「平成の怪物」松坂大輔がメディアから注目され続ける理由

未来のことは誰にも分からない。10年前、「中日ドラゴンズ松坂大輔」の誕生を予想した人はいただろうか?
「平成の怪物」松坂大輔がメディアから注目され続ける理由

平成の怪物も37歳になり、フォームや投げるボールも変わり、推定年俸は3億8500万円ダウンの1500万円からの再スタートとなるが、スポーツ新聞各紙は“中日入団テスト合格”を一面で報じた。
復活を期待する声も挙がれば、肩の故障からの復帰は厳しいというシビアな意見も当然ある。
それにしても、いまだに松坂に対する注目度の高さは凄まじい。今の現役日本人投手、ダルビッシュ有、田中将大、大谷翔平といったトップクラスの選手たちとはまた違う種類の注目のされ方だ。年齢はダルビッシュが現在31歳、田中が28歳とそこまで松坂と離れているわけではなく、2009年にはともにWBCの日本代表チームで戦ったこともある。ただ、SNSの利用法やメディアとの距離感が良くも悪くも野球選手として“松坂世代”は最後の旧タイプ、いわば古き良きプロ野球選手像といったイメージがするのは自分だけだろうか?(同じく去就が注目される80年生まれの村田修一にも同じことが言える)


90年代後半の熱狂を生み出した松坂大輔


松坂のキャリアはもはや平成史の一部と言っても過言ではないだろう。1998年8月22日の甲子園決勝戦でノーヒットノーラン達成、99年4月7日の日本ハム戦で155km/h衝撃デビューの映像はこれまで世紀末の日本を振り返る記録映像として幾度となく繰り返し観てきた。例えば、90年代後半を象徴する人物を聞かれたら空前のCDバブルをもたらした小室哲哉、サッカー日本代表を初のW杯出場に導いたニュースター中田英寿、そして野球界からは高卒ルーキーでいきなり最多勝を獲得した10代の松坂大輔が挙がるだろう。
恐らく、あの熱狂をリアルタイムで体験したのが、今の30代以上だと思う。当時、自分も大学の学食でしみったれたカツ丼を食べながら「松坂のデビュー戦凄かったな」みたいな会話を普段ほとんど野球に興味を示さない友達としたのを覚えている。いわば、奇跡の18歳松坂の出現はそれだけ社会的な事件だったのである。
「平成の怪物」松坂大輔がメディアから注目され続ける理由
画像出典:Amazon.co.jp「読む野球―9回勝負―No.11

なぜ彼は世間一般に広く届く存在になり得たのか。全盛期の松坂には圧倒的な実力に加えてファンやマスコミを喜ばせるコメント力があった。ロッテのエース黒木和宏との白熱の投げ合いに敗れ「必ずリベンジします」と口にした6日後の再戦で本当に3安打10奪三振のプロ初完封勝利。
オリックスの天才イチローを3打席連続三振に斬って取り「自信から確信に変わりました」なんてお立ち台で笑ってみせるハートの強さ。99年オフには“リベンジ”が流行語大賞を受賞したが、言葉の力というのは、そのまま選手が持つ“ストーリー性”へと直結する。平成の天才イチローとのアングル、昭和のKKコンビへの憧れ、それらを笑顔で口にする松坂はどの角度からも記事になりやすい選手だった。これが例えばTwitterとかインスタで「次はリベンジします」なんて発信したら軽く炎上するだろう。そういう意味でも松坂のキャラクターは非常に90年代的だと言える。


登板ほぼなし、それでも騒がれる“ヒーロー”


今振り返ると、80年9月生まれの松坂は当時の若者にとって等身大のヒーロー的な存在だった。
自分たちと同世代の人間が大人の世界で大暴れをしている。おまけに19歳の夏に6つ年上の人気女子アナとフライデーされたり、球団広報に駐車違反の身代わり出頭をしてもらったことがバレるような脇の甘さもある。それは遠くイタリアで活躍する孤高の中田英寿とはまた別の親しみやすさを感じられたものだ。プロ入り後3年連続で最多勝に輝き、06年オフのポスティングでは60億円の値が付きレッドソックスで世界一に輝き、WBCでは二大会連続のMVPを獲得して日本代表の二連覇に貢献。この頃、就職して会社のおじさんたちに「オレ、野球で言ったら松坂世代です」なんて自己紹介をした人も多いかもしれない。

そんな同時代を生きたヒーローが近年はあがき苦しんでいる。
この数年間ほとんど投げられていないベテランなのに騒ぎすぎ、意味不明と思ってる若い野球ファンも多いだろう。平成30年のストーブリーグの話題が松坂の入団テストとイチローの日本復帰説ってどないやねん的な批判も少なくない。だが、大谷が去った日本球界でこれだけ騒がれる投手は松坂だけというのも事実だ。

野茂英雄や斎藤雅樹に始まり、21世紀のダルビッシュや田中も凄い投手なのは間違いないが、人気面や社会的影響力を加味すると平成を代表する投手は松坂だと思う。もちろん、もうこの手のロジックそのものが“古き良きプロ野球的”なのは理解している。

野球界を超え、激動の昭和を体現したのが江川卓であり、混沌の平成を背負ったのが松坂大輔だった。


彼らは時代そのものだったのである。
(死亡遊戯)