第15週「泣いたらあかん」第81回 1月9日(火)放送より。
脚本:吉田智子 演出:川野秀昭

81話はこんな話
関東大震災が起こった東京へ、風太(濱田岳)が救援物資をもって向かう。
男気を見せる風太
関東が大変なことになった。
救援物資を携えて助けに行こうと考える藤吉(松坂桃李)とてん(葵わかな)。
藤吉を制して、俺が行くと言う風太(濱田岳)。
「俺やったら家族もいてへんし」
「(社長をいかすわけにも)芸人をつれていくわけにはいかん」
ひとりハードボイルドの気炎を吐く濱田岳。家族もいないしって言葉が切ない。
だが、そんな風太にはおトキ(徳永エリ)がいる。
お守りを渡し「無事に帰ってきやへんと一生許さへん!」と送り出す女心。
風太はトントン拍子に、東京でキース(大野拓朗)と会えてしまう。
「このへんでえらそうな大阪弁しゃべるやつ知りまへんか」と聞いたら、そこにキース。
こうしてキースは大阪に戻ることになる。
なんたる、コンビニ展開。
記憶喪失のお母ちゃん
そして、話の中心は濱田岳から銀粉蝶へと移る。
キースが東京で世話になっていた“東京のお母ちゃん”こと志乃(銀粉蝶)は、震災で記憶を失っていた。
キースと一緒にお母ちゃんも大阪に避難して、北村笑店にやって来ると、
たまたま居合わせた栞(高橋一生)が志乃を見て表情を変える。
81話の途中で、栞が部下に、向島あたりがどうなっているか確認してほしいと頼むシーンがあり、それと何か関係がありそうだ。
志乃が記憶喪失になるきっかけとなった「へその緒」との関係は・・・と興味を引く。
それにしても、関東大震災というナイーブな史実で、ここまで偶然の出会いが連鎖するコンビニエンスなストーリーを描く作り手の度胸に驚きを禁じ得ない。
かつて、外国の15分程度の連続ドラマは、石鹸会社がスポンサーであることが多かったため「ソープオペラ」と呼ばれていて、朝ドラもその系譜にあるのかもしれないが、いまなら、「わろてんか」をファストファッションならぬファストドラマと私は呼びたい。
従来の朝ドラのファスト性に立ち返っているような「わろてんか」は、その意義をなんとしてでも、我々視聴者にわからせてほしい。
また「ひよっこ」と比べることを許してほしいが
なんといっても【記憶喪失】・・・。
前作「ひよっこ」でも物議を醸した設定である。過去の名作「澪つくし」(85年)などでも出てくるが、いまとなっては使い古されたご都合主義設定ではないかという世評に、作り手はきちんと、戦後と記憶喪失について説明していた。
わたしも岡田惠和にインタビューしたとき、「記憶喪失」というモチーフをやった理由について教えてもらった。理由はふたつあって、そのひとつはこういうものだった。
“ここ近年、自分の中のサブテーマとして、ベタなモチーフを、自分なりに角度を変えて面白く書き換えることをやってみたいと思っていて。たとえば、『スターマン・この星の恋』(13年)だと“宇宙人との接近遭遇”、『さよなら私』「14年」では“入れ替わり”。そして、『ひよっこ』では“記憶喪失”です。韓流ドラマで用いられたことが印象に強いですが、過去には映画『ひまわり』とか『かくも長き不在』とか『心の旅路』などの名作があって。
(『ひよっこ』ロスなあなたに。脚本家・岡田惠和氏に、あの疑問、この疑問を聞いちゃいました!その2より)
「わろてんか」ではどう捉えているのか。産経新聞で後藤Pが連載している「わろてんかの舞台裏」などで語ってほしい。
救いは内場勝則
なんだか駆け足に話が進むなか、「布団も着るもんも食べるもんもないんやろうな」と東京の惨状を想像して語る亀井(内場勝則)のこの一言には情があって、救われた。
たったこれだけで、じんわりくるのだから、この芸人が愛されるワケがよくわかる。
キースを抱きしめた藤井隆(吉蔵役)も。
長年舞台で、観客の視線を感じながら芝居してきたからこそ、一瞬で、嘘(台詞)を本当に変えて、しっかり届けることができるのだろう。
舞台人ではないが、リリコ(広瀬アリス)の「チャリティーさん」もちゃっかりしているようで、愛嬌や愛情が感じられる。
(木俣冬)