松下奈緒と清野菜名のダブル主演といいつつ、後半はほぼ黒柳徹子の半生記となっていた『トットちゃん!』。
リビング・レジェンドとして今も芸能界に君臨し続けている黒柳徹子の人生を、どの辺まで描いて終わらせるのか気になっていた最終週は、渥美清(山崎樹範)との別れや、母・朝(松下奈緒)のエッセイストとしての活躍なども描かれたものの、メインはやはりトットちゃん(清野菜名)とカール・祐介・ケルナー(城田優)との恋愛話だった。

最期まで祐介に感情移入できなかった……
世界的ピアニスト・祐介と国境を越えた遠距離恋愛の末、祐介が重病にかかって死別してしまうというドラマチックな展開ではあったのだが……、色々とぼんやりしたまま終わってしまった印象が。
そもそも、祐介が具体的にどんな病気なのか、生死にかかわるものなのかも明かされないまま話が進んでいき、いつの間にか祐介が死を覚悟していた。
最期に会った時も、まったく言葉を交わさないどころか、目も合わさないまま「この時、徹子はすべてを悟りました」って。
徹子くらいになると言葉がなくてもすべてを悟れるのかもしれないけど、視聴者にももうちょっと情報をください!
付き合い出した時も唐突だったし、遠距離恋愛中のこともあまり描かれてこなかった。何の病気なのかも分からず、闘病の様子も出てこないという状態なので、イマイチ祐介に感情移入できないまま死を迎えてしまった。
この話に時間を取るんだったら、ほぼすべての日本人が感情移入できる渥美清の死の方をもっと丁寧に描いた方がよかったんじゃ……と思ってしまうが、最終週の構成から考えるに、このドラマのメインテーマは「トットちゃんの芸能界オモシロ交遊録」でもなければ「テレビジョンの歴史」でもなく、「恋愛」だったということなのだろう。
テーマは「恋愛」だったのか!?
そう考えてみると、トモエ学園時代には幸ちゃん、郁夫くんに対する初恋。学生時代には牧師さんに恋した話が描かれてきたし、テレビタレント時代も渥美清と噂になったり、ディレクターの久松(三宅健)に迫られる展開があったりと、ちょいちょい恋愛が描かれてきた。
トットちゃんの周囲の人たちも恋愛しまくりだ。
両親である朝と守綱(山本耕史)はもちろん、「乃木坂上倶楽部」のダニー(新納慎也)とエミー(凰稀かなめ)、そしてシイナ(小澤征悦)。朝の叔母・えつ(八木亜希子)の高齢結婚。久松とシャープさん(趣里)の結婚……などなど。
朝と守綱の恋愛は、守綱のサイコパスな行動をはじめとして濃厚なエピソード盛りだくさんで魅力的だったし、『窓ぎわのトットちゃん』にも書かれていた幸ちゃん、郁夫くんへの恋心も、やたらと鉛筆を削ってあげたり、相撲で勝ってしまったことを後悔したり、木登りを手伝ってあげたり……子どもの恋ながら、かわいらしくて微笑ましかった。
しかしカール・祐介・ケルナーとの恋愛は、「具体的に誰がモデルなのかというあたりはぼやかして欲しい」というリアル徹子の意向があったんじゃないかと勘ぐってしまうのだが、病名をはじめとして、色んな事をぼかした結果、全体的にぼんやりとした印象となってしまっていた。
それをクライマックスに持ってきたドラマ自体の印象もふんわりしてしまって……おしい!
トモエ学園で1クール見たかったよ!
おしい! といえば、やはり放送期間問題だ。朝と徹子、親子二代の話を描くには1クールというのは短すぎた!
最終週ということで、たびたびこれまでの名場面振り返りが流されていたのだが、ダイジェストで見ると、ホントにいいエピソードが沢山あるのだ……。
特に子ども時代、トモエ学園のパートは名作!
大人・徹子を演じた清野菜名ちゃんの、高校時代から60歳超えの徹子までうを演じ分け、じょじょに現在の徹子化っぽくなっていく演技もよかったが、子ども・徹子を演じた豊嶋花ちゃんは素晴らしかった。
竹中直人の小林先生もステキな先生だったし。もう、ずーっとトモエ学園パートを見ていたかった。
放送期間を2クールにして、前半をトモエ学園を中心とした子ども時代、後半をテレビ業界に入って以降、くらいのペースでやれていたら、すんごい名作ドラマになっていた可能性があったのに……。
『徹子の部屋』からの連携も含め、他のチャンネルでは絶対にやれない奇跡的な編成での『トットちゃん!』ドラマ化だったのに、どうして1クールにしてしまったのか……。返す返すももったいない!
なんちゃって朝ドラにはならないで!
この帯ドラマ劇場枠も、次の『越路吹雪物語』で3作目。
1作目の『やすらぎの郷』が、年老いた昭和のスターたち大集合の老人ドラマだったのに対し、『トットちゃん』『越路吹雪物語』は昭和のスターの一代記を描くドラマとなっている。
女の一代記の帯ドラマということで、どうしても朝ドラ感が強くなってしまうわけだが、『トットちゃん!』では松下奈緒、『越路吹雪物語』では瀧本美織が主演と、キャスティングにも朝ドラを意識している感が……。
現在、視聴率ひとり勝ち状態の朝ドラに対抗しうる枠になれると思っている「帯ドラマ劇場」なので、なんちゃって朝ドラになるくらいなら『やすらぎの郷』のような独自路線を突っ走って欲しいのだが。
とりあえず、現在もよくテレビに出ていて、みんなよく知っている黒柳徹子に対して、もう亡くなっていることもあり、歌はよく知っているけど人物像はあまり知らない越路吹雪のドラマをどう見せてくれるのか。
宝塚歌劇団のエピソードも沢山出てきそうだし、とりあえず1月8日の放送開始を楽しみにしよう!
(イラストと文/北村ヂン)
U-NEXTにて配信中