連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第25週「さらば北村笑店」第142回 3月21日(水)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:鈴木 航
「わろてんか」142話。火事、閉鎖、召集令状…一気に来た
イラスト/まつもとりえこ

連続朝ドラレビュー 「わろてんか」142話はこんな話


昭和18年〜19年、試練のとき。買った通天閣が火事で焼け落ち、建物疎開によって南地風鳥亭が取り壊されることになり、隼也(成田凌)に召集令状が来る。


さらば、南地風鳥亭


「試練のときがはじまります」(ナレーション・小野文惠)
わずか15分の間に、買った通天閣が火事で焼け落ち、空襲による火災の被害拡大を防ぐための建物疎開によって南地風鳥亭が取り壊されることになり、隼也(成田凌)に召集令状と一気に来て、まったく慌ただしい。

風鳥亭が閉鎖したら、従業員や芸人が路頭に迷ってしまう。てん(葵わかな)はなんとかしようとするが・・・撤回できず、藤吉(松坂桃李)の遺影に涙ながらに謝る風太。でも、てんはこんなときでも毅然としている。
「寄席が消えても北村の心は消えるわけやない 藤吉はんやったらきっとそう言わはるわ」

あさ8時1分(本放送放送時間)に「風鳥亭閉鎖」が発せられてから6分ほど見ながらずっと気になっていたことは、この建物は殿堂であってもちろん大事だが、風鳥亭ってここだけじゃないよねえということ。いくつも寄席の支店があるはずなのに、すべてが終わった感じに見えるのはなぜなのか・・・と思いながら、ドラマを見続けた。
8時7分、いよいよ事務所が片付き、香盤表の札も外されていく。それを見ると、ここ南地ふくめて26もの寄席と、5つの演芸場があることがわかる。これが一気になくなったとしたら、それは大変だと思う(モチーフの吉本興業の、この頃の状況と見比べて語ることはあえてやりません、念のため)。

めくりで、過去の人物を回想。文鳥師匠(笹野高史)、団吾師匠(波岡一喜)、ウタコ、キチゾー(枝元萌、藤井隆)、怪力岩男(岡大介)・・・をなつかしむ。

「また大阪中にお客さんの笑い声、響かせまひょ」というてん。
「始末、才覚、算用」「人財」の家訓をとうとう外す。

トキ「これ外すときが来るやなんて」
亀井「ほんま思いもしまへんでしたわなあ」
としみじみ。
てんは頭を下げながらも、「けど 笑いの灯はけっして絶やしません」。

そして、ほかの寄席も閉鎖や取り壊ししたとナレーション(小野文惠)があって、天満風鳥亭ほか4軒が残って「芸人らは大忙しでがんばってる」と風太の台詞で解説された。

……なんだ、残ってるじゃないか。全部がなくなったみたいなムードを醸して心配させるの、人が悪いわあ。もちろん、大事な建物がなくなったら辛いのはわかる。でも、原点の天満をはじめまだ4軒もあるのだから、強く明るく生きていけるではないか、と思ったが(戦時中はそんなのんきな感じではないという状況を自主的に補填して語ることもあえてしておりません、念のため)、天満はもともと亀井(内場勝則)のつくったものを買ったものだったと思い直しました。

その頃、隼也は


駆け落ちして、藤一郎(南岐佐 隼也の子供時代も演じていた)が生まれて親子3人仲良く暮らしていた。141話で、外国の歌を歌いながら踊っていると、アメリカの歌を歌うなと怒られて、ドイツの歌だと誤魔化すところは良かった。さすが、つばき(水上京香)も隼也もアメリカ帰りだけあってクレバーだ。
そんな隼也たちも建物疎開を言い渡される。
そして、てんの元へ隼也の召集令状が届く。

やっと役に立ったな


食糧難のなかで、どこかから食料を調達してきたイチ(鈴木康平)に、「イチよ、やっと役に立ったな」と風太。
ほんに、従業員のイチとお楽(河邑ミク)は、風鳥亭の初期からずっと出ているにもかかわらず、なんのエピソードも描かれないままいまに至る。それはずっと気になっていたので、この台詞に胸のすく思いがした。おそらく、この「イチよ、やっと役に立ったな」は、濱田岳による、長らく撮影を共にしてきた仲間への気遣いのこもったアドリブではないだろうか。
(木俣冬)
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