第6回「謎の漂流者」2月11日放送 演出:盆子原誠
6話、視聴率微減のわけは LOVE?
6話の視聴率は15.1%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)。5話よりちょっと下がったが、土俵際、15%台でぎりぎり踏みとどまった。
熱い相撲が描かれた5話から6話は、のちに勝海舟と共に咸臨丸でアメリカに渡るジョン万次郎(劇団ひとり)が登場し、吉之助(鈴木亮平)と邂逅し、密偵かもしれない万次郎の秘密を吉之助や正助(瑛太)が探るという、というわくわく冒険譚的な回かと思いきや、ちょっと違って、女たちのエピソードに重きが置かれていた印象だ。
万次郎のこの回の役割は、島津斉彬(渡辺謙)に、蒸気船作りをはじめとして、アメリカのいろいろなことを教えることよりなにより、主に「LOVE」の概念を吉之助たちに伝えるためであったように見えた。

その「LOVE」の具体例として、6話は、糸(黒木華)が吉之助のことを思いながらも親の決めた相手・海老原重勝役(蕨野友也)に嫁いでいくまでが描かれた。
冒頭、5話で斉彬との相撲に勝ってしまったため牢屋に入れられた吉之助が切腹させられるのではないかとを心配して、糸が西田下会所まで全力で走る。
「吉之助さぁ〜〜」(絶叫)からのタイトルバックには、現代ドラマっぽい引きのテクニックを感じた。
タイトルバック明け。西田下会所まで来てはっと我に帰る糸。自然に脚が向かってしまうほど吉之助のことを思っていることに気づいて、当人も当惑を隠せない。家に帰ると、せっかくの縁談が壊れることをおそれた父親から謹慎を言い渡されてしまう。
その頃、吉之助は、薄暗い牢屋のなかで、ジョン万次郎と知り合っていた。
前半、やたら画面が暗かった
とにかく、牢屋の画面がやたらと暗く、その後、無事に釈放された吉之助が、万次郎を家につれて帰るが、夜中の家の画面も引き続き暗かった。
牢屋のシーンや夜のシーンにリアリティーを出すためかロウソクや月明かりのような灯りで見せるというチャレンジは一般受けしないのではないかと心配ながら、志は感じる。
暗さに意味を感じたわけは後述するとして、まずは万次郎と西郷家の描写を振り返ろう。45分中の半分、23分くらいまで、万次郎の謎で引っ張る。
真っ暗な牢屋で過ごしたのち吉之助の家で朝起きたら、真っ先に見えた、心配して万次郎を覗き込む満佐の真っ白な顔、子どもに優しく子守唄を歌う満佐の声などに触れていると、キラッキラの陽光が注ぐ故郷・土佐の海での母の思い出が蘇ってくる。
アメリカに渡っていた万次郎は、母のことを思い、死を厭わず故郷・土佐に戻ってきた途中、薩摩で囚われの身となったのだ。
暗闇が深かった分、母の光がまぶしく見えた。
1話のレビューで林真理子の原作の「そもそも女というものは、母親を除けば、こちらの心を与える価値のないものなのだ。女に溺れるくらいなら男に溺れる。本気になって男に惚れるのだ」(上巻22ページ)という部分を引用したが、男尊女卑の思想が色濃い時代とはいえ、母親は価値あるものと特別視されていたようだ。
橋の上の別れ
「おかあへの“ラブ”ぜよ」と万次郎から聞かされる吉之助や正助。
さらに、アメリカでは、母だけでなく、女性への愛も大事で、「アメリカではラブが一番大事」「好きな気持で結ばれる」「親も家も関係ない」と教えられたことで、昔ながらの大河ドラマ好きな方々が眉をしかめそうな青春ラブストーリー(三角関係)展開に。
吉之助や正助は男女の愛に目覚めていく。
糸のことが好きな正助は、糸の心が自分にはなく吉之助に向いていることに気づいていて、糸にラブという名のもとに行動するよう背中を押す。
ところが、ほとんどの関係者が糸の気持ちに気づいているにもかかわらず、吉之助だけが気づかず、正助と糸がラブで結ばれることを願っている。
鈍い。あまりに鈍い吉之助。
糸「西郷吉之助さんを好いちょりもうした」
吉之助「え!」
糸「桜島が噴火したようなひったまがった顔をせんでくいやんせ」
可笑しくも悲しい、ふたりの愛のすれ違いと別れの舞台は、5話で糸が下駄を投げた橋の上。
アメリカのような男女の自由恋愛の時代に間に合わなかったと、糸は自分の人生を諦めて嫁いでいくときもこの橋を渡る。嗚呼、橋とはどうしてこんなに象徴的なんだろう。
糸を遠くから見送る正助。吉之助は橋の上でみんなと並んで見送るが、さすがにちょっと苦悩の顔。
状況を知っている大山格之助(北村有起哉)のなんともやりきれない顔もいい。
この展開、単純な失恋というだけではなく、正助がいい男だと強く糸に勧める吉之助と、吉之助のことを思って潔く身を引く正助の間で、糸としては、この男たちの友情に自分(女の愛)の入る余地はないと痛感させられて諦めたという見方もできそうだ。
「うん、せごどん、まだまだじゃ」というナレーション(西田敏行)で6話は終わる。
女性にとっても「まだまだじゃ」なのだ。
これは、ふつうに面白いドラマだと思う。とはいえ、昔ながらの大河ドラマではなくなっているような気もしないでない。視聴者の年齢層を下げたり、女性層にアピールしたりしながら、新たなドラマを作りたいという狙いなのだろうか。
木の上の物見台(この美術は最高)で正助と吉之助が恋についてこっそり語る場面などはとてもいい感じだ。この物見台の上で、桜島を見ながら、恋も国を変える大望もあらゆることを語り合うふたりは輝いている。
2月18日放送の第7話「背中の母」は引き続き母・満佐の話と、吉之助の最初の嫁(橋本愛)のお話。
(木俣冬)