そんな少女漫画のヒーロー像を完全に無視した男を描いて大人気の「俺物語!!」。
今回は「俺物語!!」の主人公・剛田猛男が現実にいたらモテるのかというお話をさせて頂きます。
質実剛健。最強の漢である剛田猛男は果たして現実でもモテるのでしょうか?
「顔が武器にならない」という言葉の意味
正直に言って、猛男の外見は女性から高評価を得るタイプでは御座いません。
これは「顔が悪い」と言っているのではなく、猛男の顔は「恋愛において武器にならない」ということで御座います。
もちろん「顔が武器にならない」からと言って、それがそのままモテないということは御座いません。顔が良いに越したことがないのは間違いありませんが、仮に悪くても「武器にならない」というだけであり、それ以外の部分が優れていれば、モテるためには何一つ問題ないのです。
この点を「ただしイケメンに限る」と言いがちな方には是非ご理解頂きたく思います。
とは言え、猛男の顔が「女子受け」しないのは事実。
ですので猛男がモテるためには「顔」以外の何かがなければなりません。それでは猛男のモテ要素は具体的に何か。それは「性格」と「体力」でしょう。
このどちらも猛男は、人間のレベルを逸脱していると言わざるを得ません。体力の方は分かりやすいかと思いますが、鉄骨を支えたり、経験者とはいえ飛び入り参加の柔道で名門校の主将を倒したり、崖から落ちても彼女の大和を守りつつ無傷だったり、スケートでトリプルアクセルを決めたりと、化物じみております。
漫画的演出がどの程度現実でも実現可能かは分かりませんが、少なくとも猛男の体力が超人レベルなのは間違いありません。もちろん体が強い、運動神経が抜群、というのもモテる要素であることは間違いないので猛男の武器になることでしょう。
素晴らしいが異様な性格
猛男の性格は現実では類を見ないほど「綺麗で優しい」と言えるでしょう。
自分のことを考えることなどほとんどなく、常に相手の幸せを願い、困っている人がいれば条件反射で助けてしまう。間違いなく素晴らしい性格なのですが、もし猛男のような性格の人間が現実に存在したら、私は仲良くなれる自信があまり御座いません。
理屈としては、どう考えても素晴らしい人格者なのですが、人格者だからこそ彼のことが好きになれないのではないかと思います。
彼の性格は端的に言って「綺麗すぎる」のです。本連載の第2回で登場した加持リョウジの言葉を借りるなら「情欲に溺れている方が、人間としてリアルだ」と言ったところでしょうか。
卑屈でなく、欲がなく、正義感に溢れ、人の幸せを願える。
そんな、論理的に考えれば聖人君子のような性格は、我々俗物からすると、一種の気味の悪さすら感じるのではないかと思います。
たぶん、私が現実で彼と会ったら、こんな感想を抱くことでしょう。
「彼は肉体的にも、性格的にも、彼は人間ではない」と。
人間が元来持っている「7つの大罪」
キリスト教の7つの大罪である「色欲」「傲慢」「強欲」「暴食」「嫉妬」「怠惰」「憤怒」。
この7つは人間の根源的な欲望であり、キリスト教ではこれらの欲望に人間が流されたとき、道を踏み外すというのが基本的な考えのひとつになっております。
ここで重要なのは7つの大罪は「無くすもの」ではなく「人間には元来こういう悪いところがあるから、気をつけようね」と考えるべきであるということ。
人間は薄汚くどろどろした欲望が必ずあるのです。通常は清廉潔白な人間などこの世には存在いたしません。
私は先ほど猛男のことを「人間ではない」とお伝えさせて頂きましたが、それは猛男にはこのような醜く汚い欲望があまりにもないから。猛男に「欲望がない」とまでは言いませんが、人間らしいどろどろした欲望が猛男にはあまりにも存在しない。
確かにそれは素晴らしい人間なのかもしれませんが、そんな素晴らしい人間が「魅力的な人間」かと言えば話は全くもって別問題でしょう。
「彼女が浮気してるかもよ?」と言われても少しも嫉妬しない。自分の悪口を言われても少しも怒らない。偉ぶるところもなく、水着姿に興奮することなどこそあれ性欲もほとんど見えてこない。
そんな理想的な存在が、魅力的な存在かと言えば、私は首を傾げずにはいられません。欲や煩悩を表さない猛男のことを「高尚な人間」と思えるほど私たち俗物は、心に余裕がないのです。
それでは欲にまみれた俗物の我々が、猛男のことをどう思うかといえば「こちらとしっかりと向き合っていない」と感じることと思います。
相手が嫉妬してくれる。性欲にまみれてくれる。調子に乗ってる。こちらの行動に対して「叱る」のではなく単純に怒っている。
どれもこれも恋人であれば別れるに値するような欠点でしょう。しかし、こういった欲望が多すぎるのは確かに問題なものの、こういったものが全くないと、それはそれで大きな問題であると言わざるを得ません。
確かにできる限り真面目に欲におぼれないように生きるべきであると私も思います。ですが、時には欲にまみれて狂わないと、人間は生きていけません。
ヘルシーなハンバーガーよりも、脂ぎったどう見ても体に悪そうなファストフードは売れていく。
これからの日本のことを考えて自由と平等と権利をしっかりと考えよう、と綺麗なことを言っている街頭演説は誰も聞きませんが、なんとかして君にお金を回そうという汚い話には人はいくらでも群がる。
芸能人の浮気スキャンダルは隠しても隠しても広がるのに、まじめに勉強している話など1日も保たずに消えていく。
人間は綺麗な水の中では生きていけません。
その欲望とどう向き合うかが重要であり、欲望が存在しないかのように振る舞うのは、正しいのかも知れませんがまともだとは思えません。
理性で打ち勝ち欲望を抑えた人間と、そもそも欲望が全然ない人間。
どちらの方が魅力的かといえば、私は迷わず前者を選びます。
この世界にはそんな汚い欲望がない人間が1人たりとも実在しないと信じているので、極めて差別的な断言をするならば、
そういう汚く醜い欲望がない人間は、人間ではない。
欲をなくした人間は人を幸せにしない
猛男は間違いなく素晴らしい人格者で御座います。私はそのことを否定するつもりは御座いません。
ですが、人格者だからと言って人を引きつけるかといえば話は全くもって別問題。昔から、綺麗でまっとうな人間というのは、嫌われこそせよ、人から好かれたりはしないのです。
その理由は極めて簡単。
私たち庶民は人格者ではないから。
人間という生き物は基本的に欲にまみれる生き物で御座います。ですので宗教にしても法律にしても道徳にしても「欲にまみれないようにしましょうー」と言うのですが、だからといって「完全なる無欲」が理想的な状態かと言えばそんなことは御座いません。
欲にまみれるでもなく、欲をなくすでもなく、その中間。中庸こそが理想的な状態であると言えるでしょう。
普通の人間は欲まみれの方に偏っているのですが、猛男の場合はその逆「無欲」の方に極めて偏っているのです。一見するとそれは素敵なように見えますが、無欲もまた「偏りすぎ」であることに変わりはありません。欲まみれと同じように危険な状態に他ならないのです。
ですので綺麗すぎる猛男にはぜひ「俺、すげえ大和とセックスしたい」くらいのことを思い、言って欲しいもの。そうすれば猛男の綺麗さと汚さのバランスはだいぶ是正されるのですが……。
結婚してはいけない相手
酒飲みは体も壊しますし、お金も使います。
酔ったときに問題を起こすこともあるので、酒飲みと結婚しない方が良いでしょう。
たしなむ程度ならまだしも。
博打打ちはいくらでも金を使います。
休みの日に家族サービスをすることもありませんし、借金をすることだってあるので結婚しない方が良いでしょう。
小遣い程度の博打ならまだしも。
煙草を吸う男はとにかく健康面で問題が御座います。
臭いも酷いですし、本人だけでなく周囲の人間の健康まで害するので結婚しない方がいいでしょう。
マナーを守っているならまだしも。
しかし、酒を好まず、博打を嫌い、煙草は健康に悪いと軽蔑し、ましてや女遊びにも興味を示さず、腹八分目を心がけ、決して怠けないまじめな男がいたら。その男とだけは絶対に結婚をしない方がいいでしょう。
「何言ってんだこいつ」と感じる方も少なくないことと思います。
ですが、欲にまみれて自分勝手な男は確かに問題がありますが、その逆で、汚い欲が全くない綺麗な男に問題がないかと言えば決してそんなことは御座いません。
汚さも綺麗さも、過ぎればそれは毒になる。綺麗さに偏るというのも極めて重大な問題であるということをご理解頂ければ幸いです。
猛男は現実でもモテるのか
猛男のように「汚い欲望」が全くない男は、正直に言って私はあまり好きになれません。
「汚い欲望」があまりにもないと、猛男の彼女になった女性は多くの場合において「自分が本当に好かれているのか」と不安になることでしょう。
嫉妬もされない、性的に強く求められることもない、ただただ自分の幸せだけを願ってくれる。
作中で猛男の彼女である大和は、ことあるごとにお菓子を焼き、猛男はそのお菓子をどんな時でも美味しい美味しいと食べますが、これは理想的な世界では御座いません。どんなケーキを焼いても喜んでもらえないのも困りますが、どんなケーキを焼いても喜んでくれるのもそれはそれで嬉しくない、困りものなのです。
そんな彼氏を持ったら、普通は「この人は、なんで私なんかと付き合ってくれているんだろう」とか「この人は私と付き合って何の得があるんだろう」と不安になることでしょう。
大和のように素直に信じることなどそうそうできるとは思えません。
しかし、今日の社会の風潮を見ていれば猛男のように「汚い欲望」がまるでなく、酒も飲まず煙草も吸わず、風俗に興味もなく博打も打たないような男性が求められていることを私も少なからず感じております。
正直に言って、私はそのような男を決してオススメ致しません。
もちろん欲に押しつぶされてしまっている男性は問題ですが、ほどほどに楽しんでいるのであれば、それは欲望の扱いができているということ。そもそも欲望がないかのように振る舞っている男の何十倍も信用ができる。
私が時代遅れなのは重々承知しておりますが、猛男のように汚い欲が全くない男性は、立派な人間であるものの、私はあまり好きでなく、出来ることならそんな男がモテて欲しくないと思います。
ただ、おそらく彼は現実にいてもモテてしまいます。
しかし、そんな男性と付き合った女性が幸せな人生を歩めるかといえば、私は必ずしも肯定することができません。
なお、私は「酒を飲め」とも「タバコを吸え」とも「博打を打て」とも「女遊びをしろ」とも言いたいわけではないということをご理解頂ければ幸いです。
(上野)
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