連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第22週「夢を継ぐ者」第127回 3月3日(土)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:東山充裕
「わろてんか」127話。大規模なショウやパーティーを描くより、松坂桃李ひとりの価値が高い
イラスト/まつもとりえこ

127話はこんな話


お互いの想いを確認した隼也(成田凌)とつばき(水上京香)は、家を出る決心をする。
そんな隼也に、てん(葵わかな)は勘当を言い渡した。


お母ちゃんが可哀想


隼也とつばきが縁側で話しているとき、わずかに藤吉(松坂桃李)の遺影が映っている。お父さんが見守っているなかで、隼也はちゃんと、つばきのことを「好き」と告白。
つばきは「それだけで十分」と応え、家に戻ることにしたが、その幸せを胸に、ひとり姿を消す。
その後を追おうとする隼也を、風太(濱田岳)は、北村の跡を継がないのか、と強く殴って目を覚まそうとする。この場所も藤吉のお仏壇の前だ。

「お母ちゃんにはなんも思わんのか」
「お母ちゃんを置いていくんやない」と
 風太はしつこく言うが、隼也は聞く耳をもたない。
「いまつばきさんをまもってやれるのは僕だけだ」とすっかりつばきに夢中。

てん、可哀想。目がうるうる。
それもこれも、隼也が幼いとき、仕事仕事で寂しい思いをさせてしまったのがいけなかったのか。
なにはともあれ、「勘当」。
このときのてんには、遠藤憲一が宿っているように見えた。
かつて、てんは、遠藤演じるお父さんから「勘当」されている。


隼也はほんとうに困ったちゃん


てんが家を捨てて、愛する人と駆け落ちしているにもかかわらず、隼也の恋を許さないのは、
北村笑店の呪縛から隼也を開放してあげようという気持ちもあるだろう。と同時に、それによって北村笑店を守ることもできる。
てんが、あの場はそうするしかなかった気持ちを察して涙ぐむ風太に、栞(高橋一生)が「笑え」と鼓舞する。

「これからも僕たちはおてんさんを支えていくんだろう」と言われて、ししし、と無理して笑う風太。こういうペーソスは濱田岳の真骨頂だと思う。
一番、可哀想なのは、風太かもしれない。
公衆の門前で、頭取(及川達郎)に土下座して、許しを請うのだから。なんとも切ない。隼也はそれを知るべきだ。

若気の至りとはいえ、みんなに迷惑をかける隼也。
てんの場合は、妹が店を継ぐことになったし、婚約者の栞は理解ある人で、新薬の研究にお金を出してくれたから、家にはそれほど迷惑をかけていない。
だが隼也の場合は、自分のお金とはいえ莫大な父の遺産を詐欺られ、反省して修業して、25周年パーティーの企画を任されていたにもかかわらず、すべてを捨ててつばきに走ってしまった。ひどすぎる。

もっとも、大金を詐欺られたマーティン・ショウも、つばきが好きな作品だったからやる気になってしまっただけで、要するに、詐欺から駆け落ちまですべて、つばきへの恋が原因と言える。つばきも罪な女性である。

土曜レギュラー、藤吉幽霊


25周年パーティーは、終わって後片付けしているところだけ描かれた。
大盛況だったらしく、万丈目(藤井隆)が、伝説のうしろ面を披露したらしい。すべて台詞で解説された。
ショウもパーティーも描かれない代わりに、藤吉の幽霊だけは描き続ける「わろてんか」。
大規模なショウやパーティーを撮影するよりも、松坂桃李が土曜日のみ出演するほうが費用対効果は高いのかもしれない。

127話の藤吉はまず、黒紋付着て、てんから背を向けていたので、うしろ面をやるんじゃないかと期待したが・・・するわけないですネ。
てんと会話して、彼女の気持ちを落ち着けて消えていった。
リアルに考えたら、仏壇やお墓に向かって亡くなった家族などに話しかけることは誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。言葉が返ってこなくても、話しかけることで、気持ちの整理がつくという、そんな感じのことなんだろうなあと思う。

09年放送の朝ドラ「つばさ」では、多部未華子演じるヒロインのもとに、イッセー尾形演じる、妖精みたいな「ラジオの男」がたびたび現れ、会話していた。
同じく「わろてんか」の制作統括後藤高久の仕事なので、
オマージュかもしれない。「つばき」と「つばさ」も似ているし。
春も近いことですし、あたたかく見守りたい。  
(木俣冬)
編集部おすすめ