昨年9月にスタートしたこの企画は、紆余曲折あって「R-1ぐらんぷり2018」への挑戦をゴールとすることになった。
もちろん、斎藤工がR-1ぐらんぷりに挑戦することは誰にもバレてはならない。第9話のタイトルは「前夜」。番組内の時計は2018年1月8日にさかのぼる。

意見をぶつけあう2人
この日、斎藤工はくっきーにR-1ぐらんぷりにエントリーしたことを告げた。1回戦の日取りは1月12日。なんと4日後。焦る2人。ネタ自体は完成しているのだが、焦る理由は「2分」というネタ時間だ。
斎藤工の新ネタの設定は「ぶさいくな男が神様に顔を変えるよう頼むが、神様が変な顔に次々と変える」というもの。顔はマスクを付けることで変化させるため、かわいい顔や筋肉丸出しの顔、実印や間取り図など顔じゃないものまで、さまざまなマスクを作ってある。この中から「2分」に使用するマスクを選抜しないといけない。
マスクの中には「みんなが欲しがる顔」というフリで「麻雀牌(赤五萬)」というのもある。装着した姿形は面白いのだが、麻雀がわからない客だと厳しいかもしれない。2人で相談しながらマスクを選んでいく。
「2人でマスクを選ぶ」というシチュエーションは、これが始めてではない。くっきーが初めて斎藤工のために作った「人印(ピットイン)」の時もそうだった(第2話)。ただ、あの時は用意された3つ中2つはボケだったし、斎藤工はくっきーに言われるがままに「人印」になった。時は流れ、2人は対等な立場で意見をぶつけあっている。
翌日。2018年1月9日。2分ネタに使うマスクが決定し、動きをつけた稽古が始まる。ここでも2人は会話を重ねた。
神様にお願いするにはお賽銭がいるのではないか、柏手は1回か2回か、顔が変わったことを認識するには手鏡がいるのではないか、神様にツッコむのは立って前に出たほうがいいのではないか。
動きを提案し、実際に試し、良ければ取り入れる。最初から通して稽古してみて、録画した映像を確認し、再びブラッシュアップする。1本のネタを作るために、ここまで細かいトライアンドエラーが行われていることに驚く。ネタは台本が完成したら終わりではない。演じるごとに研ぎ澄まされていく。
トライアンドエラーの対象はネタ時間にも及んだ。2分を越えることなく、それでいてギリギリまで笑いを詰め込みたい。自分で小道具一式を持ってスタンバイする練習も必要だ。1秒も無駄にはできないから。
斎藤工はストップウォッチで時間を計りながら、ネタを体に染みこませていく。その作業は本番前日まで続いた。
「影武者」2代目人印襲名
一方、人印である。
斎藤工が新ネタでR-1ぐらんぷり1回戦に出場する1月12日。同じ日の1回戦には人印の姿もあった。さらにその日の夜には『MASKMEN』第1話が放送されている。
即日発表された1回戦合格者の中には人印がおり、『MASKMEN』では人印の正体が斎藤工だと明かされた。「斎藤工がR-1に出場してた!?」とテレビを観ながら思わず立ち上がった。
しかし、今ならわかる。『MASKMEN』第1話の日付は2017年10月。確かにその頃は人印=斎藤工だったが、R-1ぐらんぷり(2018年1月12日)の人印は斎藤工ではない。時系列が違うのだ。すっかり騙されてしまった……。
では、R-1ぐらんぷりに出た人印は一体誰なのか?
斎藤工が「彼です」と紹介した“2代目人印”は、番組ディレクターの井上。俳優どころか、芸人ですらない。
人印は「シュコー」しか言わないので、中身が入れ替わってもわからない。R-1に人印(2代目)が出場することで、世間は「中身は斎藤工!?」と人印に注目する。これで本物の斎藤工のR-1挑戦は誰にも気づかれない。
影武者だ。斎藤工は物理的な覆面だけでなく、心理的な覆面もかぶっていた。
斎藤工「欲を言えば人印にも勝ち上がってもらって、どこかで鉢合わせたいですね。それが『MASKMAN』が『MASKMEN』になる瞬間かもしれない」
番組タイトルの『MASKMEN』が複数形になっているのは、斎藤工やくっきーをはじめ、サンキュータツオやNON STYLE石田など裏で多くの人間が関わっていることを表現していると思っていた。違うのだ。普通にマスク芸人が2人いたのだ。
斎藤工がどんな芸名でR-1ぐらんぷりに出場したのか、まだ番組では明かされていない。R-1ぐらんぷり2018の公式サイトには1月12日の出場者と合格者が公開されており、この中のどこかに斎藤工がいる。
『MASKMEN』(テレビ東京系) 今夜3月16日放送の第10話は「挑戦」。斎藤工のチャレンジは、いよいよクライマックスを迎える。
※TVerでは最新話に加え第1話〜第3話も配信中。見逃した方はぜひ。
(井上マサキ)
U-NEXTにて配信中