プロ野球シーズン真っ盛りだが、贔屓チームの勝敗に一喜一憂するだけがプロ野球ファンじゃない。偉大な記録や鮮烈な記憶をもとに、過去の名選手を語りだしたら止まらない人は大勢いる。


そんなファン心理を巧みに突いたのが今年1月に放送された特番『ファン1万人がガチで投票! プロ野球総選挙』だった。タイトルどおり、1万人のファンが現役選手、外国人助っ人、OBあわせて8800人をランキングにしたもので、野手部門が1位イチロー、2位王貞治、3位長嶋茂雄、投手部門が1位大谷翔平、2位野茂英雄、3位稲尾和久という想定外の結果となり、大きな反響を呼んだ。

それならばプロ野球選手が選んだ「史上最高の選手」は誰なのか? ランキングはどうなるのか? 頭の中に浮かんだ疑問を実行に移してしまったのが『レジェンドOBが選んだ! プロ野球史上最高の選手総選挙』(宝島社)である。
野村克也が伊藤智仁を新庄が立浪を!『プロ野球史上最高の選手総選挙』片手にうまい酒を飲もう

ノムさんが選ぶ「頭脳ナンバーワン」の投手は?


この本は、金田正一、野村克也、張本勲、山田久志、福本豊、柴田勲、掛布雅之、北別府学、山本昌、山崎武司、谷繁元信、田尾安志ほか、111名にも及ぶ「レジェンドOB」たちが独断と偏見で投手ベスト5と野手ベスト5を選び、それを集計してランキングにしたもの(自薦は不可)。レジェンドOBのインタビューもたっぷり収録している。

総選挙の結果は本書を見るまでのお楽しみ。ここでは興味深いコメントを引用してみたい。


球史に残る大捕手にして名監督・野村克也が投手1位に選んだのは、400勝投手・金田正一(国鉄ほか)。「まあ(全盛期なら)いまでも通用するだろうね」と絶賛だ。投手3位に選んだ江夏豊(阪神ほか)については「投手としての頭脳でいえば、俺が接したなかでは江夏がナンバーワン」と評価している。投手5位に伊藤智仁(ヤクルト)を選んでいるのも趣深い。

世界の盗塁王・福本豊が選んだ投手2位は東尾修(西武ほか)。「気が強くて、打たれたら(打者に球を)当てにくるし。
パ・リーグの打者はホンマ苦しみましたからね」とのこと。物騒きわまりないが、福本は自分に当たりそうな球を打つ練習を繰り返していたという。

ミスタータイガース・掛布雅之が選んだ投手5位は、今年急逝した星野仙一(中日)。それほど球速もなく、「なんであのボールで強気に攻められるんだろう」と振り返っているが、「10本ヒットを打たれても、点を取られなければいい」「点を取られる前に、打線を分断してスリーアウトに取ればいい」という頭脳的なピッチングが特徴だったという。

「松坂の登場はプロ野球の転換期」


今日のパ・リーグ人気の立役者、スーパースター・新庄剛志が選ぶ2位は立浪和義(中日)。「なにより立浪さんは、かっこいい!」「プロは人気商売、やっぱ、かっこよくなくちゃ」というコメントが新庄らしすぎる。ランキングとは関係ないが、肩の関節をわざと外して脱臼状態にすることで手を20センチ以上伸ばしてホームランボールをキャッチしていたという自分のエピソードがすごすぎる。


最多試合出場記録を持つ名捕手・谷繁元信が野手2位に選んだのは前田智徳(広島)。「好調時の彼は試合前のミーティングでも『抑えるところはない』と言われるほどの穴のない打者でした」「最後は『打ち損じてくれ』と念じるしか手がない」と笑う。

「精密機械」の異名をとった沢村賞投手・北別府学が選んだ打者4位は松井秀喜(巨人)。松井によく打たれたという北別府は「彼に打たれて引退したようなもんです」と振り返っている。

頭脳派エースとして活躍した小宮山悟が投手4位に挙げたのは松坂大輔。小宮山は「松坂の登場はある意味、プロ野球の転換期だった」と指摘する。
それまではプロとアマチュア、特にプロと高校生との間には歴然とした差があったが、松坂は球界の常識を飛び越えて18歳で16勝をあげて最多勝投手となった。松坂以降、ダルビッシュ有、田中将大、大谷翔平、藤浪晋太郎などの選手が高卒でプロ入りして早い段階から活躍するようになる。松坂は「『時代が変わった』ことを象徴する存在だった」と小宮山はコメントしている。

大谷翔平を評価するレジェンドOBは?


大谷翔平(エンゼルス)はレジェンドOBからの評価も高い。川上憲伸は「大谷のまっすぐのスピードは異常」と投手1位に。亀山つとむは野手1位に大谷の名を挙げている。
「異次元という感じ」と言う池田親興は投手1位と野手5位に選んでいた。

そのほか、岩村明憲が第1回WBCで選手たちがこぞって王貞治(巨人)にサインをせがんでいたエピソードを明かしていたり、中村紀洋が落合博満(中日ほか)のホームランをまとめたビデオをテープが擦り切れるまで繰り返し見ていたことを振り返ったり、山崎武司が谷佳知(オリックスほか)とヤワラちゃんの結婚式の思い出を語っていたりと細かな部分まで読みどころ満載。

本書の最後に控えし、400勝投手・金田正一のインタビューのタイトルが「この企画には無理がある ワシの右に出るヤツはおらん」というのも最高! ランキング選出は拒否! さすが「プロ野球界の天皇」の異名をとるだけのことはある。天上天下唯我独尊。

自分のランキングと近いOBを探すのもよし、仲間と議論をするのもよし。プロ野球ファンならこれを肴にうまい酒がたらふく飲めるはずだ。
選手名鑑とともに、プロ野球ファン必携の一冊だろう。
(大山くまお)