終話「コウノドリ」先天性疾患、医師たちの決断、四宮の笑顔、そしてインティライミ。ああ、優しかった
TBS系金曜ドラマ『コウノドリ』公式ガイドブック (ヤマハミュージックメディア)

「1人じゃないよ」と寄り添うためには


第10話で、ダウン症候群のこどもを産むと決意した高山透子(初音映莉子)は、再びサクラ(綾野剛)、今橋(大森南朋)、小松(吉田羊)のもとを訪れていた。
自宅でダウン症のこどもの育児に関する本を読み、保育園などを必死に調べていた透子。夫・光弘(石田卓也)との温度差が不安になってしまう。

小松「胎動を感じるお母さんと違って、どうしてもお父さんは『自分のこども』っていう自覚が出るのが遅くなるからね」
透子「夫を責めてはいけないと思います。
それに私も、全く不安がないって言ったらうそになります。産むことは決めたけど、その先のことを考えると……。はあ、良くないですね。もう決めたんだから。私は、たとえ夫と別れて1人になったとしても、この子を育てなきゃ」

光弘も、関心がないわけではない。ただ、こどもの頃に小学校でダウン症のこどもを持つ母親を見かけたとき、すごく疲れて見えたイメージがぬぐえないという。
透子の将来を心配しているのだ。
今橋とサクラは、「ダウン症のあるお子さんを持つご家族の会」の人に会ってみることと、「オランダへようこそ」という詩を薦めた。
最終話「コウノドリ」先天性疾患、医師たちの決断、四宮の笑顔、そしてインティライミ。ああ、優しかった
透子が読んでいた本。『ダウン症児の母親です! 毎日の生活と支援、こうなってる』と『ダウン症のこどもたちを正しく見守りながらサポートしよう!』

「“Welcome to Holland” オランダへようこそ」は、ダウン症のあるこどもを持つ作家エミリー・パール・キングスレイが1987年に書いた詩。公益財団法人日本ダウン症協会のサイト内、JDS子育て手帳のページで訳詩の全文を読むことができる。

詩は、「障害のある子を育てるのってどんな感じ?」という質問に答える形ではじまる。
イタリア旅行に行くつもりで楽しみに準備をしていたのに、到着した場所はオランダだった。
そんなシチュエーションを比喩として用い、「想像していたものと違うこども、子育て」に直面する人たちにヒントと励ましを送る内容だ。

心の痛みは決して、決して、消えることはありません。
だって、失った夢はあまりに大きすぎるから。
でも、イタリアに行けなかったことをいつまでも嘆いていたら、オランダならではの素晴らしさ、オランダにこそある愛おしいものを、心から楽しむことはないでしょう。

JDS子育て手帳『+Happy しあわせのたね』 p.28「“Welcome to Holland” オランダへようこそ」より)

「オランダにある愛おしいもの」を心から楽しんでいる先人として、先輩ママの木村弓枝(奥山佳恵)たちも透子を励ます。
第10話で、弓枝は「(出生前診断が当たり前になって中絶が増え)ダウン症の子がいなくなってしまうのはさみしい」と言っていた。

ダウン症の子が生まれなくなるから、ダウン症について知っている人も少なくなる。知らないがために、親戚や友だちは、弓枝を傷付けることをいろいろと言ってしまう。でも、つらい言葉よりも、こどもの元気がないときのほうがつらい、と弓枝は笑う。

筆者も『コウノドリ』を見るまで、ダウン症があるこどもについてまったく知らなかった。
最近、よく障害者施設の近くに行く機会があり、ダウン症児と道ですれ違うことが増えたなあと感じていたくらい。ダウン症児とかかわりのある人に話を聞いたり、自分で調べたりして「頑固だけど明るく穏やかな性格の子が多い」とか「発達は遅くても大学、大学院に行く人もいる」など、知ることができた。

そして、知っていくうちに、弓枝や透子のようなお母さんを1人ぼっちにさせていたのは、知ろうともしなかった自分のような人のせいでもあるかもしれない、とも考えた。

弓枝の夫は、最初はダウン症児を受け入れられなかったそうだ。そんな自分を顧みて、透子と一緒に「家族の会」に来た光弘に「偉いと思う」「あんた、1人じゃないよ」と声をかけてくれた。
「1人じゃないよ」と誰かに声をかけ寄り添うためには、まず相手を知ることが大切だ。『コウノドリ』を見ることも、きっと知ることの第一歩になる。

「うちのインティライミ」汚名返上


視聴者みんなが心配していたであろう、産後うつの佐野彩加(高橋メアリージュン)、康孝(ナオト・インティライミ)夫婦が一瞬登場した。
“オランダに行った”木村夫婦と、“イタリアに行けた”佐野夫婦が道ですれ違う。


正直、インティライミが演じる康孝が本当に心を入れ替え育児に参加しているか、疑っていた。
康孝は、抱っこひもを使って赤ちゃんを抱え、マザーズバッグを手に持っている。その前を、彩加がニコニコとして歩く。
台詞はなかったけれど、2人の関係性や康孝の姿勢に変化があった様子がわかる。とっても安心できた。

サクラが手に入れた「家族」


ドラマの後半では、小松と同期の助産師で妊婦の武田(須藤理彩)が、帝王切開の手術中に子宮型羊水塞栓症を起こし、心肺停止状態になる。
産科、新生児科、救命救急科からチームペルソナが集まり、お互いの力を出し合って無事出産と蘇生に成功。緊迫しつつも、医師たちの顔ぶれを見ると厚い信頼を感じられたシーンだった。
そして、ペルソナ総合医療センターのメンバーにも、転機が訪れる。

四宮(星野源)は、亡くなった父の跡を継ぎ、石川県・能登北総合病院の産科医となる。
小松は、産前・産後のお母さんのケアをする場所をつくるため、ペルソナを辞める。
白川(坂口健太郎)は、大学病院の小児循環器科で研修医になる。
下屋(松岡茉優)は、すでに救命救急科で救命医として成長しつつあった。
サクラと今橋は、ペルソナに残る意思を改めて固めた。

小松「そっか、ペルソナに来たら、いつでも鴻鳥先生が待ってるんだ」
サクラ「はい」
小松「なにそれ。なんかそれって、家族みたいじゃん!」
サクラ「家族? そっか。ペルソナが、僕の家族か」

児童養護施設で育ったサクラが、ようやく自分で手に入れた家族だ。
大切な言葉を噛みしめて味わうように「僕の家族」とつぶやいたサクラの顔。長く胸につかえていたものが取れたような安堵の表情に、泣いてしまった。

ペルソナファミリーの赤ちゃん・吾郎


最終話「コウノドリ」先天性疾患、医師たちの決断、四宮の笑顔、そしてインティライミ。ああ、優しかった
最新刊・鈴ノ木ユウ『コウノドリ』21巻(モーニングコミックス)

離島で働く恩師・荻島(佐々木蔵之介)に、四宮は「(地方の)設備の整っていない場所でお産することを、尊いとは思いません」と突っかかっていた。
しかし、荻島に「けどな、どこに行っても1人ぼっちで戦わなきゃいけないなんて、そんなことはないんだ」と助言されたこと。また、亡き父がへその緒を遺して逝ったことの意味を思い、考えを改める。
「俺も、赤ちゃんがすきだからな」と言う四宮に、サクラは「四宮は1人じゃない」とエールを送った。

荻島に「しかめっ面は、お前の本当の顔じゃないだろう」とも言われていた四宮。いつ笑うのか、ずっと期待していた。
地域医療研修医として能登の病院に派遣されてきた吾郎(宮沢氷魚)に会い、「邪魔はするなよ、ジュニアくん」と悪態をつく四宮。
吾郎がすかさず「体当たりで学ばせていただきます、ジュニア先輩」と返事をする。
四宮が吹き出すように笑う。

吾郎というキャラクターは、実はとても大切だった。チームペルソナが家族なら、吾郎はペルソナのみんなの赤ちゃんだったのではないかと思うのだ。
産科、新生児科、救命救急科、どこにいてもいつも誰かのそばにいた吾郎。表情や言葉が素直で、人を和ませ、いらだたせ、いてもいなくても話題になる。まだ役には立たないかもしれないけれど、寄り添ってくれることもある。
こう書くと、やっぱり赤ちゃんの存在っぽい。

メンバーが入れ替わり立ち替わりしながら、赤ちゃん研修医・吾郎を一人前にする。それが、「ペルソナファミリー」の子育てだ。チーム内外のさまざまな人が吾郎にかかわる様子は、家族と社会の人々が赤ちゃんに関わる、理想の子育ての一例にも感じられる。
四宮が吾郎の言葉に笑い、吾郎を受け入れられたのは、“赤ちゃんが好きだから”なのかもしれない。

四宮「夢みたいなことを言うやつがいないと、先には進めない」



サクラ「離れてたって、僕たちが目指す場所は同じだ。それに、僕はいつでもペルソナにいて、みんなをつなげていく。お母さん、赤ちゃんと社会を。そして、それぞれの場所でがんばる仲間たちをつなげていく。そういう医者に僕はなりたい。それは、赤ちゃんとお母さんの笑顔につながっていくと思うから」

1人じゃない、ここにいる、と繰り返し繰り返し伝えてくれた『コウノドリ』。テレビドラマができる精一杯まで、視聴者に手を伸ばしてくれた。
こんなにも優しく、誠実であたたかいドラマをつくってくれる人たちがいる。それだけで、見た後に世界をちょっと信じられるようになれる。

世の中を『コウノドリ』のような優しい世界にしたいなら、見ていた我々もまた、誰かに寄り添っていく人にならなければいけない。そんな世界の実現なんて、夢みたいだと思うだろうか。

四宮「夢みたいなことを言うやつがいないと、先には進めないからな」

言っていきましょう。そして、やっていきましょう。ぜひ。

(むらたえりか)

TBSオンデマンド
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TVer(※2018年1月12日(金) よる9時59分配信終了)

▼書籍案内▼
TBS系金曜ドラマ「コウノドリ」公式ガイドブック』 (ヤマハミュージックメディア)
たちばなかおる『ダウン症児の母親です! 毎日の生活と支援、こうなってる』(講談社)
玉井邦夫『ダウン症のこどもたちを正しく見守りながらサポートしよう!』(日東書院本社)


金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)
出演:綾野剛、松岡茉優、吉田羊、坂口健太郎、宮沢氷魚、松本若菜、星野源、大森南朋、ほか
原作:鈴ノ木ユウ『コウノドリ』(講談社「モーニング」連載)
脚本:坪田文、矢島弘一、吉田康弘
企画:鈴木早苗
プロデューサー:那須田淳、峠田浩
演出:土井裕泰、山本剛義、加藤尚樹
ピアノテーマ・監修・音楽:清塚信也
音楽:木村秀彬
主題歌:Uru「奇蹟」(ソニー・ミュージックレーベルズ)