大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第26回「西郷、京へ」7月15日(日)放送  演出:野田雄介
「西郷どん」26話。タイトルバックの映像変わった、ライアーゲームのはじまりか
「西郷どん!」並製版 中 林 真理子
原作の中巻の後半をいまドラマでやっているところ。

西郷どん! 中

岩倉、勝、坂本登場


奄美大島、徳之島、沖永良部島と、途中一旦薩摩に戻った時期もあるが5年もの長期にわたる島流しの後、薩摩に戻って早々に吉之助は京都へ行くこととなった。
そこにはすでに大久保一蔵(瑛太)がいて、さらには岩倉具視(笑福亭鶴瓶)、勝海舟(遠藤憲一)、坂本龍馬(小栗旬)がいた。

これまでなぜか出てこなかった「勤王」「佐幕」「攘夷」というワードもようやく当たり前のように台詞に出てくるようになり、ここからいよいよ政治的な争いが本格的に描かれるということかと期待が膨らむ。


岩倉具視は自分で魚を焼いて焦がしてしまうところが初登場場面(用心深く、毒殺されないように自分で食事を作っていたらしい)、竜馬はひょっとこ面をかぶって踊った後、面を取って小栗旬の顔が出るという、もったいつけた初登場の仕方をした。
これからの革命編の立役者たちだから印象的に出したかったのだろうが、なぜか勝海舟だけがナチュラル。遠藤はいるだけでギラギラしていて意味ありげに見えるからか。

タイトルバックの画も、題名の背景が海になり、そのほか、橋を渡っていく西郷、クジラ、水がうねって海面に上昇していくカットなどマイナーチェンジをした。

糸との再会


京都に行く前に薩摩でのお話も少々。
西郷家は貧しさに売られてしまいさらに小さな家になった。
大山(北村有起哉)、海江田(高橋光臣)が西郷に会いに訪ねてくるが、以前の血気盛んな感じはなくなり、わざとらしいくらいしょげている。名優・北村有起哉をもってしても、やりようのないこともあるんだなと思った場面。酒を酌み交わしながら、今の薩摩と長州の険悪さなどが説明される。
吉之助は殿からもらった剣に誓いを立て、新八と共に京都へ向かう。
そして橋の上で、慌ただしく走っている糸(黒木華)と再会。5、6話で印象的に使われた橋が再登場、糸と吉之助には「橋」がつきもののようだ。

ニコニコさりげなく会話して別れた後、糸は、意味深げに去っていく西郷を振り返る。

26話はカット尻を長めに残し何か意味ありげに見せるカットがいくつも出て来た。
岩倉や竜馬の登場のところに、糸、そして一橋慶喜(松田翔太)のいくつかの局面におけるアップ。あと、謎の乞食の背中。謎と書いたが、だいたいの視聴者はわかっていると思うが一応、謎としておく。

ライアーゲームか


26話は、一橋慶喜(松田翔太)の表情の変化が見ものだった。
まず天子様(中村児太郎)を見つめた時、不思議な表情をしていたことをはじめとして、暗殺されそうになって平岡が身代わりに殺された時はカットをたくさん使って慶喜の怯えが表現された。
急に久光(青木崇高)と和解しようとする時は、憑き物がとれたかのようにさっぱりにこにこ微笑んでいる表情が逆にこわい。
「だれが敵で誰が味方かわからない」と言っているので、ライヤーゲーム(松田の代表作)はじまったー!という感じがした。
「(慶喜の)目の奥になにか不気味なものを感じる吉之助でありました」(ナレーション・西田敏行)で27話に続く。
松田翔太はキッと目元口元引き締めているのがデフォルトかと思っていたので、顔の各パーツを下げる柔らかい顔もするのだなあと驚いた。

青木崇高、頑張る


一方、慶喜に虐められてきた久光は、カメラワークに頼らず、ぐいぐい動く。
京都では薩摩は「薩賊」と謗られ、長州の力が強くなっていたが、西郷は日本のために島流しにあった英雄という伝説が流布している、その伝説を利用して吉之助にはがんばってもらわないといけないと考える大久保は、
再び、久光と対面させるが、久光は許す気はなかった。
ぎりぎりとキセルを噛み歯型をつけるほどの勢いで、すぐに「下がれ」と命じる。
青木崇高だけが外連味あふれる芝居で役を印象づけている。

面白いのは、偉大なる兄・島津斉彬(渡辺謙)になれない苦しみを背負っている弟・久光演じる青木は、最も渡辺謙のような、ポイント、ポイントで“見せる”芝居をしていることだ。
この手の芝居をするのは、あとは北村有起哉、そして石橋蓮司。
鈴木亮平にこそこの伝統を継いだ芝居をしてほしい。一橋慶喜に「似てきたな、斉彬殿に」と言われるくらいなのだから。だが鈴木は一向にそういう感じにならない。「西郷どん」の西郷はあえてそうでないのかもしれず。今後の展開を注視したい。

久光に冷たくされすごすご西郷が出ていくとき、ふすまから漏れる光の中に、大久保がいて、ふすまをしめると大久保も影に飲み込まれる。久光、西郷の間に立った大久保の絶望を感じるような画が素敵だった。

女性の描き方


復活の糸のほかにも女性陣が活躍しそうな気配。
鍵屋の虎(近藤春菜)はコメディリリーフ的に西郷に夢中。
芸姑のおゆう(内田有紀)は、薩摩をもり立てようとお座敷で薩摩名物畳まわしをしている大久保(今でいう接待のひとつだろう)がすっかり宴会芸に疲れてひっくり返っていると、赤くなった手を手ぬぐいで冷やす。


おゆう「おおきに」
大久保「おおきに」
新八「おおきに?  そういうなかじゃったとでごわすか?」
新八が疑いの顔を向けるが、吉之助がちょっと新八に触って何か合図している。軽妙な劇伴がかかる。
これはいったいどういう暗示なのか。大久保は否定したがきっと何かあるということなんだと思うが。

ふき(高梨臨)は鍵屋に西郷を訪ねて来て、「これをうちの人から預かってまいりました」と一橋慶喜からの文を渡す。宛名には「牛男」と書いてある。
一橋に身請けされていたふき。側室は「うちの人」なんて言い方をするのだろうか。なんだかすごく庶民的に響いた。「手前勝手な人で申し訳ありません」という言い方もなんか幼さが残る。幼い頃故郷を出て転々としながら生き抜いてきた人物には全然見えない。

革命編になって渋い話になるかと思ったら、全体的に視聴年齢層を低く設定しているような気がした。

相変わらずそれぞれの政策や思想をあまり語らず、「かよわき民を守る」という軸一本で物語は進んでいく。
徳川も薩摩も長州もない、強き者が弱き者を守るのは大事なことだけれど、「命は大切」と同様、深いところは書かれそうにない。吐く台詞にそういうものがないから俳優も芝居のしようがなく、代わりにカットを多用したり長めにカット尻を残したりして画でインパクトを出し、ビジュアルで視聴者に訴えかけるしかなくなっている気がする。ライアーゲームのようなティーン向けのだまし合戦ドラマにするつもりなんじゃないかと戦々恐々だ。
(木俣冬)

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