連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第2週「聞きたい!」第8回4月12日(木)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二
「半分、青い。」10話。朝ドラヒロインは「喪失」を抱えて生きる
「永野芽郁 in 半分、青い。」PHOTO BOOK 東京ニュース通信社
永野芽郁に特化した書籍のためか子役に関してほぼほぼ載ってない。NHK出版の「NHKドラマ・ガイド半分、青い。」には子役の紹介も載っている。

10話はこんな話


ふいに鈴愛(矢崎由紗)は左耳の不調を感じ、名古屋の病院で検査の結果、失聴とわかる。

突然の喪失


律(高村佳偉人)の飲んでいる喘息の薬と同じ、ピンクのステロイドのアップから、星野源の主題歌「アイデア」へ。

検査の結果、鈴愛は、おたふく風邪のウイルスによって、ムンプス難聴になっていた。

医師(眞島秀和)が、鈴愛の両親(松雪泰子、滝藤賢一)に片耳の失聴で人はどうなるかを丁寧に説明する(とても台詞をはっきり言うのは聴覚を専門とする医者だからこそだろう)。
例えば、「気配って音なんです」(だから気配が感じられなくなる)など。
当たり前に送っていた日常生活が不自由になることがわかる。

ここで主人公は突如として大きな喪失を体験することになる。
朝ドラで描かれる大きな喪失といえば、戦争とか震災とか身内の死など。それを乗り越えていく姿を視聴者は応援していく。
喪失という運命を背負うことによって、鈴愛は、朝ドラヒロインとなったといえるだろう。
でも、つらい。

台詞は踊る


北川悦吏子が書いた、原田知世主演のドラマ「運命に、似た恋」(16年)で
「つぐみ(主人公の愛息子)は真下から空を見るのが好きで 地面を蹴って飛ぶ。そのあとは空が落ちてくるみたい」という台詞があって、詩的だなあ〜と思って見た。
「半分、青い。」にも続々と詩的な台詞が。とりわけ10話には多かった。

「今 鈴愛の左耳は面白い」
「ときどき小人が歌って踊る」
「左耳だけ海に行ってまった」
「私、風の真ん中にいる」
「(左耳に)バイバイって言えんかったな」など。


詩的な台詞とはちょっと違うけれど、印象的だったのは晴(松雪泰子)のこれ。

「みなさんの話はどうでもいいです。私の娘はひとりです」

医師から、世の中には失聴した人はたくさんいる、というようなことを言われ、こう反応した晴の言葉を聞いて、「半分、青い。」はとことん“個”を大事にしているなあと感じた。
9話のレビューでも書いたが、例えば、「マグマ大使」も、大半のひとが、このドラマの時代に興味をもってない作品ではあるが、楡野家にとって、鈴愛にとっては、愛着ある作品として描かれている。こういうほかの人とは違う愛しいものって誰でもひとつふたつもっているはず。
「半分、青い。」というドラマが、星の数ほどあるドラマのなかで、“私”のたったひとつとても大事なドラマに育っていくといいなと思う。

帰れ!


喘息の発作が起きて、律は、遊びに来ていた鈴愛に「帰れ」と言う。
しょげる鈴愛に和子(原田知世)は、律の気持ちを、マグマ大使だから、英雄だから、弱いところ見せたくないのだと説明する。
頭が良くて、頼りがいのある律だが、彼はすでに喪失(健康)を抱えていて、それを必死でひとに気づかせないようにしている。
鈴愛が喪失を味わったことで、律との結びつきがいっそう強くなりそうだ。

ドリフの「8時だよ!全員集合」の主題歌、ババンババンバンバン♪を口ずさみながら、天井を仰ぎ見て、ぼんやりする鈴愛。涙をこぼさなかったというナレーション(風吹ジュン)もあって、突如としてぐっと大人びた感じがした。


愛着もそうだけれど喪失も、大なり小なり、誰もが体験し抱えているものだ。
たくさんの人が見るからと最大公約数的な表現を選択してフラットになってしまいがちなドラマに、誰とも違う、自分だけの喜びや悲しみを描きだそうとする「半分、青い。」。
ドラマが大きく飛ぶ土台は着々と作られているとはいえ、ちょっとつらい朝でした。
(木俣冬)
編集部おすすめ