連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第24週「見果てぬ夢」第139回 3月17日(土)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:保坂慶太
「わろてんか」139話。これは朝ドラ史にみごと爪跡を残したな、なぜならば
イラスト/まつもとりえこ

139話はこんな話


北村笑店が一丸となってつくった映画「お笑い忠臣蔵」の台本が検閲保留になってしまった。そのわけを、伊能(高橋一生)は、自分にあるのではないかと考える。


検閲保留だが笑顔で前向きに


この数回は、主人公てんが能動的で、気持ち良い。
大事に守られていたり、みんなを見つめていたりする役割も価値はあるが、主人公が意思をもって積極的に動いてくれたほうが視聴者としては、安心するものだ。

検閲保留を撤回してもらおうと、単身、東京の内務省に出かけるてん(葵わかな)。
検閲官の川西(伊藤正之)は改めて台本を音読する。
じつは映画が好きらしい川西は、堀部安兵衛とほりの場面に感動したり、討ち入りの前、四十七士がずっこける場面で笑ったり、ひとしきり楽しむ。
これは保留撤回ある? と思いきや、表情を急に変えて、このままだったら検閲保留のままだとにべもない。
てんは気づく。
これは、「自由主義的傾向がある要注意人物」視されている伊能のせいではないかと。

成果なく、肩を落として、てんが大阪に戻ってくると、伊能は、新世紀キネマの横やりであろうと言い、まだ手がある、僕らのやっていた方向性は間違っていない、と皆を盛り立て、一同は、チェックされた台本28箇所の修正のうえ再チャレンジしようと前を向く。

皆の手前、新世紀キネマの名前を出したものの(実際、新世紀キネマのひとが邪魔をしている)、栞は、薄々自分が国に目をつけられていることに気づいていた。
だがてんは、そんなことはないとにっこり笑って、伊能の気分を楽にする。
こういうときの笑顔は有効である。

伊能がワルモノ視されている様を見ていると、大河ドラマ「おんな城主 直虎」の「嫌われ政次の一生」を思い出す。


てんのド迫力


「世間なんてそんなもんや 人の意見に流される奴ばっかりや」(リリコ/広瀬アリス)

てんのやっていることが新聞に悪く書かれるが、てんは「こんな記事忘れまひょ」とニッコリ笑って打ち消す。
だが、世間はしだいにヒートアップ。
女性たちが寄席に押しかけ、通天閣の買収をやめろとか、下品な笑いはやめろとか、反対の声をあげはじめた。
「男女のはしたいない恋愛を扱っている」との言いがかり(リリコの言うところの、自分の目で確かめもしないで、記事を鵜呑みにしてしまっている)に、てんは毅然と立ち向かう。
「はしたない」でカチン!とスイッチが入るてん。
矢面に立ってわめく風太(濱田岳)を押しのけ進み出ると、「うちの映画はいやらしくもはしたなくもありまへん」とド迫力。

最初、小柄なてんが、下手(画面左側)の女性陣に押され気味だったのが、いつの間にか、てんの背のほうが高く見えるようにアングルが工夫されている。

葵わかなのきりっとした魅力が生きた場面だった。これがいわゆる、さんしょは小粒でもピリリと辛い、である。

当たり前のようにてんに寄り添う藤吉


「うちが伊能さん、守ってみせます」と固く決意するてん。

もう当たり前のように、てんの横に座っている藤吉(松坂桃李)。
一応、鈴の音がカットの頭に入り、てんが鈴を鳴らすと、藤吉の幽霊が出て来るところを省略したことがわかるが、藤吉が亡くなった話を見てない人がいたら、まだ生きていると思うのではないだろうか。
しかも、自分の遺影が飾ってある仏壇に向き合っているとは・・・。

あまりにも斬新だ。
たまに出てきて、話を聞いてくれて、ねぎらって、励まして、寄り添って、アドバイスしてくれる。
亡くなっているから、迷惑はいっさいかけない。
幽霊の藤吉は、理想的な存在だ。
週末に、亡くなった夫が出てきて、主人公と語り合う。
この着想によって、「わろてんか」は間もなく100作を迎える朝ドラ史にみごと爪跡を残したといえるだろう。


いよいよ、残り、2週間!
(木俣冬)