『おかえりモネ』第1週「天気予報って未来がわかる?」

第2回〈5月18日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』BUMP OF CHICKENはなぜ主題歌「なないろ」で「僕」と歌っているのか
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

BUMP OF CHICKENの主題歌の歌詞は「僕」

彩雲を見るといいことがある。雨上がりの山に分け入り、木々の間から空を仰ぎ、サヤカ(夏木マリ)から聞いたジンクスを噛みしめるモネ(清原果耶)

【前話レビュー】『おかえりモネ』第1回 朝ドラ育ちの清原果耶を歴代ヒロインの相手役が守る仮面ライダー大集合的な最強さ

海の町で生まれ山の町で働く主人公・モネの成長を描く『おかえりモネ』
モネが実家を出た理由には何か深刻なことがありそう。育った土地を出て森林組合に就職したものの、モネはそれでもまだ自分が何をすべきか迷っている。妹・未知(蒔田彩珠)がテレビに出て、自分のやりたいことを明確に語る姿に打ちのめされる。

主題歌はBUMP OF CHICKEN「なないろ」。翔けるように軽やかなメロディを聞きながら、ふと歌詞が気になった。人称代名詞が「僕」だったからだ。
「僕」視点の歌だった。主人公が女性なのに。

ここまで「僕」とはっきり主張している主題歌は今まであっただろうかと気になって、近年の主題歌をざっと確認してみた。主題歌のなかった『あまちゃん』(2013年度)以降では「僕」はひとつもなかった。ただ「僕ら」はある。「なないろ」もフルバージョン聴くと「君」が出てくるが、「僕ら」ではなく「僕」を使っている楽曲は近年はないのだ。


GReeeeNによる『エール』の主題歌「星影のエール」は「僕ら」。主人公が男性で夫婦の物語だったから「僕ら」はしっくり来る。ほかに「僕ら」を使っているのは、Mr.Childrenによる『べっぴんさん』の主題歌「ヒカリノアトリエ」。朝ドラは主人公が恋して結婚して共に歩んでいくので、「僕ら」もしっくり来る。

このように男性視点の歌詞も少なくないが、たいてい女性に向けて歌っている。桑田佳祐による『ひよっこ』の主題歌「若い広場」は「君」。
一箇所だけ「あの娘」の三人称がある。スピッツによる『なつぞら』の主題歌「やさしいあの娘」はタイトル通り「あの娘」である。

宇多田ヒカルによる『とと姉ちゃん』の主題歌「花束を君に」もタイトルどおり「君」。二人称を使うと、男性がある女性を想って呼びかけているように感じられる。「あなた」を使っているのが、星野源による『半分、青い。』の主題歌「アイデア」、松たか子による『わろてんか』の主題歌「明日はどこから」など。
この「あなた」は男性から女性に向かっているようにも聞こえるし、逆に考えることもできるし、同性同士と考えることも可能である。

明らかに女性視点の「私」と感じるのは、Superflyによる『スカーレット』の主題歌「フレア」やAKB48による『あさが来た』の主題歌「365日の紙飛行機」。これらは「私」の意思が強く出ている。ドラマの内容もやりたい職を見据えて自立する女性の物語にマッチしている。DREAMS COME TRUEの『まんぷく』の主題歌「あなたとトゥラッタッタ♪」は「あなた」と「あたし」。「あなた」といる「あたし」がすごいという、夫婦ものらしい歌詞である。


こうして振り返ると、男性視点、女性視点、様々ではある。最たるものは『まれ』で、「希空〜まれぞら〜」は合唱で、特定アーティストの楽曲ではない。人称は「わたし」「僕ら」「あなた」とあって混声の合唱らしさを感じる。

『おかえりモネ』BUMP OF CHICKENはなぜ主題歌「なないろ」で「僕」と歌っているのか
写真提供/NHK


『おかえりモネ』BUMP OF CHICKENはなぜ主題歌「なないろ」で「僕」と歌っているのか
写真提供/NHK

朝ドラは女性が観る女性主人公の作品が多いからとはいえ、歌詞の代名詞は「私」ばかりではなかった。とはいえ、今回の「なないろ」は「僕」が他者に向かって歌いかけているものではなく、あくまで「僕」主体で、それは朝ドラとしては非常に珍しいことが、2013年度から調べてわかった。

ジェンダーフリーの時代にふさわしく、朝ドラ=女性が観る女性のドラマではなく、みんなのドラマ化している表れではないだろうか。
ただし「僕」が旅しているらしき歌詞ではあるが、最後の最後で「教えるよ」と誰かに言葉をかけるのだ。その余韻が効いている。

余談になるが、朝ドラの主題歌は空模様を歌った歌詞が多い。その分析はまた別の機会に。

朝ドラ歴代主題歌比較

ドラマタイトル/主題歌/人称 
2013年度前期『あまちゃん』/インストゥルメンタル/歌詞なし
2013年度後期『ごちそうさん』/ゆず「雨のち晴レルヤ」/君
2014年度前期『花子とアン』/絢香「虹色」/あなた
2014年度後期『マッサン』/中島みゆき「麦の歌」/あなた
2015年度前期『まれ』/合唱「希空〜まれぞら〜」/わたし・僕ら・あなた
2015年度後期『あさが来た』/AKB48「365日の紙飛行機」/私
2016年度前期『とと姉ちゃん』/宇多田ヒカル「花束を君に」/君
2016年度後期『べっぴんさん』/Mr.Children「ヒカリノアトリエ」/僕ら
2017年度前期『ひよっこ』/桑田佳祐「若い広場」/君
2017年度後期『わろてんか』/松たか子「明日はどこから」/あなた
2018年度前期『半分、青い。』/星野源「アイデア」/あなた
2018年度後期『まんぷく』/DREAMS COME TRUE「あなたとトゥラッタッタ♪」/あなた・あたし」
2019年度『なつぞら』/スピッツ「やさしいあの娘」/あの娘
2019年度『スカーレット』/Superfly「フレア」/私
2020年度『エール』/GReeeeN「星影のエール」/僕ら
2020年度『おちょやん』/秦基博「泣き笑いのエピソード」/人称なし
2021年度『おかえりモネ』/BUMP OF CHICKEN「なないろ」/僕



【関連記事】『おかえりモネ』第1回 朝ドラ育ちの清原果耶を歴代ヒロインの相手役が守る仮面ライダー大集合的な最強さ
【関連記事】『おかえりモネ』第1週あらすじ 永浦百音が住む登米に人気気象キャスター朝岡がやって来る
【関連記事】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新 ※ネタバレあり!

※『おかえりモネ』第3回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami