連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第1週「生まれたい!」第4回4月7日(土)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二
「半分、青い。」6話。最初の1週間、これはいい朝ドラのはじまりだ
「永野芽郁 in 半分、青い。」PHOTO BOOK
東京ニュース通信社
これまで、朝ドラがはじまる前は、NHK出版のムック本のみだったが、今回は、もう一冊書籍が出た。これも広報戦略の新たな挑戦だという。NHK のムックと比べて、鈴愛としてではなく永野芽郁としての撮り下ろし写真が多いが、鈴愛のときの表情との違いが明確で、俳優としてこんなにも変化できるのだとわかるのも興味深い。

6話はこんな話


鈴愛(矢崎由紗)の発案した糸電話の実験で川に落ちてしまった律(高村佳偉人)。
律の母・和子(原田知世)に怒られた翌朝、鈴愛はようやくその話をして母・晴(松雪泰子)を驚かせる。

そこへ和子が訊ねて来た。
「あんなかわいい顔して底知れんこわさがある」と晴は身構える。

ここがすてき1 チャレンジ精神


朝ドラのヒロインは、高いところに登るか、水に落ちることが多いが、「半分、青い。」はヒロインの相手役・律が川に落ち、ヒロインは彼を背負って走ることになった(スズメファイト!と連呼される劇伴つき:菅野祐悟)。これも、話題になった“主人公が胎児の頃からはじまった”ことに続く、新機軸。それでいて、女子が男子を背負うという痛快な表現はしっかり女の子を応援するドラマになっている。
伝統をリスペクトしつつ、新しいことも試してみる、新作歌舞伎みたいな感じがする朝ドラである。
朝ドラの伝統といえば、「家族」も大事なモチーフのひとつ。

「半分、青い。」はまず、家族をしっかり描いているところがいい。

ここがすてき2 あったかい家族


「半分、青い。」では主にふたつの家族が出てくる。
80年台の岐阜梟町に住む、主人公の楡野家と、相手役・律の萩尾家。ふたつは庶民と富裕層として対称的に描かれている。

6話では、萩尾家で、律が喘息で水に弱いと思わせたことを和子がとがめ、鈴愛たちの前でお尻を叩く。
糸電話は没収。
でも、そのあと、あったかいココアを子どもたちにふるまう和子。

「本心でなくても言っていいことがいけないことがあるの」
「やっていいことといけないことがあるの」
じつに教育が行き届いている。

楡野家では夜、晴と鈴愛とが並んで寝ながら、こわい話をして、夢の話(三本足のムーミンパパ)から、糸電話の話になって、そこから鈴愛が生まれるときの話になって(この話がふんわり連なっていく感じがリアル)、お父さん・宇太郎(滝藤賢一)も加わる。
晴「海に落ちる ワニに食べられる」
宇太郎「うるさいぞ ワニが起きたぞ〜」
布団のなかで「海に落ちる」と大騒ぎ。なんてイマジネーション豊かな一家。
けじめをしっかりつける萩尾家に対して、楡野家は、のびのび、感謝と愛情で育む。

ここがすてき3 エピソードが素敵に連なっている


翌朝、たまごかけごはんを食べながら、「昨日律が川に落ちた」と報告する鈴愛。“海に落ちる”と“川に落ちる”がリンクしていた。

「半分、青い。」はいろいろなエピソードがビーズ細工のようにすてきにきらきらと繋がっていく。

濡れた律を送り届けた萩尾家で、ブッチャー(大竹悠義)と菜生(西澤愛菜)とお絵かきして、その画才を発揮する鈴愛。
彼女が描くものは、やや古い漫画キャラ。「あしたのジョー」や「マグマ大使」。
それは宇太郎の影響だった。食堂は、営業戦略のひとつとして漫画をたくさん置いていて、鈴愛はそれをよく読んでいたという設定なのだ。

古いものをよく知っている鈴愛に「ほんとはババアなの?」と聞くブッチャー。
こういうことを言ったり言われたりした経験のある人は少なくないはず。兄や姉がいると、ちょっと前のカルチャーに詳しくなるものなのだ。

子どもは親に影響されるということ。鈴愛の絵の才能などが、さりげなく描かれた。
糸電話も、鈴愛がお腹のなかにいたとき、晴と宇太郎が、お腹の中に糸電話で話しかけていた思い出と繋がっていた。


ここがすてき4 子どもが見ても楽しい


5話で、カエルを避けようとして転倒してしまったおじいちゃん仙吉(中村雅俊)。
煙草をやめたにもかかわらず、煙草を買いにいって、亡くなったおばあちゃん廉子(風吹ジュン)がカエルになって止めたのかもというような趣旨のことを、キミカ先生(余貴美子)が言う。キミカ先生もイマジネーション豊か。

朝ドラでは、亡くなった人への愛情表現として(だと思う)、転生させることもある(ぬか床とか)を受けた場面であろうが、この場面のあと、楡野家で夢の話やおねしょの話、生まれたときの感動の話、夜の海に落ちる話などなり、こういう描写は子どもが親といっしょに見ていても楽しめるのではないかと思う。

恋愛の神様・北川悦吏子と公式でも煽っていたし、実際、ゴールデンタイムで2、30代のための恋愛ドラマを描いて大ヒットさせてきたという実績もあるが、「半分、青い。」はいまのところ、レンジを広くして、家族で見られるあったかいドラマだと感じる。

はじまって1週間見て、優れた作家は、枠の特性や、視聴者のことをちゃんと考えたうえで、オリジナリティーを発揮し、その熱量が視聴者の気持ちを高めるものなのだと再認識させられた。


高視聴率を誇り多くの人が注目する朝ドラに関しては、このような高レベルの作家を常に起用し、かつ、その作家の才能を最大限に生かすクオリティーコントロールに気を使ったうえで、制作してほしいと願う。
(木俣冬)