連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第24週「見果てぬ夢」第137回 3月15日(木)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:保坂慶太
「わろてんか」137話。窓を開ければ、通天閣
イラスト/まつもとりえこ

137話はこんな話


映画「お笑い忠臣蔵」制作の準備がはじまる一方で、てん(葵わかな)は売りに出された通天閣を買おうかどうしようか迷う。

映画の準備がはじまる


ドラマの最後、写真コーナーの、女の子がかわいかった!

さて。
映画法が施行されたにもかかわらず、法の目をくぐるような映画を作ろうとする伊能(高橋一生)たち。

ちょうど、慰問に行っていた亀井(内場勝則)やリリコ(広瀬アリス)、シロー(松尾諭)も帰ってきて、役者はそろった。
リリコがほり、その夫・堀部安兵衛を伊能、ほりの父・弥兵衛がシロー(そう、安兵衛は婿養子)で、台本が試される。

討ち入りに行く夫に、命を惜しませるようなことを妻が言うと、検閲に引っかかるのではないか。何かいいアイデアがないかと探る一同。なぜか、シローをほりにするなど、試行錯誤の様子が早回しで描かれる。

安兵衛の横で、余計な動きをするシローが「お父ちゃんが目立ったらあきまへんで」と叱られたり、
伊能が「試しに」「可能性を見てみる」と言ったりしているところが、微笑ましかった。


てんのアイデアが冴える


てんが、ほりと安兵衛の出会い(高田馬場の決闘)“赤いしごき帯”(136話に登場)を使うことで、彼女が夫の命を惜しむ、深い愛情が伝わるのではないかと思いつく。
そして、てんがほり役になって、実演してみる。
背景が黒くなって、手前に花びらが散って、伊能とてんの劇中劇がはじまった。
ひとしきりやると背景の黒幕が落ち、映画準備室になっている道具部屋に戻る。この演劇的、場面切り替えの手法がすばらしい。

シローは「わかるか?」と首をかしげるが、女たちは「わかるわー」とうっとり。
「わかりませんよね」と男同士のわかり合いを求めるシローだったが、伊能は「ぼくはわかる」とばっさり。


検閲で、三谷幸喜の名作「笑の大学」を思い出している、ドラマや演劇が好きな視聴者は少なくないと思うが、三谷幸喜といえば、パルコ歌舞伎と銘打って上演した「決闘!高田馬場」(06年)も名作だ。「わろてんか」主題歌を歌う松たか子の兄・市川染五郎(今年、十代目松本幸四郎となった)が安兵衛をやっていた。

ちょうど一年前、「べっぴんさん」(17年)も後半、みんなで集まって映画作りをしていたから、内容が似通ってしまうので、みんなで演劇(喜劇)をつくるエピソードも見てみたかった気がするが、舞台も映画もやっている会社です、という多様さの必要性や、この時代に映画をつくることの大変さ(「べっぴんさん」の場合は、戦後の豊かさの現れとしての映画だから)を描いておきたいということなのかもしれません。

スタッフは伊能を慕ってくる


伊能を慕って、優秀な助監督、撮影、照明技師たちが、北村笑店にやって来る。
伊能の考えに同意しなかった幹部のおじさんたち(なにやら頭の固そうなご老人)とは違い、実直な印象の人たちばかり。
現場はみんな、ものづくりに対して志が高いことに対して、上のほうが政治的なことや経済的なことばかり考えていて埒があかないことは現実にもあると、身にしみた視聴者も少なくないのではないだろうか。

「もう後戻りできへんで」と風太(濱田岳)、
「北村のあれ」(人は財なり)をよくわかっていると感動するトキ(徳永エリ)。


「伊能さんのやってきはったことはまちがってなかったんや」というてんに、
「うん」と言って、うるうるする伊能。
「あ、それ、真剣だよ」「うそうそ」「ははは」とふざけたり、討ち入りに行くとき雪で滑ってずっこける場面を見て楽しそうにしているところなどと合わせて、なんとも初々しい。
人の本質とは、実年齢では計れない。精神年齢が大切だと思わされる。

窓を開けたら、通天閣


若い頃から変わらず、夢を追ってがんばっている伊能を見て、負けていられないと感じたてんは、売りに出している通天閣を買う気になる。
単に、でっかいことをして対抗しようとしているわけではなく、「こんな時代やからこそ うちらが旗振って 大阪を元気にせんとあかん」という気持ちなのだ。

今日の、風太


帳簿を見るときの、老眼ふうの目つきや、てんの写真を掲げて勲章をもらったことを宣伝しようとするが、てんがいやがるというやりとりなど、137話もいい動きをしていた。

(木俣冬)