連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第6週「叫びたい!」第33回5月9日(水)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

33話はこんな話


上京前夜、晴(松雪泰子)の布団に潜り込んで語らって、鈴愛(永野芽郁)はいよいよ東京に向かう。

これは・・・愛や


子どものとき、怖い夢を見ると母の布団に潜り込んでいた鈴愛。
それをダシに使って母との別れの時間を過ごす。

赤ちゃんのときに手をきゅっと握ったのは「原始反射」で、
いま握っているのが「これは・・・愛や」という鈴愛。

子どものときは、お父さん(宇太郎)が「ワニ〜」と言って割り込んで来たけれど、今夜は母娘ワニいらずならぬ水いらずにしてくれる。
親子三人でわちゃわちゃしないことで、娘が大人になったことを感じる。
ワニの出番がなく寝たふりしている(?)滝藤賢一は、どんな気持ちであの場面にいただろう。
あと、小さい布団に収まっていられる松雪泰子と永野芽郁が細さを痛感した。

何度もレビューで書いているが、「半分、青い。」が素敵なのは、家族固有の共通言語を作っていること。
「マグマ大使」への愛着しかり、布団が船で布団から出たらワニが出るという、楡野親子が創作した物語しかり。
ドラマの中に頻繁に出てくるメジャーな流行りものよりも、こういう、自分たちにしかわからない愛するものがやさしくキラキラ光って見える。だから、ドラマを見ていると、すっかり忘れていた、自分の子ども時代の家の様子が浮かんでくる。

見送り


いよいよ出発。その朝、律(佐藤健)は自宅で引っ越し作業。鈴愛の見送りには行かない。
「晴れてよかった」という弥一(谷原章介)に、薄く微笑む律。
そこに元気な雀の鳴き声がかぶる。
バスに乗りそびれた・・・! という勘違いを一回はさみ、それは反対側のバスで、ほ。
見送りに来たのは、家族のほかに、菜生(奈緒)で、カエル柄のワンピースをプレゼント。
カエルはおばあちゃんで楡野家の守り神ということで、風吹ジュンのナレーションが東京でも機能する
ことの正当性をつくっているのだろうか。
このワンピースは北川悦吏子がほんとうに永野芽郁に贈ったものだとTweetされていた。

鈴愛が秋風羽織(豊川悦司)に認められたことが凄いと、いままで「何かが邪魔していままで言えなかった」という菜生。ドラマでは、主人公が輝く分、そうじゃない子が必ず出てくるわけで。カエル柄のワンピースのセンスからして、独特なセンスの衣料品店を継いでいく宿命なのかと思う。自分がいいと思ったものはいい。そういう強さがこのドラマにはある。
「半分、青い。」33話「大好き!」からの生原稿にコーヒーぶっかけ
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鈴愛が乗ったバスが出発し、見送りのみんなから遠ざかっていく。
鈴愛はバスの窓に息を吹きかけ、「大好き!」と書く。見送る宇太郎たちから見ると逆さまだけど、ちゃんと判読し、じわっとなる。「ひよっこ」(17年)148回でみね子(有村架純)が「大好き」とカメラ目線で言っていたことを思い出すが、アイドルが「DAISUKI!」とささやく番組は91年の放送。
バブルはアニメにも恩恵をもたらし、OVA (オリジナルビデオアニメ)という商品が成立していた。88年から89年にかけて発売されたOVA「トップをねらえ!」(庵野秀明監督)のラストにも文字をつかった仕掛けがあった。【ネタバレします→】時空を越えて遠い宇宙から戻ってきた主人公が、ある文字を見て感激する。それがまた一文字逆さになっているからこそ余計に見る者の気持ちをくすぐった。

いよいよ東京、いきなり大失態


1990年、昭和天皇が崩御された翌年、平成2年。バブルが崩壊しはじめたとはいえ、まだまだ勢いが残っている。
その勢いに飲まれそうな鈴愛。
オフィスティンカーベルにたどりつく(前にも書いたが、この外観は、北川悦吏子のドラマ「運命に、似た恋」で斎藤工演じるカリスマデザイナーの家の外観と同じ)。
そこでいきなり原画にコーヒーをこぼすという大失態・・・前途多難感を醸してつづく。
(木俣冬)
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