先週放送された第7話の視聴率は再び回復して7.3%。本当に0.1%刻みで上昇しているのだが、最終回までに第1話の10.6%を超える“グランデ インヴルサ”(ポルトガル語で「大逆転」)を起こすことができるのだろうか?

トラブルメイカー・佐藤隆太の帰還
総支配人・佐那(戸田恵梨香)の兄・誠一(佐藤隆太)が突然、ホテルに舞い戻ってきた。誠一は父・剛の後を継いで総支配人になったのだが、傍若無人な経営を繰り返した挙げ句、資金を持ち逃げしていたのだ。
この誠一という男、サングラスに短パンにブルゾンという服装からもわかるように、非常に陽気でC調な人物に見える。当惑するホテルマンたちに対しても「ファミリー」と呼びながらハグを繰り返し、持ち出した資金は偶然行き着いた島の子どもたちのために学校をつくったと語っていた。
経営には向いていないが、陽気で気まぐれで人情家。つまり、『男はつらいよ』の寅さんのような人物のようにも見える(実直な妹が家を守っている構図も同じ)が、実は非常に陰湿で計算高い男なのが透けて見えている。時貞(渡辺いっけい)への告発状を書いていたのも誠一だった。フレンドリーな男がこんなことはしない。
誠一はホテルマンたちの前で、過半数の株を所有したことを明らかにし、自分が総支配人の座につくことを宣言する。株式会社である以上、誰も誠一に文句を言うことはできない。さらにそれぞれのポジションをシャッフルすることを宣言した。「改革には痛みをともなう」という政治家のような言葉も白々しいが、頼みの宇海(岩田剛典)も誠一に従うしかないと言う。
浜辺美波を「ウチの子」と言う中村倫也
誠一のシャッフルにしぶしぶ従うホテルマンたちだが、意外とかいがいしく働き始める。総支配人から清掃員になった佐那は小公女といった風情。彼女を慕うピエール(チャド・マレーン)と大田原(くっきー)も清掃員に。
一方、清掃員だった尚美(西尾まり)と長吉(宮川大輔)は厨房に入り、厨房にいた江口(中村倫也)とハル(浜辺美波)はフロントへ。競艇狂いで傲岸不遜だった江口が、客に笑顔で接するとは……。事務の丹沢(鈴木浩介)はバーテンに、バー責任者だった梢(りょう)はウェイトレスになり、清掃員の裕子(川栄李奈)とウェイターの服部(佐伯大地)も真面目に事務作業をこなしていた。
ポジションのシャッフルによるトラブルをほとんど描かないのは、視聴者のストレス軽減、つまり見やすさにつながっている。ただでさえ誠一の出現でストレスフルなのに、さらにトラブルを見せつけられたら、視聴者はつらくなってしまうからだ。そのあたりのさじ加減がうまい(その分、リアリティはない)。
唯一、ハルがフロントでトラブルに巻き込まれるが、佐那が駆けつけてセーフ。江口が佐那に「ウチの子、困ってるから」と告げるところがほのぼのする。ウチの子って。
ガンちゃんの大逆転!
誠一は取引先の銀行の融資担当者・横山(谷恭輔)と共謀して、ホテルの売却計画を進めていた。時貞には反発が予想される従業員たちの抑え込みを指示するが、時貞は従うことができず、佐那にすべてを打ち明ける。
第1話からホテルの資金の横領疑惑があることが示唆されてきた時貞だが、事実は総支配人時代の誠一から新車をプレゼントされたというものだった。ホテルのために懸命に働いていた折、臨時ボーナスだという誠一の言葉を信じて車を受け取った時貞だが、実は代金はホテルの資金から捻出されていた。「これでお前も共犯者だ」と言われ、その空気に抗うことができなかったと悔いる時貞は、佐那に退職願を出す。
そして、ついに誠一がホテル売却に動き出す。佐那をはじめとするホテルマンたちを集めて売却を公表し、反発されると、それぞれの欠点をあげつらいながら金で丸め込もうとする。なにせ、誠一は過半数の株を持っているから誰も逆らうことはできない。
すると、そこへ宇海が現れる。宇海は誠一が6%の株を譲渡されていない事実を突き止めていた。さらに、全国に散逸していた10%の株を買い戻す旅に出ていた時貞も戻ってきた。もちろん、宇海の指示だ。16%の株が35%の株を持つ佐那に譲渡され、名実ともに佐那が総支配人へと返り咲く。
呆然とする誠一に、宇海が言う。
「お兄さん、私たちのこと、ファミリーって言ってくれてましたよね? でも、家族を傷つける人は、家族じゃないですから」
血縁だけが家族じゃない
(誠一は血縁にもとづいたホテルの後継者だ。妹の佐那とも、もちろん血縁がある。誠一はホテルマンたちのことを「ファミリー」と呼んでいた。事実、ホテル「グランデ インヴルサ」は家族的なホテルマンたちに支えられてきた。
しかし、総支配人の頃の誠一は気ままに「ファミリー」の首を切り続け、今また彼らの「家」とも言えるホテルを売却しようとしていた。佐那の気持ちも平気で踏みにじっている。
「家族を傷つける人は、家族じゃない」という宇海の言葉は至言だ。血縁や婚姻関係があっても、家族に暴力をふるったり、家族の心を踏みにじったりするような人は、もはや家族ではない。自分は家族であると主張しても、このように追放されることになる。逆に言えば、これまでの世の中では、どんなに傷つけられても家族だからと耐え忍んできた人がとても多かったということだ。
相手を思いやることができる人たちが集まれば、それは家族になる。江口がハルのことを家族のように「ウチの子」と呼んでいたのも、その表れだろう。
ところで先週、佐藤隆太の登場が最終回近くまで尾を引くと予想したのだが、こんなにあっさり片がつくとは思っていなかった。あらためて訂正いたします。申し訳ございませんでした。
今夜放送の第8話は、7人の王女がホテルにやってくる。どうやらハルと大田原に焦点が当たりそうだ。夜10時半から。
(大山くまお)
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