連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第15週「泣いたらあかん」第82回 1月10日(水)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:川野秀昭
「わろてんか」82話「こんなことがまさかあるのかと目を疑ったよ」と視聴者も思った
イラスト/まつもとりえこ

82話はこんな話


キース(大野拓朗)が大阪につれてきた志乃(銀粉蝶)は、栞(高橋一生)のお母さんだった。

あなたは生き別れのお母さん


やっぱり地震の話は見たくないのか、月曜日といっても休日であったせいか、80話は、視聴率16.6%とかなり低かった(ビデオリサーチ調べ 関東地区)が、81話は19%台に戻った。
16%まで下がった朝ドラは「まれ」(15年)以来だ。

ツッコみどころ満載という点において、「まれ」と「わろてんか」は似ているといえば似ている。
似てないのは、主人公の存在感。「まれ」はやたらがむしゃらで、「わろてんか」は妙に大人しい。

さて、82話である。
「こんなことがまさかあるのかと目を疑ったよ」(栞)。
まさに、そんな感じの、まさか、まさかの超展開。


志乃を見て栞は「あなたは・・・」と言うが、彼女は栞に見覚えがないようで。
栞もてん(葵わかな)と藤吉(松坂桃李)に知り合いかと聞かれて、人違いだったと訂正する。
だがしかし・・・。
しばらく長屋に住み、寄席の手伝いをすることになった志乃に、なぜか心揺らす栞。
そして放送10分後、栞は志乃が実母であると、てんと藤吉に告白する。
志乃は栞の父の妾で、金のために栞を売ったのだと。
だから栞は母を恨んでいるらしい。
恨みながらも思慕が捨てきれず・・・という人情劇パターンだが、その事情をじつに淡々と栞は説明するのであった。

キースの苦しみ


こうなると、キースは単に、栞と生き別れの母親をつなぐ係として使われているのかと思うではないか。
だが、さすがにそうではなく、笑いを続けることに悩みを抱えているドラマが用意されていた。
アメリカに行って一旗上げると言いながら、それができず、東京で再起をかけたが、関東大震災でチャンスが潰えてしまいそうになっている。
アサリ(前野朋哉)がもう一回コンビを組んでもいいと言うが、大変な体験をしたため、いまは笑いをやれる気持ちになれないと肩を落とすキース。
笑いは人を救えるか、という、ドラマの本質に迫る部分を担うことになりそうだ。


栞も、母問題のほかにも問題が折り重なって、さあ、大変。
サブタイトルのように「泣いたらあかん」でっせー。

妹が出てきた日


なぜか突然、てんの実家・藤岡家から妹りん(堀田真由)が訪ねて来た。
道修前に支店ができたから、薬を支援物資としてもってきたのだ。
お父さん(遠藤憲一)が亡くなって、風太(濱田岳)とトキ(徳永えり)が大阪に来て以降、てんの実家情報は一切入って来なかった。この頃は嫁に行くと、そんなものだったのかもしれないが。

お母さん(鈴木保奈美)は元気らしいが、話題に出ないので祖母(竹下景子)はおそらく亡くなっているのだろう。「亡くなった」と台詞で言わず、感じさせる巧い脚本を目指しているのか、あるとき、突然、出て来るサプライズを目指しているのか謎である。

いろんなエピソードがタイトルバックの吹き寄せみたいに散らばって、その都度、芸達者なゲストが入れ代わり立ち代わり出て来ては去って行く。団吾も団真もゆりも、安来節乙女組も、寺ギンも、川の流れに乗るように、通り過ぎていった。
これは3ヶ月スパンの連続ドラマの一話完結型のフォーマットである。そう思えば、そのエピソードだけ活躍して退場していくのは、ちっともへんじゃない。
ふつうなことだ。
連ドラだとたまに、後半、サプライズで再登場したりして、それが楽しいこともあるし。
朝ドラを続けて見ていると、ごくたまに、作家が一話完結の連ドラの方法論で書いていて、それが朝ドラになんだかなじまないなあと感じることがあるが、「わろてんか」がまさにそうだ。

1時間もの10〜11話分3ヶ月の連続ドラマと、2時間の映画と、週6回、15分が半年続くというスタイルの朝ドラのフォーマットはそれぞれ違うようで、作るほうも大変だなあと思う。
でも、レギュラーが数人いて、あとはゲストがその都度出てきて盛り上げては帰っていく半年間という朝ドラがあってもいいわけで、それがいつか視聴者に馴染むまで、試行錯誤は続けていただきたい。
(木俣冬)