連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第24週「見果てぬ夢」第135回 3月13日(火)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:保坂慶太
「わろてんか」135話。脚本の薄さは画でフォロー、がんばれ演出家
イラスト/まつもとりえこ

135話はこんな話


ふいに会社を辞めてしまった伊能栞(高橋一生)を心配したてん(葵わかな)と風太(濱田岳)は、北村商店でいっしょに映画を作ろうと誘う。

栞、会社を辞める


伊能が辞めたと聞いたてんが慌てて伊能フィルムに押しかけると、すでに社長室は様変わりしていた。
残った山下(玉置孝匡)がてんに事情を説明する。

このときの照明は真っ白で、伊能不在が強調されている。てんがふと伊能のデスクを見ると、照明がアンバーに変わり、回想場面になる。この流れが滑らかだ。保坂慶太演出が冴えている。

おかみの言うとおりにすることに社員らが口々に「異議なし」と言ったところ、伊能だけは「異議あり」と返し、「映画で大衆に感動を届ける それこそが会社の原点だ 原点を切り捨てれば必ず行き詰まる そう思わないか」と問いかけるが、賛同する者はいない。
背景は、きつく照った夕日で、まさに斜陽の感。

会社の幹部だろうと思われる年齢層の高い人たちの身長差も高低あって、画にメリハリが出る。
その中央奥にいる山下が顔に手を当て、やれやれという気持ちを体現。ベタと言えばベタだが、画面的には締まる。

誰もついてきてくれる者がいないので、伊能は会社を辞めることにする。
辞める意思を表明する小道具は、印鑑。

そののち、伊能は、これまで製作した映画のポスターの数々を出した部屋のなかで残務整理をし、酒と散らかった書類の数々の中、北村商店との提携書類を見て、藤吉にてんを助けてほしいと頼まれたことを思い出す。

親友の願いを聞けなくなった思いの表現は、乱暴に書類を投げつけること。その勢いから、伊能の苦渋の想いが伝わってきた。

長屋のひとコマ 酒盛りのあとは枕の投げっ子や


1週間後、東京から帰ってきて、屋台にいる伊能の隣に、さりげなく風太が座った。
東京でパートナーを探したがみんな萎縮していると、肩を落とす伊能に、てんと風太は、映画を作りたいから、力を貸してほしいと切り出す。
風太は伊能を家につれていき、酒を酌み交わしながら、
「重たい鎧つけとるんやちゃいますか」
「うちでまた新しい人生はじめたらええ」
など良いことを言う。

「酒盛りのあとは枕の投げっこや」って、それが男の定番なのか。

長屋のひとコマ お花が咲いている


てんがふと思い出して、引き出しをごそごそ。伊能が最初に配給した洋画「マリアの恋」のパンフレットをみつける。
台本が短いのか、ごそごそする時間が長いが、引き出しにいろんなものが入っているのがわかって、生活感が出た。

なつかしのパンフをもって外に出ると、栞が酔さましに軒下のベンチに座っている。
「このときの情熱さえなくなさったら大丈夫やないですかね。うちは伊能さんに映画作り続けてほしいんだす」とてんが励ますと、栞は、
「外国の自由な風邪を日本にも吹かせたいと思った。
でも観客の喜ぶ顔を観て 自分の手で映画を作りたいと思った。
泣いて笑って恋をして
人生はすばらしいんだぞ
そういう映画を作りたいと思った
それが夢だった」と振り返る。

それを傍らで聞く葵わかな(てん)は、一生懸命、伊能の気持ちに耳を傾け、それを頭に描き、反応しようとしている。その意思がこの場面を心打つものにした。

「伊能さんのその夢うちらにも見させておくれやす」
と言っているてんの背景に花(植木鉢)を置くことで、人生のすばらしさ、未来の希望が感じられる。
さらに、その奥に、てんと栞を見守るように、長屋に昔からあった弁天様みたいな像が映っている。弁天様は芸能の神様だ。
保坂慶太回は、美術スタッフの仕事もちゃんと視聴者に感じさせてくれる。


伊能が風太の家に戻ると、風太は寝相悪く寝ていた。
それを見ながら、何か考える伊能の表情も印象的だった。
保坂慶太演出回は、「伝説巨神イデオン」の湖川友謙アングル(古い例えですみません)みたいな、けっこう俳優の顔にパースをつけたカットで、画面に迫力や情感を出すことが多い(撮影、照明スタッフが保坂回だけ違うわけではないので演出家の選択だと考えられる)これだけで、だいぶ、受け取る感じが変わる。
短い15分とはいえ、意外と要素を入れないと15分でも間延びする。その足りない分は画で埋める。それが演出のお仕事のひとつ。

ただ、照明に陰影つけて角度をつけたアップの多用は、男っぽく、大河ドラマふうになってしまうので、好みが分かれるかもしれない。
これぞまさしく“女の大河ドラマ化”(冗談です)。

保坂回のレビューわろてんか56話はこちら


今日の、あさイチ


「伊能ちゃんいいじゃん甘えて」と有働さん。
「仲間がいてよかったね」とイノッチ
この日は、やさしい、朝ドラ受けだった。
特集は「突っ張り棒」
「伊能ちゃんも突っ張らずに(てんと風太の好意を受け取って)」とつぶやいた視聴者も少なくないだろう。
(木俣冬)